第88話 各国との交渉策
「うまくやってくれているようでなによりです」
「ああ、だが間もなく教導国から帰国の指示が出るだろう。私はオーウェルに、教導国との戦後処理について調整してもらうつもりでいる」
そうはいってみたが、今の状態で具体的なことは決めていなかった。
「ところで、王子は何を考えているのでしょうか」
「さあ、それは本人に聞いてみるしかないな。だが、丸腰に剣と盾を持たしてやったんだ。煩いことを言う気はないが、だからと言って勝手にはさせる気はない。やはり問題は教皇の方だろう。王子の顔はいつもそっちに向いているからな」
そうですね、とラプラスは何か考えている様子を見せた。
「主導権を握って、ここは譲れないという所を言ってみるのも手ですね。例えばエリー王国との条約に口出しはさせないということ、などですが」
「うむ。教会の要求に口を出す気はないが、国政は別に話だ、そこに口出しはさせない」
私はそこさえ守れれば、ギュンター教が教会をいくつ作ろうが、司教を何人派遣しようが構わない。
「教皇は現状が維持できれば良いのではないでしょうか。そもそも義勇軍を出したのは、ギュンター教の信徒の保護のためですから」
それで済めばいいが、ギュンター教を利用した以上、教皇がそれを理由に何か言ってくる可能性もある。
「そうだな。異端者の国王を退位に追い込んで、どこかで幽閉することくらいで済めばいいが。まあ、実質それが可能にしたのは、ヒールランド軍のおかげだからな、少しばかりこちらが道理を盾にすれば、教皇も余計な横車は押さない気もするが」
私は、そこでダメ押しの飴は必要かもしれないと考えていた。
「ラプラス。ここは三人寄れば何とやらだ」
「何ですか、それは」
「そういう諺が、私の前世の世界にはあったのだ。各部局に、教皇対策案を出すように指示を出すよう伝えろ」
わかりました、とラプラスは出て行った。
その後私は「果報は寝て待てだ」と自分に言い訳をして、ソファに横になっていたが、気が付くと事務秘書官が、閣下、起きてくださいと呼びかけていた。
シャングリラ公国との講和についてアリスタ王国が検討に入ったと、ベリー外務部長から報告があったとのことだった。
秘書官の報告によると、大使館にいるベリーに、アリスタ王国の外務卿が内密に情報をくれたとのことだった。
ベリーの事前の情報では、アリスタ王国の宮廷は今回の件は軍の失態と看做しているとのことだった。
このため、軍が早期に解決を図ることができなければ、外交的解決を優先するということが首脳らの方針だという。
彼らの言う早期の解決は辺境伯領の奪還だが、それはもはや難しいと判断されたのだろう。
であれば侵略の根拠として敵占領地帯を容認して、その周りを固めた後で捲土重来を期した方が良いという判断だ。
その布石としてシャングリラ公国に辺境伯領の東端を割譲するのは、諸国連合との関係を落ち着かせるのには悪くないやり方と判断したわけだ。
執務室に帰ってきたラプラスに、ベリーからの報告を伝えた。
「先ほど何やら慌てて秘書官が走っていたのはそのことですか」
「アリスタ王国は。当面の敵はゴッドランド帝国のみと定めたようだな。あとはシャングリラ公国がどう出るかだが、シャーウッドに任せた以上、彼の説得に期待するしかない」
ラプラスは大丈夫ですよ、と言って専属秘書の席についた。
「将軍はこういう時ほど頼りになります。上手く公子に戦略を説くでしょう。ヒールランドの百戦錬磨の指揮官のいうことを無視できる軍略家は、諸国連合にはいないでしょうから」
以前、密使として行ってもらった時には、平時の軍備であるから語ることも少なかっただろうが、今は非常時、この先も二か国をにらんで公国と諸国連合は動かねばならない。
となると、シャーウッドの才能は遺憾なく発揮されるだろう。
下手をしたら、軍師として諸国連合にスカウトされてしまう可能性も無きにしも非ずだ。
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