第5話 頼れる主婦の知識
ある晴れた午後、未来の暮らしにも徐々に馴染み始めた女中の一人、お春は、食材の買い出しを任され、商業施設の一角にあるスーパーを訪れていた。
「これは……一体何の草でしょう……?」
手に取った透明な袋の中には、白く細い茎が詰まっている。戦国の市場では見かけたことのない、もやしという食材だ。隣には、さらに細くて頭に小さな傘がついた「えのき茸」と書かれた品が並ぶ。お春は眉をひそめた。
「どちらも食べられるのかしら……茹でる? 炒める? どう使うの……?」
そんな彼女に、後ろから優しい声がかけられた。
「もやしとえのき、迷ってるの? それ、どっちも安くて便利なのよ~。炒めても、汁物にしてもおいしいわよ」
振り向くと、買い物カゴを持った中年の女性がにこにこと笑っていた。エプロン姿で、いかにも“主婦”といった風貌である。
「は、はい……初めて目にするものばかりで……どのように料理するのがよろしいのか、見当がつかず……」
お春の古風な言葉遣いに主婦は一瞬きょとんとしたが、すぐに「もしかして映画の撮影中だったかしら?」と納得した様子で頷いた。
「簡単でおいしいの、教えてあげるわよ。もやしとえのきとね、糸こんにゃくを一緒に炒めてきんぴらにするとすごく美味しいの。ごま油で炒めて、醤油と砂糖で味付けするだけ!」
「きんぴら……というのは?」
「お野菜を甘辛く炒めた和風のおかず。ご飯によく合うのよ。あ、もし厚揚げが好きなら、キャベツと一緒にお味噌汁に入れるのもおすすめ。お腹に優しくて栄養満点!」
「厚揚げ……キャベツ……味噌汁……」
聞き慣れない単語に最初は戸惑っていたお春だったが、主婦がスマートフォンで写真を見せてくれると、その美味しそうな見た目に思わず声を上げた。
「まあ……これは立派なお惣菜ですね! まるで料理屋で出されるような……」
主婦はにっこりと微笑んだ。
「ふふ、でも家庭で簡単にできるのよ。初めてでも大丈夫。糸こんにゃくは臭み消しに軽く下茹でしてから炒めると良い感じに仕上がるわ。味噌汁は、だしを取って、キャベツと厚揚げを煮るだけ。最後に味噌を溶いて完成よ。」
お春は感動したように頷き、主婦の助けを借りながら、もやし、えのき、糸こんにゃく、厚揚げ、キャベツ、そして味噌や調味料を買い物かごに入れていった。
「本当にありがとうございます。こうして親切に教えていただけるとは……」
「いいのよ。最初は誰でもわからないもんだし、頑張ってね。もしまた困ったら、いつでも声かけてね」
別れ際、主婦がそっとお春の肩をたたいたとき、お春は胸の奥が温かくなるのを感じた。
——戦乱の世ではこれほど親切な人に出会ったことがなかった。
その夜、お春は女中仲間とともに、初めての“現代風きんぴら”と“厚揚げとキャベツの味噌汁”を作った。台所には香ばしいごま油の香りと、味噌のやわらかな湯気が立ち込める。
市も一口味わって目を見開いた。
「……美味しいです。今後の献立に取り入れたいくらいですね……」
笑い声と湯気が立ちのぼるキッチンで、女中たちは現代の知恵と味に出会い、新しい世界との絆を感じていた。
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