第14話


 ネクロスを討伐し、しばらく経ったある日のこと。。


 気がついた時、俺はまた青々としたキラキラ空間にいた。

 そして目の前にスマートフォン。


 またこの夢か。

 二度あることは三度あると言うが……。


 さすがにここまで続くと、これをただの夢と切り捨てるのは危険か。


 俺はスマートフォンを手に取る。

 検索するのは『ウィリディステラ・クエスト』について。


 すると以前とは別の掲示板がヒットした。




【朗報】最強勇者エルミカ様、やっぱりガバじゃなかった(ネタバレ注意)『ウィリディステラ・クエスト 外伝:碧き星の導き』


・エルミカ様、大幅なタイム短縮に成功。やっぱり完璧な勇者だったな!


・どこがだよ。


・大本営発表やめろ。


・勝負は明日だ→え? ララとリリが脱走!? な、何で!?


・お前が不安にさせたんだろうが。


・計画通りって言い張ってるの笑う。


・しかし十三歳の時のお姉様と出涸らし、可愛いな。


・魔法職なのに魔法なし+素手で、闘技場で十二連勝するのはさすがお姉様だわ。


・リリ「腐敗のネクロス。……お姉様とファルティナ様、そしてエルミカ様が倒した魔王の側近です」←これWWWWW


・クルシュナを除くニセ勇者パーティー、三人掛かりで倒した強敵だと思われてたのにな。


・これが叙述トリック……。


・出涸らしの説明が悪すぎるだけや。


・やっぱりこいつ、出涸らしだわ。


・今、気付いたけどファルティナの使ってた呪文。リーゼがレナードを励ますのに使ってたやつじゃね?


・あの心がポカポカするやつだな。


・日向ぼっこの魔法とか言われてたよな。


・ファルティナが使うと熱消毒になるの草。


・ネクロス、絶叫しててスカっとしたわ。


・最後にネクロスの手を握るシーン、えげつなくて笑う。


・しかしファルティナって本当に強いんだな。想像以上だったわ。


・読者「ファルティナ、強……」 エルミカ「ファルティナ、強……」


・お前も驚いてるんじゃねぇよ。


・本編でも描かれてたけど、エルミカの未来視ってやっぱり完璧ではないんだな。


・そりゃあ、完璧な未来視とかいたら話それで終わっちゃうし。


・悪いのは未来視の精度じゃなくて、エルミカの慢心と油断だから。


・悪いのはガバなんよ。


・なお、それでも何だかんだで解決してしまう模様。


・さすが、圧倒的な筋力で勇者のフリをしていただけはある。


・最後のネクロスの言葉、気になり過ぎるんだが……。魔王の不死の秘密とか。


・しかし散々考察されてたが、やはり魔王は元人間で確定か。


・エルミカ様「全部知ってるから、殺して良いぞ」 ファルティナ「はい(消毒)」


・やっぱりエルミカ様って、世界の真相について一番知ってるんだよな。……信じていいんだな?


・でもなぁ……エルミカ様、勘違いとガバも多いからなぁ。


・発言の半分しか信用できない男。


・もう半分は真実だから困る。


・知ってること、全部教えろ!


 ◆



 こいつら、好き勝手言いやがって……。 

 レスバしたい気持ちに駆られるが、またそれをやると何の成果も得られないので、ここはグっと堪える。


 俺は失敗から学べる男なのだ。


「しかし本当に週刊少年漫画で連載されているのか……あんな胸糞悪いエロゲ、少年誌に乗せちゃダメだろ」


 全国の青少年の脳味噌が破壊されてしまう……と思ったが、どうやらR18描写はオミットされているらしい。

 とりあえず、無料公開されている一話を確認したが、「主人公レナード君」が「勇者エルミカ」に憧れ、最高の勇者を目指すという王道な少年漫画になっていた。


 しかも二話以降のタイトルから内容を推察するに、レナードとリーゼは学園に通うらしい。

 奴隷市場でも娼館でもなく、学園だ。

 まさかの爽やか学園バトルファンタジーだ。


 決闘とか、トーナメントとか書いてあるし。

 「君の力じゃないか!」とかレナードが叫んだりするのだろうか?

 草生える。


 そしてこの少年漫画の大人気キャラが……俺と。

 ……そう言えば、女性ファンが多いんだっけ?


 『エルミカ』 『カッコいい』


 試しに検索してみる。

 すると……。


 ◆


エルミカ様、いつ見ても顔が良過ぎる【ウィリディステラ・クエスト】


・顔が良過ぎる……。


・目が凄く綺麗だよね。


・エルミカ様、マジカッコいい!


・エルミカが駆け付けて来てくれた時の安心感、半端じゃない。


・ちょっとドジなところがあるの可愛いよね。



 い、いやぁ……。

 それほどでも……あるかな?



 やはり俺くらいいい男になると、次元の壁を超えて女の子にモテてしまうようだ。

 モテる男は辛いなぁ。



・レナードとの距離感、イイよね。


・厳しいこと言いながらも、何だかんだで後を追って、見守ってくれるの優しい。


・たまにストーキングしているの、重くていい。


・エルミカ様、レナードのこと大好きだよね。


・というかエルミカ様って、絶対にそっちの気あるよね? だってクルシュナ王子には距離感近いし。


・ララとファルティナとはそういう雰囲気にならないのに、クルシュナ王子には積極的に距離詰めるしね。


・レナ×エル、いいよね……。



 ……うん?

 レナ×エル?



・いや、エル×レナでしょ。


・どう考えてもエルミカ様が攻めでしょ。描写的に。


・最大手はレナ×エルだから。


・公式はエル×レナなんだよなぁ。


・普段は強気のエルミカが、ベッドの上だと弱気になるのがいいじゃん。



 ……?

 こいつら、何を言ってるんだ?

 俺がベッドの上で……誰に何を、教わると?



・エルミカ様って、絶対に受けだと思うんだよね。


・押し倒されたら大人しくなるタイプ。


・ああいう強い男が屈服される展開、好き。


・エル×クルも好き。


・クルシュナ王子、凛々しくてカッコいいよね。


・エル×クルはスレチだから。


・いや、ここエルミカスレなんだからエル×クルの話はいいでしょ。



 ま、まさかとは思うが……。

 「レナ」ってレナードのこと?

 俺、レナードとカップリング、組まされてるのか?


 そ、そんなわけ、ないよね? 

 誰得だよ、ニセ勇者エルミカと本物勇者レナードのカップリングって。


 俺は震える手で「レナ×エル」と検索した。 


 すると大量の同人誌がヒットした。

 その表紙にはレナードの聖剣で貫かれる俺の姿が描かれていた。


 おうぇぇぇぇぇ……。





「酷い夢を見た……」


 いつも通り、差し込む朝日に目を覚ました俺、最悪の気分で目を覚ました。

 同時に声が聞こえた。


「おはようございます、エルミカ様」


メイド服を着込んだ桃色の髪の少女が俺のベッドの横に立っていた。

彼女は恭しく、俺に一礼した。

ララ・シーリウスである。

行き場もない、仕事もない二人を、俺は使用人として雇用したのだ。

しかし……。


「もう起床時間だっけ?」

「いえ、起床時間まであと十五分です」

「そうか。なら、なぜここに?」

「いえ、起きるまで待機しておりました」


 ララは真面目な顔でそう言った。

 そ、そうか……まあ、仕事熱心なことはいいことだ。

 しかし……。


「どうかされましたか?」

「前より肉がついてきたな」


 二か月前よりも、健康的な体になっている。

 まだ痩せてはいるが……これだけ体格が戻ったなら、そろそろ鍛錬を始めても良い頃合いかもしれない。


「そ、それは太ったという意味でしょうか!?」


 しかしララはショックを受けた表情で、自分の体をペタペタと触りだした。

 少しデリカシーのない発言だったか。


「健康的になったという意味だ。以前が痩せすぎていたからな。個人的にはもっと、体重を増やした方が良いと思う」


 まだまだ痩せている範疇だ。

 もう少し脂肪をつけた方が、筋肉も付きやすいだろう。


「なるほど! 分かりました。エルミカ様に気に入っていただけるように、頑張ります」

「あー、うん。そうか」


 俺が気にしているのは君の健康なのだが。

 ツッコミを入れようか悩んでいるうちに、ララは仕事モードになっていた。


「こちら歯ブラシです」

「コップです」

「水桶です」

「タオルです」


 差し出された物を使い、ベッドの上で歯磨きから洗顔まで済ませる。

 ここまでやる必要はないと言いたいところだが、便利なので受け入れてしまっている。


「こちら、お着替えです。……お手伝いいたします」

「あぁ、うん。ありがとう……」


 貴族は自分で着替えたりはしない。

 だから着替えを誰かにやらせることはおかしくはないが、しかしこの仕事は熟年使用人の仕事だったはず。

 いつの間にかララの仕事になっていた。


「お食事の準備はできております。どうぞこちらに」


 ララに案内され、朝食の席につく。

 朝食を食べ終えた後は書類仕事だ。


 戦争というのは、戦争そのものよりも、準備や戦後処理の方が大変だったりする。

 それはネクロスの討伐も同じだ。


 奴隷商人たちを逮捕し、奴隷を解放し、復讐しようとする奴隷たちをなだめ、逃げ出そうとする奴隷商人たちを再逮捕し、冒険者ギルドや都市連合に都市を引き渡し、奴隷の再就職先を斡旋し、奴隷商人たちの裁判に関する意見書を提出し、そしてこれら全ての戦後処理に協力してくれた貴族たちにお礼の手紙を書き……。 

 おそらく、俺一人では半年はこの作業に忙殺されたことだろう。

 しかしである。


「こちらの書類、まとめて置きました。エルミカ様」

「ありがとう。助かるよ」


 俺はララから書類の束を受け取り、中身を確認する。

 ……相変わらず完璧な出来だ。

 彼女の活躍もあり、半年は必要な仕事が一ヶ月で終わりそうだ。


 こうして書類仕事を片付けた時には、すでに日は落ちていた。

 夕食を食べ、その後に剣を振り、鍛錬をする。

 

 その後は風呂だ。 

 この世界では入浴は非常に贅沢な娯楽だが、これだけは譲れない。


 さあ、ひとっぷろ入ろう!


「こちら、お着換えとタオルです」


 浴室に向かおうとすると、既にララが入浴の準備を終えていた。

 夜も遅いのに、待っていてくれたのだろう。

 脱衣室に入ると、当たり前のようにララが俺の後に続いて入って来た。


「それではお召し物を……」

「さすがに自分で脱ぐから」

「しかし……」

「俺も思春期だから」


 思春期のやつはそんなことを言わないだろうな。

 と思いながら、俺はララの肩を掴み、強引に脱衣室から退出させる。


 世話焼きなのは分かるが、限度がある。


 俺は風呂に浸かりながら、思わずため息をつく。

 生粋の貴族であれば世話を焼かれても何とも思わないかもしれないが、俺の中身は小市民だ。

 使用人の仕事がなくなると困るので、ある程度のことはやらせているが、しかし譲れない一線はある。


「……体を洗うか」


 お湯から出てから、身体を洗う。

 本来ならマナー違反だが、そもそもこのお湯は俺のために沸かされたので汚れたとしても問題ない。

 お貴族様万歳!


 俺は椅子に座り、手拭を手に取る。

 風呂に入るのは好きだが、しかし体を洗うのは面倒で、好きではない。

 もっとも、だからといって人に洗ってもらうのは流石に恥ずかしいけど……。


「お背中、お流しします」

「あぁ、ありがとう」


 背中を手拭で擦られる。

 自分でもやれるが、やはり人にやってもらった方が気持ちいい。

 ララは気が利くな。

 ……うん?


「おい、待て」

「はい」


 ララの手が止まる。


「何をしに来た?」

「ご奉仕しようかと……」


 彼女は薄い生地で出来た湯浴み着を身に纏っていた。

 風呂場の蒸気と汗でほんのりと生地が透けている。


「……そんなに情熱的に見つめられると、恥ずかしいです」

「おう、そうか。じゃあ、出て行こうな」

「でも、まだ前が……」

「いいから!」


 俺はララの肩を掴み、強引に風呂場から追い出した。

 何を考えているんだか。


 体を洗い終えてから、再び湯舟に浸かる。

 体を十分に温めてから、上がる。


 するとすでにララが脱衣室で待機していた。

 念のためにタオルを巻いておいて良かった。


「こちら、お着換えです」

「ありがとう」

「……」

「……」

「……どうされましたか?」

「あっち向いてくれ」

「……かしこまりました」


 俺の言葉に気付いたのか、ララは後ろを向いた。

 残念そうな表情だったような気がしたのは、きっと気のせいだろう。


 風呂から上がった後は晩酌の時間だ。

 葡萄酒を飲みながら、今後の方針を考える。

 未成年飲酒……? うるせぇ。この世界にはそんな法律、ないんだよ!

 というかこの世界の住民は乳離れした時から酒を飲むので、飲まない方がおかしいのだ。


「どうぞ」

「あぁ……ありがとう」


 手酌しようとしたら、ララに葡萄酒を注がれてしまった。

 メイドとしてはきっと正しいのだろうが……。


「もう今日は遅いし、付き合わなくていいよ」

「しかし……」

「一人で飲みたいから」


 俺がそう伝えると、ララはとても悲しそうな表情をした。

 そんな捨てられた子犬みたいな顔をしないで欲しい。


「うーむ……仕事熱心なのは良いことだが」


 そんなに今の仕事が楽しいのだろうか?

 しかし特別、楽しそうにしているようには見えないが……。


 もしかして、リリの分まで頑張らないといけないと思っているとか?

 いや、でもリリはリリでそこそこ頑張っているというか、たまに皿を割ったり、バケツをひっくり返したりしているくらいで、「新人だし、こんなものか」くらいの働きぶりだ。


 ララが挽回しなければと意気込むほどではない。


 ……でも、問題が生じているわけでもないし。

 怠けているよりはいいか。


 俺はほろ酔い気分で寝室へと向かう。

 そのままベッドの中に潜りこむ。


 ベッドはまるでつい先ほどまで、人がいたかのように温かかった。

 手を伸ばすと、何やら温かい湯たんぽのようなものがある。

 湯たんぽよりは、少し温い。

 人肌くらいの温かさだ。

 思わず抱きしめると、何だか安心するような温かさだ。

 シルクのように滑らかな手触り。


「ん……」


 そして可愛らしい声。

 うん、これは人だな。


「……うおぉ!」


 俺は慌てて毛布を捲り上げた。

 そこには可愛らしいネグリジェを身に纏ったララがいた。






_______




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