第3話

 午前11時から始まった定例会議の主な議題は、戦艦の修繕費用の捻出と修繕箇所の確認だけだった。修繕費用は軍事費用からまかなうことが決定し、修繕箇所は戦艦の底面の一部老朽化した箇所と艦内の一部のエレベーターのみ。

 修繕は会議終了後には始まっていた。

 エレベーターで他の有識者と乗り合わせた。

「あら、端下駄大佐、久しぶりね。気付かなかったわ」

「会議中、居眠りばかりしていては国民の信頼を損ねる原因になりますので今後はしないようお願いします」

「睡魔に負けただけよ。これでも昨日は山積みの書類と戦ってたんだから」

「さぞやお疲れでしょう。今日は早めにお休みになられたほうが良いですよ。それでは、僕は6階で降りるので。失礼します」

 ドアが開いたと同時に太壱はエレベーターから降りた。

 背中に誰かのつぶやきを浴びても気にせず、ポートレフカ大佐の居る研究室まで歩いた。

 外は暗いが、廊下に窓がなく、壁も床も天井さえも照明がやたらと太壱には白く眩しい。

 床は両端に間接照明が設置されている。

 時刻は午後1時。

 研究室に戻ると、ポートレフカ大佐に相談する。そろそろ空腹を覚える頃だからである。

「シーコンパクトの中でも栄養は補えますよ。何が食べたいですか?」

「和食が良いな」

「和食ですね。あとでチューブを通して摂取できますよ。急いで着替えてください」

 太壱はシーコンパクトSC内用のスーツに着替えるとシーコンパクトの中に入る。

 シーコンパクトSC内に入り、ふたが閉められると、背後からのびる細長いチューブの先端を口に差し込んで、昼食が流れ込んでくるのを待つ。

 間もなく、和食味の液体が太壱の口内に流れ込んできた。

 少量ずつ 感覚をあけて、今日の昼食が、太壱の口内まで届く。

 咀嚼せずともご飯は食べれているのが、太壱には何だか不思議だった。

 ポートレフカ大佐が聞く。

「端下駄大佐、入る前に一度もこのシーコンパクトの取り扱い説明書に目を通してませんが、大丈夫ですか?

 ヴィジョンにアップしとかなくて良いんですか? いつでも表示できるようにしてはいますが」

「あ、確かに。でも何かなぁ、引き寄せられるような感覚があって、説明書のことなんて考えてもいなかったよ」

 ポートレフカ大佐は数多の軍内秘のデータが集まるデータボックスから取り扱い説明書を手探りで探している。

「じゃあ、一応読んでおこうかな。これからのために」

「あった。ありましたよ、端下駄大佐。注意事項だけでも読みます?」

「そうだな、私に見せてくれ」

 ポートレフカ大佐がシーコンパクトの取り扱い説明書の中から注意事項だけをピックアップして太壱の目の前に表示した。

 説明書に目を通しながら太壱はつぶやく。

「なるほど。日中は出入り自由だけど、夜間はシーコンパクトの中から出れないのか。どうしてなんだろう?」

 ポートレフカ大佐は「研究のためです」としか教えてくれなかった。

 その声色には、どこか裏を感じさせるものを、太壱は察した。

――この実験、どこかおかしい。


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