暗い空: ――金と策略に支配される街
神田啓太
太陽の重み
サンウィの太陽は重く昇り、錆びた小屋の屋根を押し潰し、埃まみれの路地を金床に打ちつける槌のように叩きつけていた。
この忘れられた地では、夜明けは希望を運ばない。ただ、生き延びるための一日が始まることを告げるだけだった。
シエル・ダークネス、十六歳。
彼は崩れかけた家の段に腰を下ろした。履き古したサンダルは奇跡的にまだ形を保ち、破れたズボンからは擦りむいた膝が覗いている。
周囲では子供たちが萎んだボールを追いかけて笑っていた。だが、シエルは笑わない。その瞳は遠く、誰にも見えない思考に釘付けだった。
――シエル! ご飯よ!
家の中から声がした。
彼は入った。狭く暗い台所には、茹でた米の匂いが満ちている。母、カジヴァー・ダークネスは火のそばで忙しく動いていた。
彼女の手は細く、だが火傷や傷跡に覆われていた。顔には疲れが刻まれていたが、その瞳には揺るぎない優しさが宿っていた。
――さあ、食べなさい。
そう言って、母は彼の前にほとんど空の椀を置いた。
シエルは目を落とす。米は少なく、水で膨らませられて、量が多いように見せかけていた。母の椀を見れば、さらに少ない。
彼は黙って自分の分を母の椀に移した。
カジヴァーは黙って見つめ、何も言わなかった。ただ、その瞳が静かに光った。
その時、扉が乱暴に開いた。兄のブリセン・ダークネスが手を叩きながら入ってきた。存在を誇示するかのように。
皺だらけのシャツに、唇の端には煙草。そして笑みには傲慢が刻まれている。
――また殉教者ぶってるのか、弟よ?
ブリセンはシエルの半分しか入っていない椀を見て吐き捨てた。
――殉教じゃない。分け合ってるだけだ。
シエルは静かに答える。
――分け合う? フッ。ここは弱肉強食だ。食いたければ奪え。盗め。あるいは――
彼は汚れた札束をテーブルに叩きつけた。
カジヴァーは身を強張らせたが、何も言わなかった。
――ほら、これが本当の食い物だ。夢じゃない。綺麗ごとでもない。札束だ。
ブリセンは続けた。
シエルは目を逸らした。札束から漂うのは、埃と汗、そして血の匂いだった。
夜になると、シエルは一人で外へ出た。
サンウィは日が沈むと別の顔を見せる。路地は影と囁きに満ち、闇市は獣のように蠢き出す。
彼は輪になった男たちの前で立ち止まった。顔は半ば隠され、中心には米袋が積まれている。
――一袋五枚だ!
――嘘をつくな、明日には十枚だ!もう手に入らん!
――デマだ、収穫が届く!
怒号が飛び交う。
シエルは観察した。いつもの静かな瞳が素早く動き、仕草一つ、言葉一つを逃さず読み取る。
そして気づいた。米の価値は変わっていない。袋は同じようにそこにある。変わっているのは――言葉だ。
痩せた男が低い声で言い放った。
――明日、道は封鎖される。輸送はない。今夜買わぬ者は明日餓死する。
その瞬間、競りは跳ね上がった。
男たちは袋を武器のように奪い合った。
シエルは拳を握りしめた。
価値があるのは米ではない。幻想だ。認識だ。
彼は長くその場に留まり、全てを吸い込むように観察した。
家に戻ると、ブリセンが二人の胡散臭い男と座っていた。机には乱雑に書かれた契約書が散らばっている。
――シエル、来い。これが取引ってもんだ。
ブリセンは皮肉げに笑った。
シエルは近づく。男たちは早口で話していた。
第三条:即時譲渡。第五条:損失の全責任は譲渡者に。
シエルは眉をひそめる。明らかな罠だ。ブリセンが署名すれば全てを失う。
――待って。
彼は兄の袖を軽く引いた。
――何だ?
――よく読んで。これは売ってるんじゃない。差し出してるだけだ。
ブリセンは目を細め、再び読み返す。そして目を見開いた。
――この野郎ども…!
怒声と共に紙を叩き捨てた。
二人の男は舌打ちして立ち去った。
ブリセンは驚きの眼差しで弟を見た。
――どうやって気づいた?
――隠そうとした言葉を、読んだだけ。
シエルの声は冷静だった。
その瞬間、ブリセンの目に映る弟は、もはや無垢な子供ではなかった。彼は自分以上に遠くを見ている。
その夜、狭い部屋でシエルは古びた手帳を開いた。
震える筆跡で書き記す。
金は武器である。
言葉は人を殺す。
約束は契約。破ればすべてを失う。
彼は手帳を閉じた。心臓が激しく打ち、胸が熱くなる。
新しい世界の扉が、彼の前に開かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます