第33話 偽包囲作戦

「ガーランド。ゴッドランドの公使が出入りしている店を知らないか」

「いくつか思う浮かびますが、店ごとの顧客名簿は提出させていますので、すぐにわかります」

「そこに一人女を潜入させたい。できるだけ早く教えてもらいたい」

「高級クラブでしょうか。それとも娼館でしょうか」

 私はそうしたところに前世では全く縁が無かったので、ガーランドに助言を求めた。

「話を掴ませるのに向いているのは、どっちだ」

 ガーランドは真顔でしばらく考えると、ニヤリともせずに答えた。

「クラブをお勧めします。体を餌に使えますので」

「わかった。だが、念のため娼館の方もリストに挙げてくれ」

 わかりました、では係の者に用意させますと席を立つと私に一礼し、ラプラスにも目礼すると静かに部屋から出て行った。


「ラプラス。私は明日まで私邸で過ごす。朝、迎えに来るように言っておいてくれ」

「先ほどの件ですね」

「うむ。テレジアに用事を頼まねばならないからな」

 ラプラスはきっとあれは喜ぶでしょう、と言った。

「私は気は進まないのだが」

 そういうと、ラプラスはわずかに顔色を変えた。

「アルバート様にはあれの力は効かないはずですが」

 私は肩をすくめた。


「あれだけ綺麗なら、誰でも手に入れたいと思うだろう」

「しかし、既にあれはアルバート様のものではないですか」

「君が考えるほど、私は好色ではない」

 そう言って私はラプラスに冷たい視線を向けた。

「テレジアに妙なことを言ったな。ああいうことは私は好まない。今回は気を利かせたつもりだろうから許す。だが、今後私の私的なことを伺うようなことは控えろ」

 ラプラスは立ちがると、失礼いたしましたと畏まって頭を下げた。

「まあ、テレジアは気に入っているからいいが、怪我の功名だな。ラプラス」

 私は笑いながら彼の肩を叩き、では、これから私邸に向かう、あとは頼むと言って執務室を出た。


 私邸に帰ると、居間にお茶を持って来たテレジアを座らせ、一つ仕事を頼みたいと言った。

 テレジアは無表情を装っていたが、口元がわずかに笑みが漂っていた。

「ある人物に話をしてくれればいいのだが、やってくれるか」

「私はアルバート様のしもべです。ただ、やれと言って下さりさえすれば、何でもいたします」

 そう言ってテレジアは私をじっと見つめたが、その破壊力はもう術とか力とかいうレベルではない。

 テレジアを呼び出せたことだけでも、神に感謝しても良いくらいだ。


「実はある高級クラブで、ゴッドランド帝国の公使にヒールランドが帝国との同盟を検討しているという話を官邸に勤めている人から聞いた、と吹き込んでもらいたいのだ。詳しいことは彼と話し合ってくれ。この件はラプラスと君に任せる」

 テレジアは承知いたしました、と頭を下げて立ち上がった。

 私も席を立ち、彼女の所に近づいて言った。

「君にこんなことをさせるのは気が進まないのだが、しかし頼めるのはきみしかいないのだ」


 その言葉にテレジアは顔を上げ、目を見開いた。。

 頼むぞ、というと彼女は我に返ったように、必ずやご期待にお応えいたしますと深く頭を下げた。

 私は夕食まで休む、と告げて寝室に向かった。

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