この世界は理不尽と不条理で満ちている

熊谷 雅弘

第1話 序

 それは、なんの変哲もない墓標だった。

 それほど広くない霊園で、整然と居並ぶ墓標たちの中に、灰白色のそれはあった。

 「――これが…、あの子のお墓よ」


 ――マジ、でぇ?…


 青白い顔色の母親がつぶやいた言葉が、呆然と立つ月見里やまなし彩香の頭で、エコーのように響き渡っていた。

 かたわらの小鳥遊たかなし宏一も、脱力して呆然としている。


 ――被疑者死亡…


 絶望的な言葉が、彩香と宏一の脳裏へ浮かんだ。

 ようやく、ここまで辿たどり着いたというのに…

 これでは捜査が、振り出しへ戻ってしまう。


 その一方、無表情を装う母親だが、口元をキュッと結んでいて、なにやら動揺を抑えているかのようだ。

 ――私は、あの子が…、言ったとおりにしたまで…


 それぞれの思惑が絡み合う三人の間を、初冬の旋風つむじかぜが無数の落ち葉を伴って、サァ―ッと吹き抜けて行った…

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