第2話 社畜、初めてのモンスター登録

「……あの、これ、本当に冒険者登録できてます?」


ギルドカウンターの前で、神楽ユウトは小さな声で尋ねた。

昨日、女神から《天使の書》を授けられ、異世界に転生したばかりだ。


受付嬢はユウトが記入した書類をめくり、鼻で笑った。

職業社畜、能力値不明?……失礼ですが、冒険者向きではありませんね」


ユウトは肩を落とす。

「やっぱりか……」


現世でも散々叩かれた社畜としての烙印は、異世界でも健在のようだ。


「戦士や魔術師ならまだしも、《社畜》?で依頼に出るなんて自殺行為です。命を無駄にしたくなければ、畑を耕すか木を切るのがおすすめです」


――こうして、ユウトは冒険者ギルドから半ば追放された。


町外れの草原。腰には借り物の木剣だけ。装備らしい装備は何もない、ただの社畜姿だ。


「……仕方ない。自分の力でやるしかないか」


頭に《天使の書》を思い浮かべる。死ぬと耐性がつき、スキルが進化する。


「なら、試しに……死んでみるか」


そう、既にユウトの感性は狂っていた。


草原を歩くと、最初に目に入ったのはEランクスライム。

青い体をぷるぷる揺らしながら跳ねる、小型のゼリー状モンスターだ。


「おお、初めてのモンスターか!」


木剣を握りしめ、突進する。


ぺちっ。


スライムのゼリー状の体は柔らかく、木剣はほとんど効かない。逆に跳ね返され、ユウトの顔に覆いかぶさる。


「うわ、窒息!? ちょ、やめっ……ぐぶっ……!」


視界が暗転した。――死因:窒息。


「……ぷはっ!」


目を開けると、再び草原に立っていた。体は元通り。


【スキル習得:スライム無効】

【スキル習得:捕食(初級)】


「おお……効かない! しかも吸収してエネルギーに変わる!」


試しに再びスライムに触れると、ぴゅるんと吸収され、体内で魔力に変換された。腹が満たされる感覚もある。


「なるほど、死ぬほど強くなるってこういうことか」


数分後、草原でスライムが群れを作っているのを発見。5匹ほどがユウトの周囲に跳ねている。


「……まずは落ち着こう」


ユウトは木剣に魔力を集中。捕食スキルで吸収したエネルギーを刃に流し、スライムの1匹を斬る。青いゼリーが閃光と共に吸収され、体内の魔力が増す。


残りのスライムも同様に吸収。跳ね回るスライムの動きは早いが、ユウトは冷静に回避し、耐性と捕食スキルで次々と倒す。


「……ふぅ、これが《天使の書》の力か」


倒した後、ユウトは小さく頭を下げる。

「まだまだ力不足だろうけど、これで少しは役に立てるかな」


翌日、どうせ死なないからと草原で夜を明かしたユウト。

門番に不審がられていることに気が付かず、ギルドを再訪した。


「……先日の報告です。Eランクスライムを討伐しました」


受付嬢は書類を見て目を丸くする。

「……本当に?」


ギルド内の広間に呼ばれると、長身で威厳ある黒髪中年のギルドマスター、

ラルフ・アーディンが座していた。秘書は獣人・猫耳のミラ。鋭い耳と尻尾を揺らしながら、ユウトをじっと見つめる。


ラルフが低く響く声で尋ねる。

「……君、登録の職業は《社畜》で間違いないな?」


ユウトは頭を下げ、謙虚に答えた。

「はい、ですが昨日、Eランクスライムを討伐しました」


ミラが小型の水晶魔石を取り出す。

「では、討伐証明を確認しましょう」


水晶魔石に光を当てると。ユウトの職業と討伐欄にスライムが表示された。


名前:神楽ユウト

職業:社畜

討伐:スライム(E級)


「……なるほど、確かにスライムを討伐していますね。(E級ですが)」

ミラがうなずく。光る魔石が、ユウトの討伐の証明として輝いている。


ラルフも頷き、力強く言った。

「よし、君を正式に冒険者として認めよう。初日は追い返して悪かったな。

 俺たちも命を無駄に散らして欲しいわけじゃないんだ。

 もちろん、スライムはE級だが、立派なモンスターだ。これから一緒に頑張ろう」


ユウトは小さく深く頭を下げる。

「ありがとうございます。まだ力不足ですが、精一杯頑張ります」


謙虚な姿勢のまま、ユウトは初めてギルドに認められた。

そして手渡された魔石の証明は、

後の冒険でユウトが信用と実力を示す強力な証拠となる――。

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