第7話 美人三人がうちで女子会を企画してます。あ、俺も女子だった。

次の日の朝。

初日は散々だったが、薬とナプキンのおかげで何とか対処できるところまで持ち直していた。


「生理用ショーツなんてあるんだな……」


ナプキンの羽をきちんと収められる仕組みがついた下着。

なるほど、これは確かに便利だ。

用意してくれた真桜さんに、相変わらず頭が上がらない。


「これなら登校できる」


薬のおかげで体調も多少は楽になり、俺は制服の裾を直して玄関を出る。


ガラッと教室のドアを開けると――


「お! ゆかっち来たな!」


「体調はもう大丈夫?」


桐谷さんと白石さんが、当たり前のように声をかけてくれる。

この2人に出迎えられるのが、だんだんと“日常”になりつつあるのを実感した。


「だいぶ良くなったかなぁ……2人とも、本当に助かりました」


「助けてやったな!」


「そういうこと言わないの。本人は本当に大変だったんだから」


なるほど、体育会系の桐谷さんと文学系の白石さん。

この2人はボケとツッコミみたいな絶妙な組み合わせだ。


「あ、あとそれと――」


言おうとした瞬間。


「うぉー!セーフ!!」


勢いよく扉を開けて入ってきたのは、汗をかきながらも元気いっぱいの金髪美少女。


「真桜! ギリギリ!」


「まったく……朝から元気ね」


「ゆかっち! ヒカ! レイちゃん! おはよー!」


いつもギリギリな真桜さんだが、今日は遅刻を免れたようだ。

何かと忙しそうなのに、ちゃんと来られてよかった。


「あ、あの……みんな揃ったし、これ……」


俺は三人に小さな包みを差し出した。


「この前のお詫びとお礼で……作ったクッキー…です」


自分にできることなんて限られている。

でも、せめて感謝の気持ちだけは形にしたかった。

少し調べて紅茶の茶葉を混ぜたりと、ちょっとしたアレンジも加えてみた。


「おぉぉ! ゆかっちのお手製クッキー!? すげぇ!」


「わざわざ……こんな……しかも美味しそう」


「え〜!ありがとうゆかっち!律儀なんだね!」


3人が嬉しそうに受け取ってくれるのを見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

……よかった。本当に。


そして昼休み。


「あ〜、ゆかっちクッキー美味しかったなぁ!」


「紅茶が入ってて、すごく上品な味だったね」


「そ、そんなに褒めなくても……」


桐谷さんと白石さんはまだ口々に感想を言ってくれる。

俺は照れすぎて、もうこのまま蒸発して消えてしまいそうだった。


「お菓子まで作れるんだな〜。また食べたいなぁ……あっ、そういえばさ!」


真桜さんがポンと手を打つ。


「この前の話! みんなで泊まりに行くやつ!」


「……へ?」


「おー!そうだったな!なはは!」

桐谷さんもノリノリ。


「そしたら、またゆかっちのご飯が食べられるじゃん!」


「あなた達……また勝手に決めないの………

でも、クッキー美味しかったし……」


(ちょちょちょっ!? 白石さん!? いつもなら止めに回るのに、どうして乗り気に!?)


「裕香さんがよければ……私も行きたいかも。大丈夫?」


「あ、えっと……はい……お待ちしております……」


「「やったーー!!」」


「それじゃ裕香さんの体調が整うのを見て、来週の土曜日にしよっか」


結局、俺の意思とは関係なく決定されていく。

やっぱりコミュ症は不便すぎる。

今どきのAIアプリで“コミュ症克服法”とか自動で教えてくれないだろうか……。



---放課後――


「やっと学校終わったー!」

桐谷さんがいつもの調子で元気よく声を張る。


ただ、そこから全員で帰宅というわけではない。

いつも通り、3人はそれぞれ部活やレッスンやらで忙しそうに散っていった。


俺は校門で一人、しばらく立って待つ。


「すまん、待たせたな」


「全然いいよ。そんなに待ってないし」


久しぶりに翔と二人きりでの帰宅だった。


「裕香……真桜から聞いたんだが、生理が来たんだって? 体調は大丈夫か?」


「最初はほんとに死ぬかと思ったよ……。前触れもなく、あんなに血が出るなんてな」


「検査は真桜がやってくれたか。薬は効いてるか?」


「あ、それはホントに効いてる! 神宮寺製薬、様々だな」


「それはよかった。しかし今後も身体の変化は色々あるはずだ。無理するなよ」


「すまんね、いつも気を遣ってくれて。ありがとな」


「いいってことよ」


(……生理が来た、か。裕香に……本当に女子としての機能があるということか……。剛みたいに“へ〜大変だったな〜”ぐらいに流せればいいのに。くそ……博識な分、どうしても余計な想定までしてしまう。妊娠……とか……)


(いやいやいやいや!! 落ち着け俺! そういう妄想を広げてどうする!)


「裕香、よかったらゲームしないか? 久しぶりに」


「あ〜ごめん。ここ数日は一人でゆっくりしたいかな。ちょっと情緒にも影響するんだなって、なんとなく分かるし」


「そうか……。なら安静にしとけ。無理せず、真桜にもちゃんと相談するんだぞ」


「ありがとう!」


二人は分かれ、翔は一人で自宅へと歩く。


「笑顔で“ありがとう”か……悪くないな」


「だが……どうしても接し方が分からなくなる。友達としてか……想い人としてか……」


「女子とは何人か付き合ってきた……中学から高校二年まで、大体のことは経験したつもりだ。だが――」


「ここまで心を奪われたのは……初めてだ。裕香……本当は、一緒にゲームしたかったよ」


神宮寺家の部屋に帰ると、すでに真桜が戻っていた。


「あ、おかえり〜兄ぃ!」


「おーう、裕香の調子はどうなんだ?」


「そんなに重い方じゃないっぽいよ。初日だけだね」


「そうか」


「……あ、そうだ!来週、三人でゆかっちの家に泊まりが決定したよー!」


「……は?」


「ゆかっちがクッキー焼いてくれたから、皆で“次は手作りご飯食べようね!”って話になってさ」


「…………はぁ?」


「ゆかっちもオッケー!って言ってたし、楽しみ!」


(はぁーーーーーー!!?)


(裕香の手作りクッキー?手作り料理?お泊り!?おいおいおいおい!同性だからって踏み込みすぎだろ真桜!!くそっ!! 俺も行きたい!!)


「そうか……いつもの桐谷と白石か?」


「そうそう!歓迎会プラス仲良し会!」


「まぁ、楽しそうで何よりだ。……裕香は大丈夫か?結構アウェイな気がするが」

(俺を誘え……! 俺を誘え……!! 俺を誘えぇぇぇ!!!)


「大丈夫っしょ、私がいるし。あ、言っておくけど今回は“女子会”だからね!」


「わかってるよ」

(ちくしょーーーーー!!)


「兄ぃは研究やらなんやらで忙しいんだから、裕香のことは私に任せときなさい!」


「……あぁ、任せた」


部屋を出ていく真桜。


翔は残され、深いため息をつく。


「…………俺も……被験者になろうかな……」


「裕貴だった頃……“好きな人とか聞いたけど、好意を向けるほど俺はいい男じゃない”なんて言ってたっけ」


「もし本当に好きな人ができたら……女を好きになるのか? それとも男を?はぁ……実の妹をライバル視する可能性があるとはな」



場面は変わり、裕香の部屋。


「あ〜……家に来る。美人でハイスペックな女子三人が……どうしよう」


「泊まりに来るのが翔だった方がまだ気楽だったなぁ……。何を作ろうか、あわわわ……」


「……今度翔に“コミュ力を上げる方法”を真剣に聞いてみようかな」


次から次へとイベントが増えていく。

大変すぎると感じつつも、心の奥ではほんの少しワクワクしている自分がいる。


「友達っていいな……。いや、ちゃんと“友達になれてる”のかな、俺……」


「真桜さん、桐谷さん、そして……白石さん。白石さんとお泊まり……前の俺じゃ絶対ありえない」


「お風呂はどうするんだ?入ってくるのか?それともここで順番に使うのか……。寝間着姿……こ、恋バナ……とか?」


「うぅ……ドキドキしてきた。女子とお泊まりなんて……いや、俺も今は女子なんだけどな」


両手で頬をパンッと叩き、気合を入れる。


「よし……! 全力でもてなすぞ!」


そう心に決めた夜であった。


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