螺旋階段

下林修(48)は自宅のマンションに帰宅すると、エレベーターのボタンを押した。うんともすんとも言わない。どうやら故障の様だ。


「ちっ!ついてないな。しょうがない、外階段を使おう。雨が降ってるから嫌だな」


そう心の中で呟くと、エレベーター脇の扉を開けて外の鉄製の螺旋階段を登り始めた。


シンプルな黒いアイアンの螺旋階段は日本では中々お目にかかれない。初めてみた時は「美しい」と感じた事を思い出した。


雨で雨水が流れ込んでくるので、歩くのは要注意だ。


何とか自宅のある5階までたどりついたが、太ももがパンパンで息が苦しい。


扉を開けようとしたら何と鍵がかかっていた。


「いったいどうなっているんだ?」


この外階段の鍵は持っていない。持っていないと言うより、ここは常時開放されているはずだった。


試しに4階へ行って扉に手をかけたが、ここも開かなかった。


3階も、2階も、同じだ。


仕方なく1階に降りて扉に手をかけたが、ここも開かなくなっていた。螺旋階段には柵があるので外に出る事はできない。


どうやら螺旋階段に閉じ込められた様だ。


「本当にどうなっているんだ?」


下村は途方にくれた。


「携帯電話で助けを呼ぶか、叫んで助けを呼ぶか」


予報では雨はまた雪に変わるらしく、かなり寒い。


携帯電話を取り出して電話をかけようとしたが、何と電池切れからのシャットダウン。


下林は愕然とした。背に腹は変えられない。


「help me!!!!!」


恥ずかしいが、叫んで助けを呼んでみたが外には誰もいない。


動いてないと寒くて凍え死んでしまいそうだ。


休みながらも階段を登ったり、降りたりを繰り返した。


その時、凍結している螺旋階段を踏み外した——


頭から転げ落ちていく。


1階まで滑り落ち、下林の身体はようやく止まった。


頭から大量の血液が流れているなか、現在の状況を反芻してみた。


携帯電話のバッテリーはあまりの寒さで、減りが恐ろしく早く、あっという間になくなった。


ドアは寒さで凍結してしまったのだろう。


そして今日はクリスマス。ここの人達は家の中で家族と共に静かに過ごすのが慣例だ。外に人がいないのは当然だ。


予報通り、雨は雪に変わった。


漆黒の闇夜を赤と緑が彩るオーロラが不気味なほど幻想的だった。


そして明けることのない夜、極夜。


どこからともなく「きよしこの夜」が聞こえてくる


そして、意識が遠のいていく…。


そう、ここは赴任先のスウェーデンの北極圏の町。


本日の外気温は-30だった。

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