第4話街全体の異変

翌朝。

 柊ゆうきは、まだ昨日のバトルの余韻を引きずっていた。

 スライムの感触も、腕に残る痛みも、決して夢じゃない。むしろ起きてからの方が、全身に実感がのしかかってくる。


「はぁ……俺、ほんとにゲームのキャラになっちまったのかよ」


 制服に袖を通し、玄関を出る。

 外の空気は、いつもと同じように澄んでいる――はずだった。


「……ん?」


 電柱の根元に、キラリと光るものが落ちていた。

 近づくと、小さな宝箱だ。片手サイズの、金色に縁取られたミニチュア。


(うそだろ……街に宝箱?)


 恐る恐る触れると、宝箱がパカッと開き、アイコンのような絵が宙に浮かぶ。


【ポーション(小)を手に入れた】


「マジかよ……!」


 周囲を見回す。だが、犬の散歩をしているおじさんも、登校中の生徒も、誰ひとりとして異変に気づいていない。

 宝箱があった地面を通り過ぎても、まるで何も見えていないかのようだ。


「……俺だけじゃねぇはずだ。ひよりや凛も……」


 そう思いながら歩いていると、途中でその二人に合流した。


「おはよう、ゆうき」

 ひよりはにこやかに手を振る。

 隣で凛がスマホを片手にぶんぶん振り回していた。


「見たか? 通学路、マップが更新されてんぞ。アイテム落ちてるスポットが増えてる!」

「やっぱりか……俺も拾った。ポーション」

「えっ、ほんとに!? うわー、マジでRPG化してんな!」


 凛は目を輝かせ、ひよりは不安そうに眉を寄せる。

 その表情の対比が、今の状況を物語っていた。


***


 学校に着いても、違和感は続いた。

 廊下を歩くと、クラスメイトの頭上に「!」や「?」が、うっすらと浮かんでいるのだ。

 だが本人たちは気づいていない。


「なぁ、三浦……お前、頭の上になんか出てるぞ」

「は? なに言ってんだ挟……じゃなくて柊」

 三浦は怪訝そうに笑うだけで、何も感じていない様子だった。


 結局、異変を認識しているのは、ゆうき・ひより・凛の三人だけ。

 休み時間、教室の隅で小声の作戦会議が始まる。


「これってさ、俺たち……選ばれたプレイヤーなんじゃね?」

 凛が目を輝かせながら言う。

「でも、なんで私たちが……」

「理由なんかどうでもいいだろ。大事なのは、もう“日常”じゃなくなったってことだ」

 ゆうきの声には、妙な重みがあった。


 その瞬間――。


 窓の外、校門のそばに立つフード姿の人物が目に入った。

 全身黒ずくめで、顔は影に隠れて見えない。だが、その視線だけははっきりとこちらに突き刺さってくる。


(誰だ……? こっちを見てる……?)


 ゆうきの背筋がぞくりと震えた。

 フードの人物は口の形だけで、こう言ったように見えた。


――「お前らも、気づいたか」


 次の瞬間、人影はふっと消えていた。


「……なぁ二人とも、今の見えたか?」

「うん……見えた」

「やば……本格的にイベント発生じゃん!」


 三人の胸に、それぞれ違う感情が渦巻く。

 不安、興奮、そして……避けられない運命の予感。

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