第31話 半分こ
「ふう……」
足立から貰ったゼリーを飲み干した俺は、少しでも空腹を紛らわせようと飲み物を買いに行くことにした。
水でも大量に飲めば腹は膨れる。
それに応援席付近では昼ご飯を食べている人が周りにいるので、余計に腹が減るのだ。
「まぁじで失敗した……」
ボソッと愚痴をこぼす。
どんなに後悔したって後の祭りなのは分かっているが、それでも吐き出さずにはいられなかった。
「何が失敗したの?」
「うおい⁉ びっくりした⁉」
突如後ろから声をかけられて飛び跳ねながら振り返る。
するとそこには体操着を軽くめくって結び、おへそ出しスタイルの柚木さんが立っていた。
「ちょ、そんなに驚かなくてもいいじゃん」
「だって急に話かけるから」
「それは悪かったけどさ~。あんなに驚くと思わなかったんだもん。何か考え事でもしてたの?」
「考え事って言うか……。飲み物買いに行こうとしてただけだけど」
「でもなんか失敗したって言ってなかった?」
「そ、それは……」
答えに迷った。
それは俺が素直に言った時、柚木さんがどんなことを言ってくれるか想像がついたからである。
「じ、実は昼飯忘れてさ。少しでも紛らわそうかな~っと飲み物を買いに」
しかし良い感じの言い訳が思いつかなかったため、軽く笑いながら説明をした。
「えっ⁉ それかなりヤバめじゃない⁉ ウチのお弁当あげるよ!」
話を聞いた柚木さんが一ミリも迷うことなく提案してきた。
そう、俺は何となくこう言ってくれるのが分かっていた。
だからこそ誤魔化したかったが、俺の口と頭は肝心な時には回ってくれない。
もちろん柚木さんの気持ちが嫌なわけじゃない。
むしろめちゃくちゃに嬉しい。
けれどそれ以上に罪悪感という感情が募った。
「いやいやいや、さすがに悪いから大丈夫だよ。別に1食くらい食べなくても死にはしないし」
「けどお腹は空くじゃん! 食べた方が良いって!」
「でもそうしたら柚木さんのが無くなるでしょ?」
「ウチは大丈夫。痩せようと思ってたから丁度良いし!」
「いやいやいやいやいや!」
さすがに貰えるわけがない。
そもそもこれは完全に俺の凡ミスが招いたことであり、柚木さんは何ら関係ない。
俺の事情に彼女を巻き込むわけにはいかないのだ。
腐った性格をしている自覚はあるけど、そのくらいの良心はまだ生きている。
「無理無理無理! 貰えるわけないって! そこまで迷惑かけられないって!」
「大丈夫! それにほら、清水君これからリレー走るんでしょ! それならしっかり食べないと!」
「足立から貰ったゼリーで繋いだから!」
「年頃の男子がそれで足りるわけないっしょ!」
俺と柚木さんの口論は段々と白熱していった。
お互いに1歩も譲らず、あげる、貰えないの言い合いを永遠と繰り返す。
正直に言って午前中の競技よりも体力を使った。
「……あんたたち何してんの。こんなところで」
不毛過ぎる争いを断ち切ってくれたのは如月さん。
財布を片手に持ちながら呆れた様子で俺たちに声をかけてきた。
「聞いてよ瑠奈! 清水君が私の作ったお弁当食べてくれないんだって!」
「は? 何それ? 1回死んだ方がいいよ清水」
「ちょいちょい待って! 偏向報道が過ぎる! 如月さんも判断が早すぎる!」
慌てて弁明をしようとするが如月さんの俺を見つめる目がもう、不燃ゴミでも見るような感じになっている。
ああもう勘弁してください。
そんな目で見られたら俺みたいなメンタルが弱い人は普通にビビって震えちゃうんだから。
「た、食べるのが嫌なんじゃなくて! 貰うのが申し訳ないんだって話! だって今回、昼飯用意してないのは自己責任なんだから」
「どゆこと? ちょっとあたしにも分かるように1から説明して」
「えっとね……」
如月さんにこれまでの経緯を全て話した。
購買が休みであるというのを忘れて昼飯を用意していなかったこと。
それを柚木さんの話したら自分のお昼を渡そうとしてきて、それを断ったこと。
だからさっきまであげる、貰えないの論争になっていたこと。
如月さんの希望通り1から10まで事細かに説明すると、如月さんは頭を抱えながらため息交じりに言った。
「……何その小学生みたいなの」
「あ~! 瑠奈酷くない~? だって清水君、ウチの作ったお弁当食べてくれないんだよ?」
「だからそれは偏向報道だって」
すーぐそうやってねじ曲がって話そうとするもんだから油断も隙もありゃしない。
「……半分にしたらいいんじゃないの?」
呆れるような物言いで如月さんが提案をした。
それを聞いた柚木さんが両人差し指で彼女のことを指差す。
「それだっ」
何その売れない芸人がやってそうなポーズ。
俺も試しに小さくやってみたけど、正直に言って意味が分からなかった。
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