第52話 私と貴女52
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したところで彼女から離れることにしました。
これ以上、迷惑をかけるわけにはいきませんから。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、彼女は優しく微笑んでくれました。
その笑みを見ると胸がキュンとなります。
やっぱり可愛いです。
そんな彼女を手放したくないと思います。
でも、それは叶わない願いなのでしょうけど……。
それでも諦めきれませんし、諦めるつもりもありません。
だから私は決意しました。
必ず改めてもう一度、彼女を振り向かせて見せるのだと!
その為ならどんな努力だって惜しまないつもりです。
そう心に誓いました。
そして、改めて彼女に向き直りましたが言葉が出てきません。
何を言えばいいのか分からないのです。
ただ黙って見つめ合うことしかできませんでした。
そんな沈黙に耐えられなくなったのか、彼女が口を開きます
「瑠璃?」
心配そうな表情を浮かべていますが、大丈夫ですと答えます。
それから深呼吸をして心を落ち着かせました。
そして、意を決して口を開きます。
そうすると彼女も真剣な表情になりました。
恐らく、何か重要な話があると察したのでしょう。
その勘は当たっています。
これから伝える言葉は私の人生において最も大事なものになるでしょうから。
なので、慎重に言葉を選びます。
そうして出した結論を伝えるために口を開くのでした。
「実は……その……言いづらいんだけど」
そこまで言ったところで言葉に詰まってしまいます。
どう表現すれば良いのか、迷った末に出た答えをそのまま伝えることにしました。
「私達……もう、終わりにしなきゃいけないの?
だってお互いにこれだけ愛しているのに」
そう言うと彼女は悲しげな表情を浮かべました。
その反応を見て確信しました。
やはり、原因は母親なのでしょう。
でなければ、こんな展開になるわけがないですから。
となると、打つ手なしです。
せめてもの救いは彼女も納得していることです。
これが、もし一方通行だったら悲劇以外の何物でもないですから。
不幸中の幸いといったところでしょうか?
とにかく、今はこの現実を受け入れるしかないでしょう。
そう結論づけて彼女を見ると、彼女も私を見つめていました。
その瞳は潤んでおり今にも泣き出しそうです。
それを見て胸が締め付けられるような痛みを感じます。
こんな風にさせてしまった自分が情けなくて仕方ありません。
けれど、後悔している暇はありません。
今の自分にできる精一杯のことをやるだけです。
そう決意して再び口を開きました。
そうすると彼女も続くように口を開きます。
お互いに同時に喋り出すと、当然被ってしまうわけです。
お互いに譲り合って結局、私が先に喋ることになりました。
そして、静かに話し始めます。
それは彼女にとって残酷な内容でしたが、最後まで伝えました。
その後、しばらく沈黙が続きましたが、やがて彼女が口を開きました。
それは予想外の返事でした。
「うん、分かったわ」
そう言って笑顔を見せてくれたのです。
その笑顔を見て心が救われた気がしました。
本当に良かったです。
これで安心して別れることができます。
そう思った瞬間、視界が歪みました。
涙が頬を伝います。
そんな私を見て彼女が慌ててハンカチを渡してくれました。
それを受け取って目に当てると、温かい液体が染み込んできました。
それを指で拭うと少しだけ気分が落ち着きました。
改めて感謝の気持ちを伝えると、彼女は照れ臭そうに微笑んでくれました。
そんな仕草さえ愛おしく感じてしまいます。
そして、再び静寂が訪れましたが今度は気まずさはありませんでした。
寧ろ心地よいとさえ思えました。
だからこそ、言わなければならないことがあります。
それが何かといえば……。
正直、口に出すのも憚られるのですが言わなければ先に進めないのです。
なので覚悟を決めて口を開きます。
そうすると彼女も真剣な眼差しで見つめてきました。
その視線を受け止めながら言葉を紡ぎます。
「別れたくない!」
そう伝えると彼女は驚いたような表情を浮かべました。
おそらく予想外だったのでしょう。
ですが、これだけは譲れません。
断固として抵抗します。
そうして睨み合うこと数分後、彼女が諦めたように溜息をつきました。
それを見てホッとします。
これで一安心です。
もう何も心配ありません。
そう思って油断していたのがいけなかったのでしょう。
次の瞬間、視界が真っ暗になりました。
どうやら抱きつかれたようです。
突然の事態に混乱していると耳元で声が聞こえました。
「絶対に別れないから!」
その宣言を聞いた途端、全身が熱くなるのを感じました。
嬉しい気持ちでいっぱいになり思わず抱きしめ返してしまいました。
そして、お互いに抱擁を交わします。
どれくらい経っただろうか?
いや、正確には分からないけれど長い時間に思えたことは確かです。
それほど濃密で特別なひと時だったことは間違いありません。
「瑠璃、キスしよ!」
そんな甘美な囁きと共に唇を奪われてしまいました。
抵抗する気はさらさらありませんでしたが、一応形だけは抗っておきます。
けれど、あっさり押し切られて受け入れてしまいます。
その後は欲望の赴くままに貪り続けました。
舌と舌を絡め合い、唾液を交換し合います。
時折漏れる吐息も興奮材料となり理性が崩壊しそうになります。
しかし、なんとか耐えて行為を続けます。
そうしているうちに限界を迎えてしまい唇を離しました。
二人の間に透明な橋がかかります。
その光景が艶めかしく感じてしまいドキドキしました。
そんな私の心情を知ってか知らずか、彼女は妖艶な笑みを浮かべて言いました。
「まだ、足りないよね?」
「そうだね」
お互いに同意し合い行為を再開します。
先程よりも激しく求め合い、時には優しく触れ合います。
その度に心が満たされていくのを感じます。
永遠に続いてほしいと思うくらい幸せな時間でした。
だからこそ、終わりが来るのが惜しく感じられます。
もっと一緒に居たいと思いますし、もっと愛し合いたいとも思います。
そんな葛藤を抱いていると不意に彼女が動きを止めました。
どうしたのだろうと疑問に思っていると耳元で囁いてきます。
「やっぱり別れようか?」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になりました。
意味が理解できず硬直していると再び彼女が話しかけてきます。
「だって、もう十分楽しんだでしょ? これ以上続ける理由なんてないじゃない」
その意見は正しいように思えました。
確かに楽しかったですし満足もしています。
ならば、もう別れても問題ないのではないかという考えが頭を過ぎります。
しかし、ここで終わりにしたくはないという気持ちもあります。
相反する思考がぶつかり合います。
そんな葛藤をしていると彼女が口を開きました。
「あっ! 待って! 私……言葉を間違えた! ごめん! 本当は別れたくないから……」
その台詞を聞いて安心しました。
やっぱり別れたくはなかったみたいです。
だとすれば尚更引き下がるわけにはいきませんね!
なので覚悟を決めて彼女に告げるのです。
そうすると彼女は驚いたような表情を浮かべました。
けれどすぐに笑顔になりこう言いました。
「別れたくないなら方法はあるよ!」
そう言って提案された内容というのは想像以上のものでした。
まさかこんな展開になるとは思ってもいませんでした。
正直驚きを隠せません。
でも、それ以上に喜びの方が大きいです。
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