第6話 完璧超人
あれから数日経った頃。
俺の生活はあの日を境に一変した。
午後7時くらいになったら柚木さんが作ったお惣菜を持って家にやって来てくれる。
流れで一緒に晩御飯を食べ、彼女がシャワーを浴びて家へと帰る。
最初の2日間は髪を乾かすやら保湿やらは自宅でやっていたけど、3日目からは
「もうこっちでやって良いっしょ?」と言って堂々とうちでやっていく。
そして今は……。
「あ、そこはここの公式使って。それと1つ前の問題計算ミスしてるから気を付けてね」
明日提出の数学の課題を教えてもらっている。
晩御飯を終え、シャワーも浴びて話していた中でこの話題に行きついたのだ。
彼女から「そいえば明日提出の課題やった? 今回結構むずかったよね~」と言われ、血の気が引いた。
こうして始まった柚木先生による授業。
でも彼女の教え方が上手いのでかなり良い感じに進んでいる。
自分の力だけでやろうとしたら最大限の努力の末、膨大な量の×を頂いたことだろう。
それにしても料理だけでなく勉強もできるとか、今まで知らなかったけど柚木さんってめちゃくちゃスペック高くないか?
「これが完璧超人ってやつか」
「え、何のこと?」
「いや、柚木さんって何でもできるな~って。料理も美味しいし、勉強だって」
「でしょ? ウチ凄いっしょ?」
変に謙遜することなく、ドヤ顔をしながら横向きのピースをする。
こうやって素直に受け取ってくれるところも彼女の人間性の魅力の1つだ。
「昔から結構ママが厳しくてさ。テストで悪い点数取ったらすっごい怒られたんだよ」
「教育熱心の親だったんだな」
それなら彼女の頭の良さは天性のものではなく、努力によるものだろう。
普段から勉強するという習慣が身に着いているのかもしれない。
「清水君はどうだったの?」
「俺の家? まあ……いたって普通だったのかな。俺もテストで赤点を取るわけじゃないけど、めちゃくちゃ厳しいわけじゃなかったし。あ、でも『勉強しないとロクな大人にならない』とは言われたな」
「めっっっちゃ分かる! 何であんなこと言ってくるんだろうね! そりゃ将来のためってのも分かるけどさ~。でも、やっぱ他のこともしたいじゃん?」
「他のことって?」
「新しいネイルもしたいし、髪も今度はピンクにしたいんだよね~。あとエステも行ってみたい! あとタピって、カラオケ行って、服見て~カラコンつけて~」
何となく振った質問だったけど、柚木さんの口は止まることなくどんどん『やりたいこと』が湧き出ていた。
「清水君は何やりたい?」
「俺か? 俺は……」
パッと浮かんでこなかった。
そう言えば……俺のやりたいことってなんなんだろう。
改めて問われると分からない。
「とりあえず課題を終わらせたいかな……」
その場繋ぎの言葉を誤魔化すように笑いながら言うと、隣にいた柚木さんが大笑いをしながら肩を叩いてきた。
「アハハハハ! 何それ! ちょーおもろいじゃん! じゃ、さっさと片づけよ」
と、より一層俺の方に近寄る彼女。
ふわりと香るシャンプーの匂いが心臓を刺激した。
肩と肩が触れ、彼女の体温をワイシャツ越しに感じる。
やりたいことは分からない。
でも何となく、今のような生活が続けば良いなと俺は思った。
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