第37話 特殊部隊の創設

「今一つは、謀略戦だ。これについては海軍では難しい。海戦ではそんなことは無理だからな」

 海の戦いには潜水艦すらない以上、正攻法なやり方しかない。

 軍用艦船の能力の向上、あとは数に頼むだけである。

「確かに海軍に隠密行動ができるとすれば、夜間の沿岸への艦砲射撃くらいしか私には思い当たりません」

「その通りだ。しかし陸戦では可能だ」

「閣下は具体的にどのようなことをお考えなのでしょうか」

 うむ、と私は前世のわずかな知識を動員するしかなかった。


「こちらの軍事拠点を自ら攻撃、爆破して相手の攻撃と非難して開戦する。あるいは敵国の対立を煽って、武器や金銭を与えて内戦を引き起こす。後は圧政を強いる領主に対して諜報班を使って民衆を扇動し、武器や金銭を供与して反乱を起こさせる。やり方は状況に即してだが、いわば戦争の偽装工作の一種だ」

「内戦や反乱で兵力を消耗させて、開戦を偽装して劣勢を強いると言うことですね」

「まあ、そこは外交部との連携でやることになるだろう。私としては、相手国の軍事力を削げれば良い。すべての国をヒールランド化するのは難しいからな」

「では、その場合、王や貴族の存在は容認されるのですか」

 確かに私が演説で掲げたスローガンとは違うので、彼が疑問を感じるのは仕方ないが、現実が私のスローガンに合わせてくれるわけではない。

 なので、エンゲルスにはそれを理解させなければならない。


「我が国は王国軍の規模が、地方領主の軍より圧倒的に大きかったから革命が成功したと言って良い。しかし国によってはそうとは限らない。一部の有力貴族によって政治が壟断され、国王や皇帝が神輿になっている国もあるからな」

「確かに封建制の強い国は、一枚岩ではないと聞きます」

「その場合は少しずつ切り取っていくしかない。場合によっては領主を処刑して平民だけの地域を作ることは可能だろうが、そういう地域は少ないだろう」

 私にそう言われ、エンゲルスは納得したように頷いた。


「それに我々には閣下という存在がありました。決起の時に語られた話も、はじめは私たちも現実に可能だとは到底思いませんでした」

「平民が国の頂点に立てたのは、他に選択肢が無かったからだ。いずれ同じ志を持つ者が他国にも生まれるかもしれない。その時に我々が協力者でないと、厄介なことになる。そのためにも、謀略戦では慎重に事を運ぶ必要がある。あくまで我々は正しい意図に基づいて、作戦を行わねばならないのだ」

 なるほど、閣下の言われる通りです、とエンゲルスは深く頷いた。


「それに我々にとっては敵国が旧体制であることの方が付け入る隙は多いのだ」

「ですが、その場合、謀略戦は通常の兵士ではいけませんな。外交部の工作班並みの能力が必要です」

「その通りだ。なので、彼らと協力し、精鋭を集めて特殊部隊を創設してほしい。しかし、これは秘密にやる。エンゲルスに人選は任すが、彼らは存在しない部隊になるので、秘密は厳守、死んでも弔う者は我々だけだ」

 承知しました、とエンゲルスは低く静かにそう言って頭を下げた。

 自ら言い出したが、過酷な任務につくであろう部下を思って複雑な心境なのだろう。

「メンバーが決まりましたら、ご連絡いたします」

 よろしく頼む、と私はそう言ってエンゲルスとの会議を終わらせた。


 執務室に戻ると、外交部担当の秘書が報告書を持って来た。

 順調に会議は進んでいるようだ、こっちの方は諺通り、寝て待つしかない。

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