怪力ダークエルフさん

@haraue

1話 出会い

長年、人類と魔族は争いを続けてきた。

だが、近年ではその争いは鳴りをひそめ、お互い不干渉でいる事で幾分かの平穏をつくっている。


しかし、あちこちで小競り合いが起こってもいる。

そんな、〝部分的に平和〟な時代の節目ーーーー。




人間領土内、はじっこの田舎の村。


ほとんど自給自足でまかなっている生活。

村人達はひっそりと、だが助け合って生き抜いていた。

一番近い街でも、五日以上は歩く。

行商人も、半年に一度ほどの頻度。

更に、街道に時折危険な魔物や野盗もちらほら…。


だからこそ、村人達の結束は固い。

誰もが助け合い、支え合って暮らしを守っていた。



ガラガラガラ…


そんな村に、季節外れの行商人の馬車が来た。

乗客は皆、死んだ様な顔で馬車に揺られている。無理もない。

彼らは、小競り合いに巻き込まれた難民だった。

家も、土地も、家族も……

失った者たちの目には、希望の光は消え、暗闇しか映っていなかった。


馬車は、村の中央の広場に止まる。


「いやぁ、すまないねぇ。」

馬車の主は、たまたま商売を終えた行商人。通りがかった村が焼け野原になっており、路頭に迷った連中を見かねて、近くのこの村に送ってきたのだ。



「…大変だっただろうねぇ」

「ほら、まずは食事を出そう。」


親切な村人達は、食事などの用意をする。難民の中には、布に包まり震えていた少女も。

気の毒に思い、少女を介抱しようと布をとってあげた。


「あ…‼︎」




……だが、彼女は人間では無かった。

浅黒い肌、長い耳。

世に言う、『ダークエルフ』。


死んだ顔をした少女は同胞達と離れてしまい、この村に流れ着いた。


ダークエルフと言えば、かつて人類に敵対した「魔族」の一種。

今でこそ大戦などは起きていないが、今回の様に小競り合いの末、被害が出る事も。

その原因が、魔族側のせいと考える者も少なからずいる。片方から見ればそうだが、実際は両方に責任があるハズなのだが…。



「どうする……敵、なのか?」

「まだ子供よ……けど……。」

扱いに困っていた村の大人達。


そんな付かず離れずの大人達をよそに、少女にズンズンと近付く男の子が。

この村の子供、名はブラッド。




彼は、開口一番

「お前は、この村をめちゃくちゃにしに来たのか?」

厳しく問いただす。

周りは「おいおい」と、ブラッドをいさめようとする。


少女は、こわごわと否定

「違う…私は、そんな事しない…‼︎」





「…そっか、悪かったな」

ニッと、弾けるような笑顔を見せる。


その時、少女は気付く。

彼は、あえて皆が踏み込めない所に踏み込んで、空気を変えてくれたんだ、と。

子供である自分にしか出来ない事だと分かった上で…。


お詫びに村を案内すると言って手を引くこの男の子を、信じてもいいかもしれない。

…そう、心の中でつぶやいた。








ーーー数年後。

少年は大きくなり、少したくましくなった。

身体付きは同年代の子よりもゴツゴツしており、まさしく戦える肉体。

そこらの大人では、全く相手にもならないだろう。

村では警備員となり、魔物や賊を相手どっている毎日。



ある早朝。

自分の家のベッドで、今まさに眠りから覚醒したブラッド。

体を動かせない彼は、またかと呆れる。

そこには、ブラッドに絡みつく様に、あの少女が身体をよせ、寝息をたてている。

身長は、成長したブラッドよりも高く、2メートル近い。

たくましく育ったブラッドの体躯を、ゆうに超える体格。

そんな身体付きに見合わない、子供のようにブラッドに貼り付いている。


「全く、一人で眠れよな、イル」

彼女の名前を呼びながら、起床する。


『ドカッ‼︎』

乱暴に開けられたドアから、近所のおじさんが飛び込んでくる!


「ど、どうしたおっちゃん⁉︎」


「ブラッド、大変だ!家畜が1匹暴れてる!このままじゃ、怪我人がでちまう‼︎」



寝巻きのまま、すぐに現場に向かうブラッド。

家畜用の囲いの中で、黒い巨体の家畜が飛び跳ねて暴れており、農夫達は避難して遠巻きに見る事しか出来ない。



「ぶもおおおおぉおぉおぉおぉおおお‼︎‼︎‼︎」

黒い家畜は、更に激しく暴れ回る。


「ブラッドぉお!任せたぞぉ‼︎」


ガッ‼︎‼︎‼︎とブラッドの剛腕が、黒い家畜の身体を捉える。…だが、



(…マズい、このままコッチが本気出しちまったら、コイツをしめ殺してしまう…!ど、どうすれば…‼︎)



そこに、寝ぼけたイルが登場。


「ふあぁあぁあぁ……。何ぃ〜?」

ブラッドがなんとか抑えている家畜を、まるで子犬を抱き上げるように片手で担ぎ上げ、背中をさすってあげる。

落ちついた家畜は、さっきまでの暴れっぷりがウソのように、大人しくしている。



「…イル⁉︎」


「ブラッドぉ、そろそろ朝稽古の時間だよ?」

持ち上げた家畜を、優しく地面に立たせてあげるイル。



「あらら、多分ハチか何かに刺されちゃったんだねぇ、足が腫れてる。痛かったね、よしよし。」

イルをはじめ、農夫達がお世話を始める。どうやら、もう一安心らしい。



「…くそっ、またイルに助けられたっ!」

安心したブラッドは、同時に悔しくもあった。




イルは、あの時助けてもらった恩を感じ村の警備員になるため、ブラッドと同じく身体を鍛えていた。


朝早くから、二人で組み手を開始。

周りの大人達も協力して、一通りの稽古を教えてくれた。

二人はメキメキと、実力をつける。


…だが、鍛えすぎたのか何なのか、とんでもない強者に成長。

ダークエルフといえば、大体魔術とか弓が得意らしいが、少女は鍛え上げられた肉体のみで、最強になっていた。

スラリと長い手足から繰り出される打撃は、もはや破壊の権化。

その突きは巨岩を砕き、蹴りは大木を薙ぎ倒す。

今ではブラッド以外に、まともに組み手が出来る相手はいない。



村の大人達的には、警備をしてもらっており大変ありがたい存在なのだが、やはり規格外なその才能。

この小さな村では収まっていいものではないと、薄々思っていた。




だが、当の本人は全くそんな気は無い。なぜならイルは、ブラッドにだいぶ入れ込んでいるから。

あの日、あの時から、ブラッドの事が大好きなのだ。

しかしイルはとっても奥手で、ブラッドに告白など出来なく、いつもモジモジして大きな体を縮こまらせ、ブラッドの後ろを付いて回る。

(一緒に寝るのは恥ずかしくないみたいだが)




「…ちくしょう、絶対超えてやるからな!そして…!」

そんなイルを、ブラッドはライバルとしてみており、いつか必ず超えてみせると息巻く。

そしてその時は必ず、


『好きだ』、と伝える!


そう、決めていた。


そんな二人が、世界を巻き込む冒険活劇に踏み出していく。

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