失恋したことを学園で一番の美少女に伝えたら、急に激重感情を向けられるようになった
餅餠
第1話失恋と変化
「ごめんなさい。
風が青葉の爽やかな香りを運ぶ真昼時。俺、
昼休み。目の前で頭を下げた
星海とは映画鑑賞という共通の趣味から知り合った。最近は二人で映画の感想だったり、二人で映画館に行ったりなど徐々に距離を縮めていた。
彼女に対して抱いていた感情は友情とは違う、淡い感情。
星海から向けられる視線や言葉からも、他の人間からは感じられない特別を感じていた。
我慢しきれなくなった俺は告白に踏み切ったわけだが、どうやら俺の独り相撲だったらしい。
「……理由、聞いてもいいか?」
「えっと、それは……」
「そろそろ終わった~?」
言葉を詰まらせた星海の背後から一人の男が現れる。目が痛くなるような金髪に、口元や耳たぶに空いたピアス。俺とは違う世界に生きているであろう人間。
いかにもな見た目の彼は馴れ馴れしく星海の肩を掴んだ。
普段から派手な行動や言動が目立つ生徒だから、人間関係に明るくない俺でも知っている。
「日向くん、だっけ?ごめんな。こいつ俺の女なんだわ」
「え……?彼氏はいないって……」
俯いた星海の表情が、すべてを物語っていた。
ずきりと胸が痛んだ。次第に胸が張り裂けそうな衝動に襲われて、俺は誤魔化すように胸元を手で抑える。
俺は星海の真実を知る資格すらない人間だったのだ。
そんな俺の表情を見て、上椿はニタニタと不快な笑みを浮かべた。
「んじゃ、そういうことだから俺の女には手出すなよ。ははっ、いこーぜ野乃花」
星海は何を言うまでもなく去っていく。俺はそんな背中を呆然と見つめることしかできなかった。
▼▽
_____と、言うのが昼の話。
失恋の傷を負った日の帰り道はしんどい。
足が鉛のように重く、視線は地面に張り付いたままだ。周りから見たら、相当辛気臭い顔をしているのだろう。
なんとか体を動かして駅のホームに降りる。俺の耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある声だった。
「……やめてください」
「いーじゃん!君可愛いしさ、ちょっとだけ俺らと遊ぼーぜ。ちょっとだけだからさ」
「そうそう。別に悪いことはしないから。……なんだったら、友達呼んでもいいよ?」
「……うーわ」
髪色の派手な数人の男が、一人の女を囲んでいる。
女の制服には見覚えがあった。俺が通う
すらりとした立ち姿の濃藍色の髪の女は、その深海のような深い青の瞳で助けを求めている。
周りの人間は、見て見ぬふりをするばかり。……まったく、感心できないな。
男たちの姿が昼間の
「すいません、落としてますよ。……相手を思いやる心を」
「……はぁ?なんだお前」
「その子、拒否してますよね?もしかして耳が悪かったりします?」
「なんだよ、ガキが首突っ込んでくんな!」
「あーあ、どうせ大学でもモテないからこんなところでナンパして彼女作ろうとしてるんでしょ?……惨めですね」
昼間の鬱憤をぶつけるように挑発すると、男の内の一人が胸ぐらを掴んでくる。脅しのつもりだろうが、俺は動じない。
「警察、呼びますよ。ていうか、叫んだら駅員さんすぐに来ると思いますけど」
「テメェ……!」
「おい、やめとこうぜ……」
冷静な一人が咎めたことで男は俺の胸ぐらから手を離した。そして俺を睨みつけながら去っていく。
男たちの背中が見えなくなったところで、俺は立ち尽くしたままの女子生徒の元へと歩み寄った。
「美人も苦労が絶えないな、如月」
「……ありがとう。日向くんがいなかったら、どうなってたか……」
深く頭を下げたのは、
才色兼備、容姿端麗、羞月閉花。彼女に似合う言葉はどれも美しい。
そんな如月とは中学からの付き合い。特段仲が良いわけではないが、こうして顔を合わせた時には言葉を交わすぐらいの関係値だ。
如月と一つ席を空けて椅子に座った俺は、バッグからとあるものを取り出す。
手元には、いくつかの手紙。どれも如月に向けて宛てられたもの。
「ほい。これ今週の分」
「……ありがと」
如月は手紙を受け取ると、物憂げな瞳で読み始める。
学園中にファンのいる如月に恋心を寄せる人間は男女問わず多い。直接言葉で伝える者もいれば、手紙にその想いを綴る者もいる。
そうした人間の中でも、直接手渡す勇気のない人間は比較的関わりのある俺に手紙を託す。……郵便屋さんじゃねぇんだぞ。
こうしてラブレターを渡すのももはや恒例となっている。
一通り読み終えた如月は小さくため息をついた。
「気に入ったのはあったか?」
「あったらもっと喜んでる」
「モテるってのも、一概にいい事とは言えないよなぁ……それ、読み終わったらどうするんだ?」
「箱に入れて保管してる。……でも、最近かさばって困ってるのよね。せっかく書いてくれたモノだから、捨てるのもはばかられるし……」
「なら、燃やして灰にして庭にでも撒いたらどうだ?ちゃんと供養しないと亡霊が出てきそうだ」
「よくない煙が出そうね、それ」
如月の口元が少しだけ緩んだ。
学園ではその才能を遺憾なく発揮し、クールに振舞う如月の表情は基本的に固い。きっと俺には理解できない苦労の数々に見舞われているのだろう。そんな彼女が少しでも笑ってくれたら、俺は嬉しい。
「ところで、貴方からのラブレターはないの?」
「あるわけないだろ。渡したところで、玉砕するのが目に見えてる」
「……そうね。分からないけれど」
如月の自嘲的にも見える笑いは、乾いた声と共に霧散していった。
「日向くんはこういうの、興味なさそう」
「失恋したばかりだし、そういうのはしばらくはいいかな……」
「……えっ?」
如月の表情が凍った。その表情を見て、俺は小首を傾げる。……俺ってそんなに恋愛に無関心に見えるのかな?
「今日、星海に告白したんだけど、見事にフラれたよ。まったく、勘違いってのは恐ろしいよな」
「……して」
わざとらしく笑って見せた俺とは対照的に、如月の表情はどこか鬼気迫るものだった。
「どうして、私に言ってくれなかったの?」
「えっ、いや、如月には関係ないかなって……」
「関係ないわけないじゃない!」
身を乗り出した如月が俺に迫る。その表情からは怒りの感情が読み取れたが、その裏側には確かに悲しさが潜んでいた。
沈黙を埋めるような轟音が響き、如月が乗る電車がやってくる。如月はバッグを持ってすっと立ち上がった。
「……ごめんなさい。少し熱くなって」
「あ、あぁ、別に俺は大丈夫だ」
「それと……覚悟してて」
意味深な言葉を残して、如月は車両の中へと姿を消した。俺には背中を向けているため、表情は見えない。
ただ、乗り込む前の覚悟を決めたような如月の表情は、俺の脳裏にしっかりと焼き付いていた。
▼▽
≪如月side≫
『如月には関係ないかなって……』
それは、事実上の脈なし宣言だった。
日向くんは、私を前にしても動じることはない。それはきっと彼が恋愛に無関心だから。勝手にそう結論づけて安心していた私を殴りたい。
中学時代、孤立状況にあった私を助けてくれたのは日向くんだった。
理不尽に煙たがられる存在だった私に気にせず話しかけてくれて、先輩からのいやがらせを受けていた時は迷うことなく助けに入ってくれた。
そんな勇敢で頼れる日向くんに私は密かに想いを寄せている。
……でも、私は告白は愚か、彼に好きな人がいたことすら知らなかった。その事実がとても悔しくて、それ以上に苦しい。
いつまでも受け身に留まっていたのが間違いだったのだ。絶対に日向くんを他の女に渡さない。渡したくない。
彼の中を占める私の存在を大きくして、私の側から離れられないように縛り付ける。
そのために私は、今日から変わる。
「……覚悟してて」
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