第16話 喪失の先に見つけた希望
ゼルガの葬儀を終えた後、俺たちは宿に戻った。
カインは部屋の片隅で、小さな箱を見つめていた。
「それは?」
俺が尋ねると、カインは静かに答えた。
「ミラの遺品だ。昔、俺が預かっていたものが残ってた」
箱を開けると、中には古い魔法の研究ノートが入っていた。
「ミラが書いたものか」
「ああ。あいつ、魔法の才能があったんだ」
カインはノートを開いた。そこには、幼い文字でメモが書かれていた。
『お兄ちゃんが人を守る魔法を作ってくれたら嬉しいな』
『お兄ちゃんの魔法で、みんなが笑顔になれますように』
『怖い魔法じゃなくて、優しい魔法をお願いします』
カインの目から涙がこぼれた。
「俺は……結局、怖い魔法ばかり研究してた」
「そんなことない」
エルナが優しく言った。
「カインさんは、ミラちゃんを守ろうとしてたんです」
「でも、守れなかった」
カインは拳を握りしめた。
「もう戦えない……ミラを死なせて、仲間を裏切って……生きている資格なんて……」
「カイン」
リョウが前に出た。
「俺だって完璧じゃない。感情に流されて処刑を主張したのは俺だ」
「リョウ……」
「俺たちはみんな、大切な人を救えなかった経験がある」
エルナも頷いた。
「私も昔、孤児院の子を救えなかった。今でも後悔してる」
「完璧な人なんていません」
アリシアが言った。
「大切なのは、そこから何を学ぶかです」
俺も口を開いた。
「ミラが望んでいたのは、お前の幸せだった。お前が苦しむことじゃない」
カインは仲間たちの顔を見回した。
「みんな……」
その時、カインはゼルガの遺品の中から、もう一つの発見をした。
「これは……」
小さな子供用の靴と、病気療養セット。そして、孤児院への寄付記録。
「ゼルガも……家族だけじゃなく、助けられる子供たちを救おうとしていたのか」
カインの表情が変わった。
「ゼルガも、俺と同じだったんだ。大切な人を守りたい、救いたいという想い」
「敵も味方も、根っこは同じなのかもしれない」
俺は呟いた。
カインは立ち上がった。
「ミラが望んでいたのは、俺の幸せ。仲間を守ることで、ミラを忘れない」
彼は決意を込めて言った。
「それが俺にできる最良の供養だ」
カインは魔法の杖を手に取った。
「新しい魔法を作る。ミラの想いを込めた、人を守る魔法を」
数日後、カインは新しい魔法を完成させた。
「守護結界!」
カインが杖を振ると、温かな光が俺たち全員を包んだ。
「これは……」
エルナが驚いた。
「すごい防御力。でも、攻撃的な感じが全くない」
「ミラの想いを込めた」
カインは微笑んだ。
「『もう誰も失わせない』という決意と共に」
リョウが感心した。
「お前、変わったな」
「ああ。ミラのおかげだ」
その夜、俺たちは焚き火を囲んで語り合った。
「みんな、敵も味方も、根っこは同じなのですね」
アリシアが言った。
「大切な人を守りたいという想い。それは貴族も庶民も変わらない」
「私たちは完璧じゃない」
エルナも頷いた。
「でも、間違いから学んで、より良くなれる」
「俺の正義感も、時には人を傷つける」
リョウが反省を込めて言った。
「感情だけじゃダメなんだな」
「ミラ……」
カインが空を見上げた。
「君の『優しいお兄ちゃんでいて』という願いを、今度こそ叶えるよ」
俺は仲間たちを見回した。
「敵も味方も、根っこは同じなのかもしれない。でも、だからこそ戦わなければいけないこともある」
「間違った方法を選ばないように」
アリシアが付け加えた。
「ゼルガの研究も無駄にしたくない。彼が必死に準備していた災害対策、もしかしたら本当に必要なのかもしれない」
「灰の冬……」
エルナが不安そうに呟いた。
「本当に来るのかしら」
「分からない」
俺は正直に言った。
「でも、備えることはできる」
アリシアが決意を込めて言った。
「ゼルガが残した研究、私たちで引き継ぎましょう」
「そうだな」
リョウも頷いた。
「次は、全員を救う方法を見つけよう」
ミラとゼルガの死を無駄にしないために。
そして、これから来るかもしれない災厄に備えるために。
カインは裏切りと喪失を経験したが、仲間たちの支えで立ち直った。
そして俺たちは、敵も味方も、みんな大切な人を守ろうとしているだけだということを学んだ。
でも、まだ終わりじゃない。
時の管理者クロノスの存在。灰の冬の脅威。そして、魔王軍の新たな動き。
試練はまだ続く。
それでも、俺たちなら乗り越えられる。
仲間と共に、正しい道を選び続ければ――
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