第4話 妹


 お昼ごはん終了!

 作業再開です。


「んじゃ、シズクさんとマスダさん、適当に梁立てといてもらえますか。僕、軽トラ借りてくるんで」


「軽トラ?」


 この鬼族と虎族の2人に、軽トラなんて必要なさそうですけど。


「あ、仕事に使うんじゃなくて、うちまで行くのに。歩きだとちょっとありますし」


「なんだ、少しは気い使うじゃん」


「んじゃ、お願いします」



----------



 10分後、オリネオ市。


 びーん・・・

 入口門を、テルクニ君のムハンマド号が走って行きます。

 すぐ側に魔術師協会が・・・あ! あれは妹のユキちゃんです。


「あっ」

「んっ」


 ぶーん、ぶぶぶん・・・


 すぱー!

 ユキちゃん、タバコ吸うんですね。

 しかも電子タバコじゃなく、紙巻きです。


「ユキ、お前、通りで吸うなよ」


「良いじゃん。この辺なら文句言われないよ」


 タバコって、外で吸ってる時の対応、地域とか集落で凄く変わりますよね。

 すごく文句言われる所もあれば、むしろ警察の人が歩きタバコしてたりとか・・・


「そうじゃなくて、誰かにチクられたら、母さん達にバレるぞ。良くないだろ」


「やべ! それは良くない!」


 なんで電子タバコ推進しながら、価格は紙巻きタバコと同じ値段なんでしょう。

 しかも本体を何ヶ月かおきにころころ出して、美味しい商売ですよね。

 ユキちゃんはそこに気付いて、すぐ紙巻きに戻りました。


「お兄ちゃんサンクス」


「はー・・・仕事、もう終わったのか?」


「今日のノルマはあと1時間もかかんないねー。ちょろいもんよ」


 ユキちゃん、家に居る時と何か表情が違う気が・・・


「あ、そうそう、お兄ちゃん、バイトする気ない? どうせダンジョンの儲けなんて、いくら稼いでも、お母さんに9割9分持ってかれちゃうでしょ」


「内容による」


「お兄ちゃんなら楽よ。発電所に行って、大型バッテリーに充電するだけ。1分かかんないでしょ」


「大型って、どれ? 太陽光とか風力の蓄電するやつ?」


「そうそう。お兄ちゃんなら、1分で満タンに出来るでしょ」


「1分はさすがに無理だと思うが、まあ楽だな。いくら?」


「月イチで金50枚。要魔術師資格」


「金50枚!? おい、魔術師資格必要っつっても、値段おかしくねえか!?」


 テルクニ君、ユキちゃんが黒く笑ってますよ。


「でも電気代は全く変わらないっていう」


「おい・・・それ大丈夫なバイトか?」


 電気代が変わらないのは、おかしいですね・・・

 余剰電力は、もちろん他地域の電力会社に売るんですよね。

 バッテリーは一杯ですし、いくら入るんでしょう。


「大丈夫だよ。だって電力会社から堂々と話しにきたんだから。怪しくないよ」


「は? 直に?」


「そうそ! 魔術師での電力供給試験運用ってやつ! でも試験運用はあと何十年も続くってパターン。気付いたらバッテリーの耐用年数は過ぎちゃってたのだ! 儲けに儲けて、新しくバッテリー入れて、もっかいテストー! あははは!」


「発売から何年経ってもアルファ版、ベータ版、アーリーアクセス、的なあれか。余程の事がない限り、これベータ版です、『予期せぬ不具合』があっただけです、でスルーのパターンだ。規約に書いてます。同意してますよね? で取り付く島もないあれだ」


「まさにそれー。ま、何かあっても、訴えられるのは、お兄ちゃんじゃなくて電力会社だし。何か聞かれたら知らんかったでOK。魔術師で電力供給とか普通じゃん? 新しく入れたバッテリーの運用テストです、みたいな名目」


「う、ううむ・・・ヤバそうな臭いはぷんぷんするが、20ヶ月で借金は返せるじゃねえか」


「でしょー? やるなら、紹介代で、金貨10枚ちょうだい」


「最初の1回目だけな。毎月はやらん」


「けち」


 ちょっと待って下さい。

 すぐ向かいに冒険者ギルドがありますが、そっちに話は?


「それ、冒険者ギルドに話いってないのか?」


「うん。一応、魔術師いるけどさあ。この仕事は魔力かなり使うっしょ? さすがに冒険者さんじゃねー、ってことで、魔術師協会の方に話が来たの」


「で? お前はなんでやらないんだ?」


「ヤバそうだもん」


 ユキちゃん、それを実の兄に紹介しちゃうんですか?


「お前な・・・」


「まあま。こっちこっち」


 ユキちゃんが手招きして、駐車場の車の裏に隠れます。行きましょう。

 路駐は駄目ですよ。ちゃんとムハンマド号は引いて行きましょうね。


「ヤバいってもさ、ダイヤ鉱床の護衛より全然ヤバくないでしょ? 安全だし」


「確かにそうだけどな・・・社会的な危機は感じる」


「ダイヤ鉱床も社会的な危機はあったでしょー? もうちょいで東西紛争だったんだからさー」


 テルクニ君、よっぽど危険なダイヤ鉱床に送られたんですね。


「それはそうだ。じゃあやるか。いつ行けば良いんだ」


「月1回。バッテリー少なくなったら、追加で呼ばれるよ。そしたらまた金貨50枚」


「まじか」


「夏場とか冬場は儲かりそうじゃない?」


「だな・・・しかし、相変わらず電気代は上がるんだろうな」


「にひひ。その辺の口止め料も込みって所じゃない?」


 50枚も納得の値段です。


「・・・」


 テルクニ君! それ以上いけない!


「この手紙に名前と住所書いて出して。住所は魔術師協会の方ね。うちに届くと、多分マツお母さん怒るから」


「名前は俺の? お前の?」


「お兄ちゃんの。発電所の立ち入り、通行許可証が必要でしょ。電話番号もお兄ちゃんのスマホの方ね」


「おっけ。じゃ出しとく。もうすぐ工事終わるからさ、そしたらシズクさんとマスダさん、うちに連れてくから」


「えーっ! マスダさん、来てくれるの!? 忙しいんじゃないの!?」


 ユキちゃん、実はマスダさんが、だいだいだーいすき! なんです。


「大丈夫だって。今から、シズクさんとマスダさん乗っけてく軽トラ借りに行くんだわ」


「わー! 楽しみー! 早く仕事終わらせて、現場行こうと思ってたんだけど!」


「今日はブリ=サンクでディナーじゃね? あ、配達かな・・・あの2人がホテルのレストランとか、超ビビられそうだし」


「皆、マスダさんの格好良さ、ぜーんぜん分かってないんだよねー」


「まあ・・・な」


 格好良いというか、凶悪さしか感じない風貌ですが・・・


「じゃあ、そろそろ行くわ。さすがに時間くったから」


「頑張ってね!」


「うーい。行くぞームハンマド号」


「その名前変えようよー」



----------



 ぶうん、がたがた・・・

 き。

 軽トラが止まりました。上手く借りられたようですね。


「うおいっ!」


 ばたん、とドアを閉めると、マスダさんの怒鳴り声!


「テえルクニいー! おめえはまたサボリか!」


「や、違うんすよ。オリネオに入った所で、ユキに見つかっちゃって」


「む」


 ぴくっとマスダさんの顔が変わりました。

 うわあ! この笑顔はなんでしょう!?

 これは範馬勇◯郎さんばりの笑顔です! むしろそれって笑顔ですか!?


「マスダさんに会いたいっつって、仕事ぶん回してたみたいで。マスダさんがうちに行くって言ったら、すげえ喜んでましたよ。忙しいの分かってますけど、今日は帰らないで来て下さいよ?」


「当たり前だろうがよお!」


「すません。ユキの我儘で」


「なあに言ってやがる! 元々行くつもりだったんだ! さあさあ! とっとと終わらせるかあ!」


 マスダさんがすっ飛んで走って行きます。

 おや? あれは・・・整地・・・?

 転がっている石を拾っては握りつぶし、拾っては握りつぶし・・・

 シズクさんも一緒になって・・・


(おおっ、なるほど! ああすればいちいち片付けに行かなくて済むのか!)


 テルクニ君! 頷いてないで!

 そこは感心するのは違うと思いますよ! 驚く所ですよ!

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