第15話 不倫の影響

 その日、次の日と康平は、帰ってこなかった。

「とうちゃんは?」

 駿の質問に、

「仕事に行ってる。」

 嘘をついた。仕事には、行かないと。重い足取りで店に行く。バイトの子たちが、一斉に私を見た。興味と軽蔑の視線が集まる。

 男の子たちが、「岡野と寝たんだ。」「亜香里さん、エロいんだ」「お前も、たのめばやらせれくれぞ。」と言っている顔だ。

 女の子たちは、「最低。子どもいるのに不倫とかありえない。」「ただのやりマン婆アだった。」そんな顔をしている。

 カウンターの中に入ろうとすると、足がすくむ。

「ちょっとこい。」

 店長が声をかけて、店の奥に連れていかれた。

「亜香里、お前、もうこの店で働くのは無理だ。」

「解雇ですか。」

 当たり前だ、バイトと不倫し騒ぎを起こしたんだ。

「そうは言っていない。うちの系列で『三心さんしん』という店がある。ちょっと遠くなるが、社員やバイトの交流はないから、今回の件は大丈夫だ。そこの店長と仲がいいから、話をしておいた。」

「すいません。」

「この足で、行くといい。」

「お世話になりました。」

 店長に頭を下げた。調理師としてキャリアを積んできた、今のポストを失うことに落胆した。バイトたちの好奇の目の中、店を後にした。


 「三心」へあいさつに行く。

「店長です。よろしく。」

店長が、気さくに迎えてくれる。

「ああ、一心の店長から聞いているよ。来週からよろしくね。ただ、仕事は、ホール係をお願いします。調理場は、今は足りてるんだ。」

「はい。」


私は、調理人としての仕事を失った。

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