第19話 研究の依頼
リリスはしばらく考えるように黙ったが、その後で私に訊ねた。
「閣下、それは魔石燈のようなものを用いるということでしょうか」
魔石燈は、街灯や金持ちの家の照明などに使用されているもので、魔力を蓄積して光る性質を持った鉱石の発見で広まったものである。
しかし、魔石燈はその利用に留まり、それ以上の技術的発展はなかった。
「うむ、だが私の考えているのは、固有の性質に縛られない魔力の利用だ。例えば火力だが、火を起こすことはは魔術師に頼らずとも可能だが、急速に大きな火力を作るとなると魔術師が必要だ」
「その通りでございます。確かに魔術車両などはありますが、比較的魔力量の多い念動を使える魔術師が必要です。大金を出して魔術師を雇ってそのような物を動かすくらいなら馬車を使った方が良いので、軍用車でもない限り、貴族の玩具のようなものですが」
リリスはそう言って笑った。
「そこでだ。魔力を薪や石炭のように誰もが使えたらと考えたのだ。そうした仕組みを魔術で作れないかと」
それを聞くと、リリスは目を見開いた。
「閣下の発想は驚くべきものです。もしもそんなことが可能になったなら、世界は一変するでしょう。しかし、問題は魔力をどうやって蓄積し、それを念動や火などの発現に転換するかです。光は光魔石の発見で可能になりましたが、なぜそうした現象が起こるのかは、解明されておりません。解明するということすら誰も考えなかったのです」
「では、まずその辺りからやっていけば良いのではないか。他国では戦争時の攻撃の効果の研究は行っても、原理を究明しようなどという魔術師はいない。リリスがその先鞭をつけてはどうだろう」
私がそう励ますと、リリスは表情を引き締めて言った。
「必ずや閣下のご期待にそえるよう、一日も早く成果をお見せできるよう努めます」
「いや、意気込みはわかるが無理せずやってほしい。この研究は早く解明できればそれに越したことは無いが、正確かつ普遍的であることを求めている。でないと、それが実用化する時に支障が出る。慎重に進めてくれ」
リリスは私の言葉に、承知いたしましたと頭を下げた。
その後、私とメアリは数日前にリリスから報告があった広域魔術無効化の実演を見せてもらうために、実験室に向かった。
そこは前世でいうなら、学校の体育館ほどの広さの建物の中にあり、内壁には常時物理結界が施されていた。
約三十名ほどの魔術師である研究員が、リリスに対して火力魔術攻撃を行い、これを無効化する魔術を展開し、爆炎が起きた瞬間に消すデモンストレーションを行った。
爆炎の規模は戦場ほどではなかったが、効果は素晴らしく、ほぼ一瞬で全ての炎を消し去った。
また、麻痺や催眠などの精神支配攻撃に関しての実験は、私も体験させてもらった。
先ほどと同名の魔術師たちが魔術を展開し、一瞬、麻痺痛や眠気に襲われたが、瞬時にそれらから解放された。
「原理は同じですが、彼らがこの魔術無効化を習熟することで、戦場での敵によるかく乱や戦意喪失の意図を挫くことが可能です。今後は発動妨害や自動反射攻撃が研究課題となります」
リリスは成果に奢ることなく、次の目標を定めているようだった。
私は来年度はわずかだが予算を増額することを約束して、研究所を後にした。
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