ちーちゃんとマコトくん!
猫柳 星
第1話 ちーちゃん、お庭で遊ぶ
ちーちゃんは、まことくんのお庭がだいすきだった。
広くて大きなお庭には、四季折々の花が咲いていて、真ん中には空へまっすぐ伸びる大きな木が立っている。夏の陽ざしがじりじりと降りそそいでも、その木の影はやさしく地面を覆ってくれて、そこにいると不思議と涼しかった。
「ちーちゃん、きょうは少し涼しいね」
ベンチに腰かけていたまことくんが、低くて落ち着いた声でそう言った。
「うん! セミさんも、ちょっとおやすみしてるの」
ちーちゃんは首を大きく振って、木の上を見上げた。
「そうだねぇ。あんなに一日じゅう鳴いていたら、きっと疲れちゃうよね」
低めの声が、木陰にやわらかく広がった。その声を聞くだけで、ちーちゃんは胸の奥があたたかくなる気がした。
まことくんは背が高くて、頭もよくて、いつもやさしい。けれど、ちーちゃんが一番好きなのは、その声だった。低いけれど怖くなくて、静かな水のようにすぅっと耳に入ってくる。
「ねぇまことくん、この木の上にはね……おばけがすんでるんだよ」
ちーちゃんは目をきらきらさせながら言った。
「ふふ……そうなんだ。どんなおばけなんだろう」
「えっとね、ちっちゃくて、ひかってて、ねむそうなの!」
「なるほどねぇ。じゃあ夜になると星みたいに光るのかな」
「そうそう! まことくん、しってたの?」
「ちーちゃんに教えてもらったからね」
ちーちゃんはぱちぱちと手を叩いた。まことくんは、どんなお話もにこにこと聞いてくれる。ちーちゃんの空想を「ばかばかしい」なんて言ったことは一度もなかった。
「じゃあね、この石もしゃべるんだよ」
花壇のそばの丸い石を指さすと、まことくんは軽くうなずいた。
「へえ、なんて言うのかな」
「おなかすいたって!」
「それは困ったねぇ。おやつをあげなくちゃ」
「なにたべるかな? ビスケット?」
「うん、ビスケットなら喜ぶと思うよ」
ちーちゃんは真剣な顔でしゃがみこみ、地面に葉っぱを置いた。
「はい、ビスケットだよ」
「きっと、“おいしい”って言ってるね」
「うん! いま、にこってした!」
低めでやさしい声が、石ころにもしっかり届いているみたいだった。
(― 続く ―)
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