第2話 胡散臭い神
「っ!」
裕貴の目の前には見たことのない場所、景色が広がっている。
「ここはどこだ?」
上には雲一つない青い空。下には緑の芝生が広がっている。
見たことのない景色なはずなのに、何故か分からないが裕貴はそれを心地よく感じている。
「風が気持ちいいな」
吹いた風が体に当たると、あまりの心地よさに芝生の上で寝転びたくなった。
「ていうか、ここは天国なのか?もしかしてさっきのは走馬灯!?」
寝てから夢を見ていきなりここに来た。つまりこれは自分が死んだ。そう思った裕貴は考える事を諦めたのかそのまま眠りにつく事にした。
「はぁ」
今までで味わった事のない心地よさに、眠りにつくまでは一瞬の事だった。
「うぅ~ん」
裕貴は目を覚ました、何時間経ったのだろうか。
『何だ?頭の下が柔らかい』
枕なんて無いはずなのに何かに包まれるような感触がある。
まるで美少女に膝枕をしてもらっている様な感覚だ。美少女に膝枕なんてしてもらった事が無い筈なのにそんな気持ちなった。
『もしかして本当に美少女なのでは!?』
そう思って上を見る。
「やっと目を覚ましたね」
そこには知らない男の顔があった。金色の服を着ていて、髪の毛は黒色。そして体から光が少し出ている。
まるで神様の様だ。
そして無駄にイケメン。
裕貴は今までの膝枕や頭撫で撫でがこの男がやっていたのだと思うと、「いやぁぁぁぁぁ!」といきなり悲鳴を上げ始めた。
「そんなに叫んで逃げられると流石に僕も傷つくよ」
ほんの少し悲しそうな顔をしながら男はそう言った。
「お、おおお前は誰だよ!」
悲しそうな顔をさせてしまった罪悪感を感じながら恐る恐る聞く。
「私は神だ!」
ぱぁぁぁと体中から光が出る自称神。信じたくないと裕貴は目を手で隠しながら思う。でも、実際に体から光が出ているし、ここは天国っぽいしで、嫌でも信じてしまいそうになる。
「あのー、その光眩しいから辞めてくれない?」
「あら、そう?」
残念そうに自称神は全ての光を出すのを辞めた。
いやその光全部消せるのかよ、と突っ込みたくなる。
「で、ここはどこ?」
さっきまでの驚きが一瞬で消えた裕貴はすぐに質問した。
「ここは死後の世界、君を別の世界に飛ばす場所だ」
この自称神が何を言っているのか分からなかったが、5秒秒程フリーズして理解した。
『つまり俺は本当に死んで、ここからは新しい人生が始まるという事か!?』
今までの人生で嫌なことばかり起きてきた裕貴は希望に満ち溢れた顔をしながら思う。
「それはつまり、異世界転生!」
「い〜や、転生じゃなくて召喚だね」
いきなり絶望に変わった。
なぜなら容姿は別に良い訳でも無く、友達も本当に数少なかったからだ。
こんな状態で召喚しても何も変わらないんじゃないかと思っている。
これは期待外れだと思っていると、「安心してよ、顔とかは別に変えられるからね」とまるで心を読んでいるかのように神が言ってきた。
まあ、神と言っているのだからそれができても不思議では無い。
そして、それを聞いた裕貴はまるで本物の神を見るかのように、「お願いします!俺の顔を変えて下さい!」と土下座までしてお願いした。
それを見た神は何かを取り出す。
「神が紙を渡すってね」
いきなり紙を出してきた。心地良かったはずの風がいきなり凍える程に冷たくなり、不快に感じる。
こんなギャグを言えるのは神ならではなのかもしれないが、これは流石に寒い。
「あはは、おもしろいな...」
願いを聞いてもらう為か、絶対に馬鹿にはしない。
それどころか褒めている。
「絶対に思ってないよね!見えない矢が僕の左胸にぶっ刺さったんだけど!」
神なのだから、嘘は通じる訳が無いか。
「あーイタイイタイ、この矢を抜いてくれる優しい人は居ないかなぁ〜」
神は棒読みでそんな事を言ってきた。
「あははははは!めちゃくちゃ面白かったな〜」
演技が下手すぎる。神の矢を抜いてあげようと頑張っているようだが、これはあまりにも酷い。
刺さった矢がさらに深くまで刺さってしまった。
少しまずいと思った裕貴だったが、神は「まあいいよ。僕はそんな事で怒る程、心の狭い神じゃないからね」と心優しく許してくれた。
そんな会話を終わらせ、裕貴は渡された紙を見る。
そこに書いてあるのは、欲しい能力や願いだった。
下に小さく3つまでと書いてあるが。
「さあ、それを書いたら僕に渡してくれたまえ。この神にね」
神を強調して言ってきた。それは一旦置いておくとして、裕貴は紙に願いを書くことにした。
「ん〜、まず1つ目は綺麗な容姿だろ?」
それ以外に欲しい物は何も無いのか、考え始める。これまでの自分の人生を考えると、欲しい能力が見つかるかもしれない。と、今までの人生を振り返って見る。
そこには今までの悲しい過去が蘇ってきた。
「よし、過去の事は忘れよう」
思い出すと、悲しくなってきたからか、思い出すのを辞めた。
「言ってなかったけど、世界で一番強くして、とかは無理だからね」
流石に無理。候補に入れようとしていた裕貴は残念そうにしている。
なら何にすれば良いのかと考え込む。何も思いつかないからか、「オススメとかある?」といつの間にか神に聞いていた。
もう思いつかないなら、神にオススメしてもらう方が良いだろう。
「う〜ん、そうだねぇ。呪いの指輪とかどうかな?」
「何だそれ」
「契約を交わした者の力を指輪に宿す事で、自分も強くなれるという物だね」
これは結構強そうな能力だ。
「じゃーそれにしようかな。強そうだし」
「しかし、これには1つ欠点がある」
何だと!?みたいな顔をした裕貴が「どんな欠点なんだ!?」と神に聞いた。
そんなに強そうな能力なのだから、1つでも欠点があってもおかしくは無いが、期待をしていた分とても辛そうだ。
「このリングの能力は、力を宿しすぎると体が保たなくなり、バラバラになる」
それを聞いた裕貴は自分がバラバラになる所を想像し、いきなり顔が青くなってきた。
「それは辞めとこうかな」
「まぁ、そんな事は滅多に起こらないんだけどね」
「なら、それにしようかな」
「君、流されやすいね」
失礼な事を言われたような気がしてきて少し嫌な顔をしたが、否定をする事もできないから何も言わなかった。
「で、次の能力はどうするんだい?」
ニコニコしながら聞いてきた。次の能力も神に頼もうかと思っていた裕貴だが、最後くらい自分で考えようとする。
「う〜ん」
しかし、何も思いつかないままフリーズしてしまった。
そしてフリーズして考え続ける事、1時間。
「良し!これにしよう!」
何かひらめいたのか、立ち上がった。さて、どんな能力を頼むのだろうか。
「能力をコピーできる能力が欲しい!」
そう言って神の方を見る。
でもそこには、いびきを嗅いて寝ている神の姿があった。
1時間考えている内に、寝てしまったのだろう。
「神様〜決まったよ〜」
そう言うと「ぐぁ!?」神とは思えないような起き方で起きた。
本当に願いが叶うのか、不安になってきた。
「能力をコピーできる能力が欲しい」
そう言いながら申請の紙を渡す。受け取った神は「えーと、うん」と言った。
もう駄目なのかなと思ったが「いーよ〜」と、物凄く適当な感じで言葉を返してきた。するといきなり裕貴の下に魔法陣と光が出てきた。
これから起こる事や出会い、そして新しい生活を考えると楽しみになってくる。
「ワクワクしてきた〜」
緊張とワクワクを隠しきれない様子だ。ワクワクしているといきなり神が「ワクワクしている所悪いんだけど、飛ばす場所はランダムになっちゃうから、頑張ってね!」と言ってきた。
「え?それって海の中とか、火の中とか。危ない場所も」
「勿論、ありえるね。」
それを聞いた裕貴はワクワクは無くなり、緊張しか感じられなくなった。
そのせいか、顔が死んでいるどころか、体が液体みたいに溶けてしまいそうになる。
神が「まあ、大丈夫でしょ」と適当な事を言ったからか、余計に心配になる。
「どうなっちまうんだよぉぉぉぉぉぉぉお!」
「まぁ、楽しんできてね。この指輪の神はいつでも貴方の事を見てますよ」
「最後だけ神っぽい事言ってんじゃねぇよ!てか指輪で
の神って何!?」
「それではお気をつけて」
ニッコリした神が手を振った瞬間、いきなり目の前が暗くなった。
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