第三勢力無双日記(仮)

忠実 零

第1話:転生

「坊ちゃま!坊ちゃま!!」

俺は、黒いフリフリの付いた服を着たメイドに、強制的に起こされた。

(…ん?)

見知らぬ天井。ふかふかのベッド。そして、可愛いメイド。


何かがおかしい。


本来の俺の環境は、独特な模様の木でできた天井。簡素な布団。メイドどころか彼女さえもいないと言う、何の飾り気もない平凡な生活をしていたはずだ。


「ん…。どうしたん…ですか…?」

「本日は入学式ですよ!このままだと遅刻してしまいます!お顔を洗って、食堂までいらしてください!御飯ができております。」

「んー…。え?入学式!?」

「はい。ファルスト魔法学園の入学式でございます。」


ファルスト魔法学園…?どこかで聞いたことがある。頭の中で必死に過去を振り返る。


あぁ。思い出した。


俺が学生時代にインターネットにて無料配信されていた異世界系RPGゲーム「フリザレオ」に出てくる魔法学園だ。確か、各々のスキルに合わせて、個性を伸ばす教育を施し、魔王を撃破する勇者を生み出すとかなんとか。あのゲーム、やりこんでたなぁ。


「坊ちゃま?良いから早くご支度を!」

「あぁ、ごめんなさい。」


すると、そのメイドは目を大きく見開いた。


「どうしたんですか?」

「いえ、坊ちゃまが私に敬語を使うなんて…。」


どうやらこの世界の俺は、普段はメイドに傲慢な態度を取っているらしい。


「なんかいつも、すみません。」

「…はぁ。」


そう言うと、メイドは駆け足で俺の部屋を出て行った。


しかし、これは夢か?でも夢にしては妙にリアルだ。頬をつねってもしっかり痛い。俺はどうやらフリザレオの世界にやってきてしまったらしい。前世では死んだのか…?この世界の俺の名は?もしかして主人公や悪役に転生してこの世界を無双しちゃいました!みたいな?


俺は、ワクワクしながら自室の鏡に姿を映す。


「………誰だよ!!」


そこに映っていたのは、このゲームの主人公でも悪役でもない、本当に平凡そうな小柄な貴族の男の子だった。髪は紺色で、マッシュ。目も普通の紺色。着ている服も豪華と言えば豪華ではあるが、派手ではなく、どこか呆気ない。


どうやら俺はモブキャラの貴族に転生してしまったらしい。


はぁ。なんでだよ。せっかく楽しい異世界ライフを送れると思ったのに。こんなモブキャラじゃ…。


ピロン


ふと、こんな音が鳴った。目の前に文字が出る。


名前:アモン・レイ・ファントーム

年齢:13歳

スキル:幽霊擬態ゴースト・ミミック

スキルランク:C-

レベル:1

特殊能力:???


これが俺の名前…?そう言えば、ゲームをやった時も主人公のステータスはこのような感じで表示されていた。


幽霊擬態ゴースト・ミミック


これははっきり言って"雑魚スキル"だ。スキルランクも見ての通り、C-。この世界で最も弱いスキルランクに該当される。


でも、俺はにやけてしまった。なぜなら、知っているからだ。このスキルが進化した時の真の強さを。


フリザレオの世界では、様々なスキルがあり、それを利用して攻撃するわけがだ、武器に自分のスキルを一時的に込めて放出すると言うのが一般的だ。例えば、杖に自分の魔力を込めて放出するという手段だったり、盾に自分の魔力を込めて、触れたものに逆にダメージを与えるなど、様々なものがある。


ただ、これには例外がある。まぁ、例外と言っても根本は変わらない。道具の代わりに自分の身体を使うのだ。俺のスキルもその一つ、身体犠牲ボディ・サクリファイスに該当する。身体犠牲ボディ・サクリファイスは、自分の身体に対して術をかけ、放出する。自分の体力を少し削りながら攻撃するため、世間的には弱いとされており、差別の対象にもなるほどだ。確かこのゲームの主人公も身体犠牲ボディ・サクリファイスのスキルを持っていた。俺のスキル、幽霊擬態ゴースト・ミミックも先ほど述べたように、身体犠牲ボディ・サクリファイスの一種だ。しかし、幽霊擬態ゴースト・ミミックが雑魚スキルと呼ばれる要因は別にある。それは、幽霊擬態ゴースト・ミミックの効果は、"自らを透明にする"以外にないと言うことだ。他のスキルはまだ攻撃が可能。しかし、俺が持たされているこのスキルは自分の体力が許す限り、透明化が持続されるだけ。はっきり言って、弱い。弱すぎる。


それにこのスキルは、よっぽどのフリザレオ好きじゃないと知らないスキルだ。本編ストーリーには出てこず、インターネットの公式サイトのさらに深い部分を見ない限り、見つけることができない。


まぁ、よく分からないけれど、とりあえず学校に行くしか選択肢はなさそうだな。


そう思っていると


「坊ちゃま!お急ぎを!」


と不意に声がした。


「すみません!今行きます!」


寝ぐせらしきものを適当に手で整え、駆け足で自室を後にした。

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