第13話
何度か王城に出入りするうちに、エリザベスは王妃付きの女性騎士を見かけるようになった。剣を携え、颯爽と動き、男性騎士と同じデザインの制服をより素敵に着こなし、女性としての美しさを失っていない。王妃の全面的な信頼を受ける姿に、自分が目指すのはあれだと確信した。
「王妃様をお守りできるような騎士になるには、どうしたらいいですか?」
エリザベスは女性騎士に尋ねた。
「それには強さはもちろん、礼儀も、教養も身につける必要があります。時にはドレスを着てお守りすることだってあります。どんな姿でも戦えるよう、男性騎士とは違った特別な訓練を受けているのですよ」
その話はエリザベスの考え方を変えた。
令嬢として生きることをやめてしまえばもっと楽に自分らしく生きていける、そう思っていたのだが、そうしたことを身につけることで自分のやりたいことに近づけるかもしれない。
それ以来、エリザベスは苦手意識の強かった令嬢としての礼儀作法を積極的に学ぶようになった。マナーや所作を身につけるだけにとどまらず、パトリシアからお古のドレスをもらい受け、あえて動きにくい格好で作法に乗っ取りながら剣技や格闘技を鍛えることも怠らなかった。
目標は将来王妃になると噂されているパトリシアの護衛になること。パトリシアも公爵家の護衛達もエリザベスの夢を応援してくれた。
城の中にも知り合いが増えていった。
王城に同行してもパトリシアだけが呼ばれ、待ち時間も多い。パトリシアから自由にしていいと許しがあると護衛騎士の詰所に行って見学し、時には服を着替えて剣の指導を受けることもあった。剣の筋も良いエリザベスは女性騎士達からも可愛がられ、本格的に王城の女性騎士を目指さないかと勧誘されることもあった。
やがてエリザベスはパトリシアの正式な護衛として認められ、城内で帯剣することが許されるようになると公爵家の護衛の制服を身にまとい、付き添いの令嬢としてではなく護衛としてパトリシアに同行するようになった。
ある日パトリシアが忘れ物をし、代わりにエリザベスが応接室に取りに戻った帰りにエイベルと出くわした。王妃の護衛以外で女性が護衛についているのを見たことがなかったエイベルは、その姿に興味を引かれた。
「おまえは、パトリシア嬢の…」
王子から話しかけられると思わなかったエリザベスは、少し慌てながらも懸命に平静を装い、
「つたないながらも護衛を務めることになりました」
と答え、とりあえず礼だ、と頭を下げた。すぐにいなくなるだろうと思っていたのに王子は足を止めたままで、内心うわーっと焦りながら早くいなくなることを祈り、そのまま頭を下げ続けた。しかしエイベルは立ち去ることなく、続いて質問をしてきた。
「女性の身で護衛になるとは…。女性は華やかな表舞台を好むものだと思っていたが、誰かを守り、背後で控えるのはどういう気持ちなのだろうか」
その質問を投げかけたエイベルは護衛になったエリザベスを特段貶むような様子もなく、至って真面目な顔をしていた。エリザベスは思ったままを口にした。
「王が国を守ることと、護衛が人を守ることはそんなに違うものですか? 私がお姉様を守るように、エイベル様、あなたはこの国を守るのでしょう?」
「…そうか。どちらも変わらない…か」
何に納得したのかはわからなかったが、エイベルは軽く頷いた後いなくなってくれた。エリザベスはほっとして、馬車で待っているパトリシアの元へ足早に戻っていった。
後になって護衛である自分が王族の名前を許可なく呼んでしまったことに気がつき、青くなった。下手すれば不敬罪に問われることだってある。公爵の耳に入れば護衛から降ろされてしまうかもしれない。
幸いエイベルは気がついていないようだったが、今後は同じミスをしないよう気を引き締めるべく自分の両頬をバシッと両手でたたいた。
「どうしたの?」
帰りの馬車の中での突然のエリザベスの奇行に心配して声をかけたパトリシアに、
「気合いです」
と答えになっていない答えを返した。
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