第10話重さと関係
≪星海side≫
授業を終えた星海は、上椿にメッセージを送った。
『今日暇?暇だったら映画一緒に見に行かない?』
今日は星海が楽しみにしていた新作映画の公開日。既にチケットは予約してあるため、良太郎の返事を待つのみだ。
急な誘いだったが、たまにはいいだろうという安易な考えは、すぐに打ち砕かれることになる。
『わり、今日はダチと遊ぶから無理』
あっさりと断られたことが気に食わなかった星海は、一歩踏み出してメッセージを打ち込んだ。
『いつなら空いてる?良かったら二人で見に行きたいな』
『あー、予定はちょっとよくわからん。つーか、俺と野乃花ってセフレじゃん。デートとか、ちょっと重くね?笑』
一寸先に潜んでいた言葉の槍が星海を貫いた。
上椿の言葉は、奇しくも正論だった。
星海と上椿はあくまでセフレ。カップルではない。
上椿がデートを拒否するというのなら、無理につき合わせる権利など星海は持ち合わせていない。
その先のメッセージには既読がつかなかった。
星海の心には空虚な感情が広がった。
自分が求められているのは体だけ。星海野乃花という人間は求められていない。そんなことは理解して関係を結んだはずなのに、心に広がる虚に納得がいかない。
(……私、なんでこんなことしてるんだろ。体だけの関係だって言ってたのに……)
独り相撲だったと分かった瞬間に、自分の行動に疑問が芽生え始める。
自らが捨てた関係性を糧にするほどの価値がある関係だったのだろうか。星海は自分の心に問いかけてみるが、答えは出てこない。
代わりに脳裏に浮かんできたのは、自分がフッた男の顔だった。
(日向くんなら喜んでついてきてくれるんだろうけどな……)
日向を誘おうにも、切り捨てたのは自分。この前に誘ったときも、日向自らの言葉で突き放されてしまった。
後悔なんてあるはずがない。飽きたらまた友達として付き合ってくれる。そんな浅い考えは無情にも玉砕された。
(……ていうか、日向くんも日向くんだよね。私がいなくなった途端にあんな女にと遊ぶようになるなんて……!)
やり場のない感情は、如月に牙を剥いた。
もとを辿れば、身勝手な星海が元凶のはず。しかし、彼女の中に自分が悪いという考えは存在していない。自分を中心として生きてきた彼女の意識の根底には、他責思考が根付いてしまっていた。
如月という存在が星海は憎い。
自分から日向を奪った存在として認識している星海は、学園一と謳われる如月を敵対視している。彼女が如月に敵うはずもないというのに。
「____でさ、その映画が面白いらしくて」
(……日向くんだ)
ふらふらと玄関へと向かう最中、教室から出てくる日向の姿を見つけた星海は立ち止まる。その隣には、憎き相手の如月の姿。
「あら_____」
「……?どうした如月?」
「……なんでもないわ。わざわざ見るモノでもないし。さ、行きましょ」
如月は振り返ろうとした日向を諭して去っていく。
その去り際、彼女が星海に向けた侮蔑の視線と嘲笑は女としての優越感を存分にひけらかしたものだった。
「っ……!!」
その最上級の煽りに、星海は手も足も出ない。なぜなら、日向を捨てたのは他ならない星海なのだから。
(あいつ……!ちょっと顔が整ってるだけのくせに……!)
そんな三下が吐きそうな言葉を心の中で吐き出すことしかできない星海は、自分が如月に完全に劣っていることを本能的に察してしまった。
好きな男のために整っている容姿になお磨きをかけ、縛り付けるためにマーキングを繰り返し、一途に相手を想う如月と、変えようのない存在を自分の欲のためにあっさりと切り捨ててしまう星海。
想いの重さの時点で勝敗は決しているのだ。
(ていうかなんだよ彼女ヅラしやがって……これじゃあ私が悪いみたいじゃん)
誤魔化しきれない敗北感に苛まれる星海のポケットでスマホが揺れた。
『今夜俺ん家で』
短いメッセージを読んで星海はスマホを乱暴にポケットにつっこんだ。
こんな惨めな思いをしてもなお彼に従おうとする自分に、星海は吐き気がした。
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