第15話 変わってしまった幼馴染

 いつもの如く、眠れず、空に浮かぶ星々を眺め、考えながら訓練場まで歩んで来てしまった。


 (僕はどうしたら良いんだ?)


 こんな異世界へ来て、戦う力を持っていない。


 城を出て、自由に生きることだって出来る。責任から逃れて、


 しかし、そんなことを考えている時に浮かんでくるのがじゃがいもを渡してくれた料理長の笑顔。


 そして、大森君。細山田君。原田先生。西川さん。加藤君。友達の笑顔だった。


 (でも、このままで良いのかな)


 僕は、そんなことを考えながら訓練場のベンチに座る。すると後ろから、声をかけられる。


「誰だ!?」


「あっ、すいません。って、加藤君」


 そして彼 加藤かとう 大輔だいすけは僕の横に座り言う。


 僕の幼馴染であり、今でも親友だと思っている。僕が思っているだけだけど。


 高校で全く交流なかった。それに


(……)


 アイツの周りには人がたくさんいる。人気者だ。なんだか、かなり人種が違う。だから、


()


「なんだ?悩みでもあるのか?」


(あ、あ……なんで、だよ)


 高校で交流なんかなかったのに……なんで、こうも見透かされるんだよ


(やっぱ、大ちゃんには敵わないや)


 そして僕は、そう思い、苦笑いして言う。


 やっぱり、幼馴染の大輔には隠し事は出来ないや。


 そして僕は、大輔に自分の悩みを全部話した。


 全てを聞き終わった後、彼は僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。


 その行動が嫌で僕から話し出す。


「僕は英雄じゃないから……」


 本当は、ちょっと嬉しかったりしたが、そんな感情に気づかれたくなかった。


 その言葉を聞いた彼は怒り気味で言ったのだ。


「お前さ、英雄って言葉を簡単に使い過ぎだぞ。俺から見れば、言い訳にしか聞こえないんだよ」


 第一声がこれだった。


 それは僕にとって衝撃的な言葉だった。


「お前に……お前なんかに……」


 そんな僕の心を見透されているかのようだった。


 豊富な知識に加えて責任感・正義感が強く、周囲の期待に応えられて


 歳不相応に真面目で礼儀正しいそんな君と


 ドジで、怠け者で、のろまで、弱虫で、内気でおどおどしてる僕。


 そんな君に……君なんかに


「僕の気持ちなんてわかってたまるもんかよ!!」


 この異世界に来てから、初めて僕が求めていた言葉だと感じたからだ。


 しかし、人間は正論を突かれるとムキになってしまう。そういう生き物だ。


  僕は反射的に、その事を言ってしまう。


「何をしとるか!? そんな所に座ってたら、風邪引くぞ。早く屋内に戻れ!」


「あっ、すいません。ローレンス騎士団長」


 僕に話しかけたのは、帝国騎士団の団長のローレンスさん。


 この人はとても優しい人で、異世界に来た僕にも親切にしてくれる人だ。


「って、お前さんは一人で何してんだ!?」


「すみません、寝れなくて……」


 (あれ、大ちゃんは?隣で座っていたのに……)


 ローレンスさんは、僕の顔を見ると何か納得していた。


 さっき手当てする時、絶対、僕の身体が浮腫んでいたのを見て知っている。


 だからローレンスさんは、僕の顔を覚えていたのだと思う。


 そしてローレンスさんは大輔くんがいた場所に座り言う。


「なんだ?なにかあったのか?」


「あの子は悪くないんです。なのに僕はあの子に悪いこと言っちゃった」


 そして僕は、すすり泣きながら言う。


「僕、最低だ。正論突かれたからって、あの子に当たって……勝手に人を決め付けて、、」


 ……いや、本当は分かっていたんだ。


 僕はただ、意固地になっているだけなのだと。


 そんな単純なことで良かったはずなのに。


 それを認めたくなくて無茶苦茶しているだけなのだと。


 ああクソっ! なんでこうなっちまうんだよ!! なんでこうなっちまうんだ……


 どうしてなんだぁああああ!!!!!!


 どうせ何やってもあいつには勝てなくて、 僕の我儘なのだ……全てはぼくの……。


 ローレンスさんはそんな僕を抱き寄せる。胸板が硬く、動くための筋肉が付いていた。


「こんなオッサンで良ければ、胸貸すぜ」


 そう言って泣き続けたのだ。





 ■





 人が来て、気まずくなって、隠れてしまった。アイツ 『よもぎん』 は変わってしまった。人が変わってしまったかのように


 昔は俺に向かって来てくれる奴だったのに、なんで今は……。


 ただ俺は、ただただアイツに昔のようになって欲しかっただけなのに。


 いつも隣で笑い合っていた時みたいに……


 だからまたあの頃みたいに、一緒に笑い合って過ごしたいだけなのに……。


 でももうそれは叶わないのか? 分からない……もう俺には分からないよ……。


 ずっとあの日々を俺は忘れていない。


 ……なぁ、教えてくれよ。


 なんでお前は変わってしまったんだよ……。


 俺の知っているお前はもうどこにもいないのかよ……。


 またあの頃みたいに笑い合いたいだけなのに……。


 ……もう無理だって言うのか? もうどうにもならないのかよ!


 なぁ、教えてくれよ……。


 お前は本当に俺の知っているアイツなのか……?


 いつの間にか俺は泣いていた。あいつが変わってしまったから……。


 あいつが変わってしまったから……。


 なんでこうなってしまったのだろう、どうしてなんだ……。


 何も出来なかった俺が悪いのか……? それともこれが俺への罰なのか……?


 もう俺の知るお前には戻れないのかよ!? 俺はどうすれば良かったんだよ!?


 教えてくれよ……なんで……



 ……この言葉が……離れねぇんだよ……

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