第10話 もうひとつの残骸

窓に映った歪んだ自分の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

あれは光の悪戯などではない。

私の存在そのものが、この場所で確かな輪郭を失い始めている証拠だった。

私たちは、生きている人間ではないのかもしれない——そのおぞましい疑念は、もはや否定しようのない確信へと変わりつつあった。


真実を知らなければならない。

たとえそれが、人の心を踏み躙るほどに残酷なものであったとしても。

私は、まるで何かに憑かれたようにふらりと立ち上がり、機体の出口へと向かった。

乗客たちの訝しげな視線が突き刺さるが、もうどうでもよかった。


一歩、外へ踏み出すと、ひやりとした霧が肌を撫でる。

すると、まるで待っていたかのように、伊藤美咲が私の隣に立っていた。


「お姉ちゃん、どこか行くの?」

「……少し、外の空気を吸うだけよ」

「ふーん。じゃあ、いいもの見せてあげる。こっちだよ」


美咲ちゃんはそう言うと、私の手を引き、躊躇いなく霧の中へと歩き出した。

その小さな手に引かれるまま、私は無抵抗に後をついていく。

彼女がどこへ向かっているのか、私には分かっていた。

この世界の真実が待つ場所へ。


霧は、歩けば歩くほど深くなっていく。

方向感覚は完全に失われ、まるで世界の全てがこの灰色に塗りつぶされてしまったかのようだった。

どれくらい歩いただろうか。不意に、美咲ちゃんが立ち止まり、前方を指さした。


「あれが、本当のおうちだよ」


霧の向こうに、巨大な黒い影が横たわっていた。

それは、飛行機の残骸だった。

しかし、私たちが今まで避難していた、奇跡的に原形を保った機体ではない。

機首は無惨に砕け、翼はちぎれ飛び、胴体は真っ二つに引き裂かれている。

紛れもなく、墜落した旅客機の成れの果てだった。


全身の血が凍りつく。足が震え、呼吸が浅くなる。

それでも、私は目を逸らすことができなかった。

ゆっくりと、一歩、また一歩と、その「本当の残骸」に近づいていく。


そして、見てしまった。

引き裂かれた機体の隙間から覗く、内部の光景を。

そこには、原型を留めないほどに破壊された座席と、それに無残に叩きつけられた、夥しい数の「肉塊」が転がっていた。


その中に、見慣れたチーフパーサーの制服があった。

そして、その制服を着て、首が不自然な方向に折れ曲がっている「それ」が、紛れもない、宮内咲良の——私の、亡骸だった。

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