廃遊園地のピエロ 血の契約の記録
もちうさ
第1話 災厄の村
「これは……俺たちの先祖が交わした契約だったのか?」
廃遊園地のピエロ(本編26話より)
百年以上前、まだ遊園地も観覧車もない村。広大な森と荒れた畑に囲まれ、人々の暮らしは飢饉や疫病に脅かされていた。
「もう……これ以上は……」
疲れた声が風に消える。作物は枯れ、家畜は減り、子どもたちの笑い声も遠くに消えた。希望は薄く、絶望が村を覆っていた。
その夜、森の奥に光が差す。赤い衣のピエロの影が揺らめき、森に不気味な気配を広げる。目には冷たくも深い光が宿り、人々の心を揺さぶった。
そして、契約の瞬間に白い衣の女が現れる。冷たく美しい瞳で村人を見据え、声が森に響いた。
「救いを求める者よ……命を繋ぐ力を与えよう」
「ただし、その代償は未来の子孫が背負うことになる」
希望と恐怖が同時に押し寄せる。命を救えるかもしれない。しかし、未来の子孫に重い代償が降りかかる。簡単には答えが出ない。
長老たちは夜通し議論する。
「村を救うか……だが未来の子孫が苦しむ」
「誰がその覚悟を持てる?」
森の影にもう一つの存在――影山。懐中時計を握り、未来から過去を見守る者。
「……ここまでか」
必要な時だけ干渉する。直接的に契約に関わることは許されない。
白い衣の女が手を広げる。衣が夜風に揺れ、契約の力が森の空気を震わせる。赤い光と影が絡み合い、村人の恐怖を増幅させた。
「救いの光はすべてを繋ぐ。しかしその光は血と犠牲を伴う……理解できるか?」
長老たちは答えを見つけられず、悩み、震える。時間が止まったように森は静まり、枝葉も、風も、影山の懐中時計に合わせて凍る。
「未来を守るため……必要な最小限の干渉」
影山はそっと懐中時計を手にし、契約の瞬間を見守る。
深夜、長老たちは決断した。命を救い村を守るため、契約を受け入れる。森の空気がざわめき、白い衣の女の瞳が光る。契約の言葉が土地と時間に刻まれた。
赤い衣のピエロは影に溶け、白い衣の女も契約を終えると静かに消えた。森には、未来へ続く恐怖と希望の予兆だけが残った。
影山は息をつき、懐中時計を握り直す。未来を守るため、そして百年以上後に現れる二人――颯斗と彩を守るために。
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