EP4(4)

「でも銃持っててバレたらどうするんですか?一般人はショルダーは知っていてもインサイドは知らないとかあるかも知れないですけど、相手はマジの反社ですよ。騙せないでしょ」

 少し丁寧にはなったが元が残っている口調で龍山が尋ねる。

「警察が拳銃を持っていることぐらい、知っているはず。それで調べなかったら相手は馬鹿ってだけですよ」

「それで1年半前撃てたのってそこにいた構成員が馬鹿ってだけです?」

「それは相手が手足縛らなかっただけです。ピストル突きつけられたので頭によせるフリして銃身掴んでそのまま奪ったってだけです」

「あっ!今、警察庁と警視庁から発表きました!ヴァルキリーのボスが昨日留置場で死亡したことと1年半前の事件で当時の被害者だった警察官が自己防衛のためと突入の際に別の警察官1名と幹部4名が死亡、そして幹部の1人が司法取引した。っと……」

 情報を待っていた隊員が報告に来る。

「上の判断はよくわからないな」

 土井がごちる。だがその通りだった。瞠を差し出せ、そう言ったかと思えば相手がぐらつく情報をここにきて発表。

「というか、上が守ってくれたということですか。また」

 実際は特殊部隊が倉庫内に突入した時には梛以外死んでいたというのに。

「あっ、ブンブンうるさかったのが鳴り止んだ」

 撮影ヘリとドローンが遠ざかり、人の声がより聴こえやすくなった。

「コネってすごいですねぇ」

「こういった時に便利なんですよ、コネっていうものは。ないよりはマシですから」龍山さんもご友人が聖園の御子息だからこう、ヘリが止まったわけですし」

「それもそうですね」


「気をつけてくださいよ」

 梛の心からの声だった。

「分かってますよ」

 梛は瞠に向き合い、ポケットから何かを取り出して襟の裏側に貼りつけた。

「公安らしさが出てますね」

 超小型発信機だった。

「人質につけるのは違法でないと思いますが」

「常時携帯してるとこですよ」

「本当に、気をつけてください……」

 梛は苦しそうな顔をしていた。

「本当に……」


「相手方の要求が変わった。幹部を殺したその警察官も一緒に連れて来い、だとよ」

 想像通りだった。あの情報を聞いて犯人達が梛にターゲットするのは。

「上はどうなんでしょうか?聖園の力がどれだけあるのか…‥はたまた今閑院だと分かったところで閑院の力はどれだけ残っているのか、僕には分かりません」

「どうやって閑院だってバレてなかったんです」

「閑院の力が強くて情報統制してたから、じゃないですか?聖園類、私と養父は特別養子縁組をしているので書類上で父ですが血は直系ではありません」

「直系でない?じゃあ繋がってはいるということ?」

「そう、養父は僕の実の祖父のきょうだいの息子……従兄弟叔父にあたります。閑院と婚姻という繋がりを得た聖園はかなり力を持つでしょうし」

「実際、私が15歳ごろの話ですけれど閑院に子がいる、という話はあっても顔などは知りませんでしたから。入学式の写真などは出回りませんでした。啓央幼稚舎に子を入学させる親はその辺り理解している親ばかりでしょうし……」

「とにかくコネで隠されていた、ということ」

「聖園になってからは聖園として堂々と表に出ているのも、問題かなと。あの事件後聖園になるまでは休学していたので」

「とりあえず、相手はヤクザどころの話じゃない、国家転覆さえ狙っていたやばい組織の残党です!動きを考えなきゃ……」

 そんなことは皆わかっていた。しかし、最適の方法など思いつかない。時間は過ぎ去っていく。

「行くしか、ありません。唯川さん、死なないでくださいよ。全部自分のせいとはいえ、もう死体なんか見たくないんです」

 どこかふわふわと、消えそうで仕方がなかった梛になにか形が定まったような感じがした。ふらふらと歩いて行って落ちそうだった梛がしっかり意思を持ってオチに行くような、そんな感じがした。瞠は、あなたもですよ。とは口に出せなかった。そんなオーラのようなものを梛は身に纏っていた。


「お前か、あの方達を殺したってのは」

 犯人の1人である男と人質になっていた男はいま、倉庫の外にいた。2人を大勢の警察官が囲んでいた。

「一つだけ、いいですか?」

 瞠の冷たい声が当たりを貫く。この場にいる誰もそんな声は聞いたことがないほどに恐ろしく冷たい声だった。

「今朝見つかった水死体の事件、ご存知ですか?」

「はぁ?ああ、ニュースになってるんだから当たり前だろ」

「その方、警察官なんですよ。まぁ、それもニュースになっていましたからご存知でしょうが。捜査2課の刑事で色々探ってたらしいんですが……」

「な、何が言いたい」

 犯人の男は焦っていた。

「関連があるのでは、というだけですよ。ヴァルキリー関連の詐欺事件だったようなので、まぁ知らないならいいですよ。それ以上、聞く価値ございませんので」

 瞠の冷たい瞳の奥に怒りがメラメラと燃えていた。


 

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