自動人形のあなたは闇の天才人形師に毎晩しっとりメンテナンスされるのです。

壱単位

第1話 最高傑作


 / / S E:……ぎし、ぎし、と、木張りの廊下をゆっくり歩む音

 / / S E:重く古い扉がきしみながら開いて閉まる音


「……おや、おかえり」


 / / S E:ぱたん、と本を閉じる音

 / / 本を読んでいた相手、顔を上げてこちらを見る。ゆったりとした妖艶な女性の声。


「今日は少し遅かったね。疲れた顔してる。すぐに手入れをしなくちゃ……ほら、こっちにおいで。そんなところに立っていないで」


「……ふふ。あたしは君がそうやって毎晩、目を丸くしているのを見るのが大好きだよ。ここはどこだ、なんで自分はこんなところに、って。それでもちゃあんと、帰ってきてくれる。自分の足で。そう、君の帰る場所は、ここしかないんだよ……」


 / / 椅子から立ち上がり、歩いてくる。

 / / S E:ぎし、と椅子の鳴る音。歩いてくる音


「……ん、いいから。逃げないで。ほうら。こうして、君の、耳の後ろ。ここに隠してあるつまみを、こうやって……」


 / / S E:右の耳のすぐそばをごわごわとまさぐる音

 / / S E:ぷちん、というスイッチ音


「……どう? 思い出したでしょ。そう。君は、自動人形。どこからどうみても人間だけど、そうじゃない。この天才人形師、ヒスイさまが作り上げた……」


 / / 声が左耳のすぐそばに迫る。小さく囁くように。


「最高傑作、だよ」


 / / ヒスイ、顔を離す。ゆっくりと言って聞かせるように。


「ずうっと君と二人きりでここにいたけれど、外の世界で君がどれだけやれるのか見てみたくなってね。毎朝、にせものの記憶を植え付けて送り出してる。生まれたときからの記憶。親の顔、学校、友だち……ふふ、みぃんな、嘘さ」


「だけど、君はよくやってるよ。あたしが大嫌いな人間たちのなかでね……だから、君は、最高傑作。あたしの可愛い子。さ、おいで……」


 / / ヒスイ、あなたを抱きしめて頭に顔を埋めている。

 / / S E:すんすん、と耳の傍で匂いを嗅ぐ音


「ふう……外の匂いがするねえ。懐かしくて、忌まわしい、外の世界の匂い。そうして……君の、髪。頭皮。ああ、いいね。とってもいい匂い。優しくて、少しだけ、汗の匂いも。たまらないよ。あたしの好みの体臭を調合するのに半年もかかったんだから」


「さ、脱いで……ふふふ、逃げることないじゃないか。恥ずかしいことなんてない。君の身体は、このあたしがつくったんだから。隅々まで、この手で、ねえ」


 / / S E:服が脱がれ、ぱさりと落ちる音

 / / S E:体を撫でさする音


「……ああ、素敵だ。綺麗だよ。うっとりする。この肌さわり。ほくろや産毛まで、人間そっくりだ。でも、こうやって……ほうら」


 / / S E:かきん、と、金属の扉を開けるような音

 / / S E:こちん、こちん、と、古い都計が時間を刻むような音


「君の首の後ろを開ければ、ぜんまいが現れる。これを巻かなきゃ、君は動くことができなくなる。だから、君は毎晩、あたしのところへ帰ってくるしかないんだ」


 / / S E:かりり、かりり、と、ゆっくりぜんまいを巻く音


「君は、あたしがいなければ生きられない。あたしの世界でしか、あたしの手のなかでしか、生きられない。ねえ……」


 / /ふう、と耳に息をかける


「……そのことを、忘れたらだめだよ。あたしの可愛い、お人形さん」


 

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