ポンちゃんとボク 〜ある夜、ボクの部屋を訪れた不思議な生き物が教えてくれたストレス解消法、それは人を死に誘う呪いだった〜

市ノ瀬茂樹

第1話 よくある事故:①

 ドギュガシャァァァーン! 


 赤信号で止まっていたトラックに軽自動車が追突した。


 よくある事故だ。


 違ったのは軽自動車がノーブレーキで追突したトラックは建設現場で作業用の足場を組む鉄製の太いパイプを積んでいたこと。


 本来ならば荷台後部のは上げておくが、長くて太いパイプをまっすぐ積み下ろしするためにはチェーンで固定して下げてある。


 そのパイプは荷台の後部から飛び出していた、もちろん注意喚起の赤い旗をパイプに結びつけてある。


 そしてパイプはちょうど軽自動車の運転席の高さで固定されていた。


 普通なら、その赤い旗に気づいて車間距離をとるし、信号待ちで近づいてくることも無い。


 だが、軽自動車はスピードを落とさずに追突した。


 太いパイプは軽自動車のフロントガラスを突き破り、運転手の顔に突き刺さった。


 トラックから下りてきた運転手の作業員はスマホを取り出して110番通報と救急車を呼んだが、助手席に乗っていた作業員はスマホを動画モードにして、信号待ちをしていた車両のナンバーと運転手の顔を次々に録画している。


「おい、なにやってるんだ!」とトラックの運転手が言うと、助手席に乗っていた作業員は言った。


「いや、俺たちは赤信号で止まっていただけですよ、そこに追突してきたんだから、俺たちは悪くない。赤い旗もちゃんとつけているし」


「それは、そうだが……」


「この録画を警察に見せて、他の車の運転手に証言してもらわないと、俺たちが悪いことになりますよ」


 うむむむとトラックの運転手はうなった。


 顔を貫通した太いパイプで軽自動車の運転手は絶命している。


 軽自動車には不動産会社のロゴと電話番号が書いてある。


 110番通報と救急車の手配を終えたトラックの運転手は、その不動産会社に電話をかけた。


 東京都内ではよくある死亡事故、しかも追突した運転手に過失がある。警察による事情聴取や現場検証の結果、トラックには過失が無いと結論づけられたが、そもそもどうしてノーブレーキで軽自動車が追突したのかはわからなかった。


 そして……、事故発生後に軽自動車の運転手が絶命すると、首の後ろにある黒いシミ……、横長の楕円形の上に小さな縦長の楕円形がよっつ並んだ黒いシミ。見方によっては、小動物の足跡に見える黒いシミが静かに消えていくのを見た者はいなかった。




 ーーーーーーーーーー





 さかのぼること2時間前、アラマニエール不動産の営業マン、ツチヤマ・タカヒロは東京都内某所の飛び込み営業をしていた。


 たまたま訪れた住宅の持ち主が空き地の処分に困っていると聞き出したツチヤマは「それなら、ひとまずコインパーキングを営業されてはいかがですか?」と持ちかけた。


 建て売り住宅やアパート・マンションよりも、日銭が稼げて他にも転用可能なコインパーキングは地主の心を動かした。


 都内ならコインパーキングはいくらあっても足りない。


 設備の設置やパーキング料金の徴収に管理はおまかせで、毎月一定の利益が得られる。


 ツチヤマはもう何件もコインパーキング物件をまとめてきた。そこから得た具体的なパーキング経営プランで地主から「前向きに検討する」と確約をもらった。


 ツチヤマはウキウキ気分で会社に社用車を走らせた。


 信号の無い交差点を通過する時に、対向車線の車が止まっているのを見たが、気にせずに横断歩道を通過した。


 その時、対向車線側の横断歩道を渡ってきた少年と接触しそうになったが、とっさにハンドルを切ってかわし、そのまま通り過ぎた。


 よくある光景だ。


 違ったのは、その少年がツチヤマの運転する軽自動車に向かって左手を上げ、人さし指を伸ばして「ポン!」と言ったことだ。


 その瞬間にツチヤマの首の後ろに黒いシミが現れた。


 小動物の足跡に見える黒いシミ。


 少年は走り去る軽自動車を見て「はー、スッキリしたぁ」と言って笑いながら歩き去った。

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