学校で完璧美少女と呼ばれている眠空さんの本当の姿を僕だけが知っている
夜空 叶ト
第1話 眠空さんとの衝撃(恐怖)の出会い
「なあ、お
「お前……この顔見てそれを聞いてくんのかよ。デリカシーどこ行ってんだ? 胎盤にでも置いてきちまったのかよ」
「……いいすぎだろ。まあ、わかりきってることを聞いちまった俺もわりぃんだけどさ」
昼休みの教室でそんな会話が僕の前で繰り広げられていた。
人の机の前でそんな話をして欲しくは無いんだけど、それを本人たちに言う勇気も僕には無かったから素直に自分の机に広げられている弁当を食べる。
「にしても、眠空さんは誰かと付き合う気あるんかな? お前なんて振られたんだよ」
「なんか、好きな人がいるって断られた。一体誰のことが好きなんだ……」
「あの眠空さんが好きになるような人なんだからめちゃくちゃすごいイケメンなんだろうなぁ」
なんで、僕の机の前で話すの???
そう言う話って本人が居ないところで話すんじゃないの?
思いっきり眠空さん教室に居るけど。
これはわざと聞こえるように言ってるのか?
「ま、俺らが考えても仕方ないことだしな。学食でも行くか」
「だな。今日はやけ食いするぞ!」
「ほどほどにしとけよな」
そんな会話を目の前で繰り広げながら男子たちは教室を後にした。
これが俺のクラス内での立ち位置だ。
とくに友達もいなくて一緒に昼ご飯を食べてくれる人もいない。
完全な日陰者だ。
別にそれを不満に思った事なんて一度もない。
本当にないったらない。
「でも、友達くらいは欲しいよな」
窓際の席に座っている僕の独白を聞いているクラスメイトは一人もいなかった。
もうそろそろ夏場になるからか、生暖かい風が僕の頬を撫でる。
これが、高校二年の僕の生活。
なに一つ代わり映えしない日常の一ページだった。
◇
「んじゃあ、今日はこれで終わりだな。明日から土日だからって怠けるなよ~特に問題だけは起こさないでくれ」
担任がめんどくさそうにそう言うとすぐに教室を後にする。
それに続いてクラスメイト達も続々と教室から出て行った。
みんなノリノリで帰っているから、もしかしたら今から遊びに行くのかもしれない。
「はぁ、帰るか」
僕には放課後に遊びに行くような友達がいないという現実に打ちのめされながら僕は荷物をまとめる。
「眠空さん、ちょっといいかな? 話したい事があるんだ」
「えっと、私ですか?」
「ああ、できれば人気のないところで聞いてほしい」
「わかりました。では、行きましょうか」
荷物をまとめていると、金髪のいかにも陽キャそうな男子生徒が眠空さんに声をかけていた。
彼女は少し戸惑った様子を見せた後にその男子生徒についていった。
もしかしたら、眠空さんの撃墜記録が途絶えるのかもしれないとしょうもないことを考えながら教室を後にした。
「はぁ、みんな青春してていいなぁ~」
少し羨ましくはあるけど、僕は自分自身が陽キャ達のようにうぇ~いしている姿が想像できない。
想像できないことは実現できない。
つまり、僕に青春を送ることはできないという事だ。
「なんてこった」
肩を落としながら帰る僕の姿はきっと哀愁漂うものだっただろう。
まあ、誰にも見向きをされないわけだけど。
「こんなこと考えてたら、帰りたくなくなってきた。しかも、今帰ると昇降口に青春を送ってる高校生が多そうだし」
家に帰ろうとしていた足はぴたりと止まり、気が付けば人気のない屋上に足を向けていた。
学校の有名スポットで鍵は締まっているように見えてしまっていない。
少し力を込めて押すとすぐに開いてしまうのだ。
「はぁ、俺。結構魅力的だと思うんだけどな」
屋上に続く階段を上がっていると階段を下りているイケメンがいた。
どこか見覚えがある気がしたけど、僕にイケメンの知り合いはいないため気のせいだろう。
「ていうか、屋上でなにしてたんだろう」
疑問に思いながら屋上の扉に手をかけると、どうやら開いていたようで力を入れなくてもすんなり扉が開いた。
「はぁ、最近こういうの多くて嫌だな。大体ほとんど話したことないような男の子だし。好きな人いるって言ってんのに告白する男は増えるし。どうしたもんかな」
屋上に立っていたのは学校の圧倒的カースト上位者である眠空さんだった。
太陽の光を反射して光り輝く銀色の腰の上まで伸びた長髪。
あまりにも綺麗で見ていると吸い込まれるような夜空色の瞳。
身長が高くてかなりスタイルがいい。
学校指定の制服をキッチリと着こなした彼女はとても凛々しく美しい。
しかし、彼女の噂について回る完璧超人の顔はなりを潜めていてため息をついていた。
「……完璧って言葉はやっぱりないんだろうな」
そんな姿をみた僕はやはり、噂はそんなものだったのだろうと思った。
なんだか、見てはいけないものを見てしまった気分になって僕は屋上の扉をそっと閉めようとしたのだが……
「ギィ」
屋上の扉が老朽化していたのか、不快な音が屋上に響き渡った。
直前まで屋上から昇降口を眺めていた眠空さんは般若のような形相でこちらを凝視していた。
「誰っ!?」
いつもの鈴のような穏やかで優しい声ではなく、とても鋭くて温かみのない声だった。
「……」
何も言葉を発しずに、息を潜めて彼女が気のせいと思ってくれることに賭けて俺は不動を貫いた。
が、そんな僕の希望的観測虚しく彼女は猛スピードでこちらにずかずか駈け寄ってきた。
(これ、アカン奴じゃない?)
そう僕が思ったころには屋上の扉がガンっと勢いよく開かれた。
「……どこから聞いてましたか?」
いつものようにニコッと微笑みかけてくるけど、全然目がわかっていない。
笑っていないどころか据わっている。
「……なんのことでしょうか?」
こんな修羅場を経験したことが無い。
どころか、人と会話をした経験が極端に乏しかった僕がまともに返答できるわけもなく、目が泳ぎまくっていた。
それが自覚できるほどには。
「私、嘘は嫌いだなぁ。で? どこからどこまでを見て聞いたかって聞いてるんだけど、答えてくれるよね?」
「……はい」
圧倒的な圧。
完全に自分より上位の存在に詰め寄られる感覚。
恐怖だ。
そんな恐怖に支配された僕に断るっていう選択肢は存在しなかった。
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