第4話 叱咤と策謀

 一週間後、執務に復帰した私がやらねばならいことは、アルバートの暗殺事件の解明をすることだった。

 暗殺自体が重犯罪であることもそうだが、アルバートの無念さを思うと、私にとってそれは果たさねばならない最初の務めであり、使命の第一歩だった。

 また、この事件は単に実行犯を捕らえて罰すればいいというものはなく、その背後にある黒幕に鉄槌を下さねば意味がないと考えていた。

 私は秘書官長のゲオルグ、あの病室に入って来た白い口ひげの男を呼んだ。


「ゲオルグ、事件解明の進捗はどうなっている」

「現在、秘密警察と情報局員を動員して鋭意捜索中であります」

 ゲオルグは私の冷たい視線で何かを察したのか、その瞳は怯えていた。

「私はその進捗を聞いている。具体的な状況を言え」

「はっ、その容疑者は捕らえたのですが、いずれも無関係と判明しておりまして」

 ゲオルグは冷汗を垂らしながら、小声でそう答えるのが精いっぱいという様子だった。

「まったく埒が明かんな。マルクとビンセントを呼べ」

 マルクは秘密警察の長官、ビンセントは情報局長だ。


「お前たちは、よほど私に死んでもらいたいと見える」

 直立不動の姿勢で私の前にいるマルク、ビンセントに私はそう言った。

「こうして私が無事であったことが分かれば、再び狙うことは明らかだ。お前たちはそれを黙って待っているつもりか」

「いえ、そのようなことはありません。現在、可能な人員をすべて投入し、捜査に当たっておりますので、間もなく事件の解明につながる人物を逮捕できるかと」

 マルクはそう言って、額に脂汗を滲ませた。

 これを聞いてビンセントも、情報局も間もなく重要な情報を得られるものと確信しております、とついでのような希望的観測を口にした。


「共犯者でも協力者でもいい、何等か事件に関わる者を捕らえて暗殺犯への手がかりを掴め。今日を含めて三日やる。その間に成果を上げろ。献身のない者は信頼に値しない。言っている意味はわかるな」

 音がするのではないかというほどの勢いで二人は頭を下げると、慌てて部屋を出て行った。

 私はゲオルグに近くに呼んだ。

「あの二人を監視しろ。あと私は少し休む。急用以外は取り次ぐな」

 はっ、承知いたしましたとゲオルグは一礼して秘書官室に戻って行った。


 私は寝室に入りベッドに仰向けになった。

 そして出て来ていいぞ、とラプラスに告げた。

 ラプラスは姿を現すと、先ほどの様子を見ていたように言った。

「期限を切ったのは良いご判断でした」

 私は彼らの様子を思い返し、ため息を付いた。


「何の成果も上がらないのでは、彼らがいる意味がない。それに、すでに時間は十分にやっているからな」

「すでに事件から一週間たっています。もしアルバート様が亡くなっていれば首謀者も実行犯もすでにこの国にはいないでしょう」

「おそらくな。どこの国かわからないが、私が死んだあと、代わりを傀儡にするつもりだろう。だが、こうして私が蘇った以上、私を殺すまで国外に逃亡はできまい。任務が遂行できない暗殺者など帰っても始末されるだけだからな」

 私の言葉に頷いたラプラスは、待っていたように私に訊ねた。


「私は何をいたしましょうか」

「ゲオルグを監視し、何かあれば必要な手立てを講じてくれ」

 承知しました、と言ってラプラスは姿を消した。

 ようやく一人になった私は、スキルの〈罠〉を仕掛けると、眠りについた。

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