第2話 後編 共犯となった、私たちの結末




ファレノプシス学園には、高慢な公爵令嬢がいる。


未来の王太子妃として尊大に振る舞っていた。


世界の守護者たる聖女候補にも辛辣に振る舞う。


しかし、その度に公爵令嬢の婚約者である王子が男爵令嬢を庇う。

いつしか王子は公爵令嬢よりも男爵令嬢を側に置くようになった。


誰の目にも2人が想いあっているのはわかるほどに。



***


公爵令嬢は自室に戻るとグッタリとソファに沈み込んだ。

……つ、疲れた。

慣れない事をするせいで、日々緊張の毎日だ。


公爵令嬢は急速に親密になっていく二人に嫉妬に苦しみ

ついつい男爵令嬢に辛く当たる。

しかし、そんな自分に苦悩しながらもそのプライド高さゆえに弱みを見せれない。

……という設定なのだ。




窓からスッーと青い小鳥が飛び込んでくる。

それを目の端で捉えながらげんなりとする。


「ちょっと!ちゃんとやってよね!」


愛らしい小鳥の口から出るのは男爵令嬢の声

こうやって毎晩、悪役指南のダメ出しをしてくるのだ。


「ごめんなさい、ちゃんとやってるつもりなのだけど」


「何やってるのよ。

あんなほんの少し出しただけの足につまづいて

転ぶの大変だったんだから!」


「だって、イジメなんてした事ないし……」


「それに、私と王子の姿を目で追いながら切なく見つめないと!

可哀想な公爵令嬢をアピールする絶好のチャンスなのに」


と、立場の危うい公爵令嬢がついつい男爵令嬢に

辛く当たるという設定は案外難しい。


……だって、もう王子の事好きではないんだし。

あんなにイチャイチャするのを目の当たりにしてるのだ。

僅かな情も枯れた。



「頑張るのよ、いっそハンカチギリギリ噛み締めながら

キーっと言うとかね!」


「それは勘弁して」


「いいから、やる!私達の幸せな未来のためなんだから!

救済の根回しと手筈は任せといて。

私もこの世界で生きていくために頑張るから!」



そんなこんなで着々と公爵令嬢のイビリは日常化しつつ

いよいよ公爵令嬢がその立場を追われる日が近づいてきた。


公爵令嬢としても、初めは戸惑いながら男爵令嬢に協力していたが

段々とコツも覚えて、誰もが見ても嫉妬に苛まれ

プライド高い公爵令嬢を演じきれた。


小物に豪奢な扇子を使いながら、嘲笑うその姿は

完璧な高慢な公爵令嬢。


男爵令嬢も陰で、親指を立ててくれたぐらいだ。



王家から正式に公爵家に婚約破棄の打診があった。


この頃の公爵令嬢の振る舞いは王太子妃としての資質が疑われる

聖女を王太子妃として立てよ、という神託が下った

という理由。


これは冤罪だ、公爵家を脅かそうとする勢力の陰謀だ、と

婚約破棄を固辞する公爵だが、

公爵令嬢はこれ以上無様になるのは嫌ですと

涙を堪えつつ気丈に申し出を静かに受け止めて

今までの男爵令嬢への振る舞いを詫びた。


令嬢は公爵に二人の愛は真実であり誰も割り込めない。

引き下がるしかない。

それがこの国の安泰である、と告げた。


その真摯な態度と言葉に皆感動する覚えていた。


誇り高い公爵令嬢。

王子が心変わりするまでは、理想的な淑女として

誰もが認める存在だった。



いくら高慢だったとはいえ、

婚約者である王子が他の女性といつも一緒にいるというのは

女性として辛かったに違いない、と一部同情の声が上がった。


公爵令嬢は常に

身分の差を考えろ

婚約者がいる男性と親しげにしてはいけない

と戒めていたのだから。


嫌がらせ行為も些細なもので、

男爵令嬢も大丈夫、私が悪いの、と公爵令嬢を庇った。


王子も初めは父王から奇跡の聖女候補の護衛を頼まれただけであった。


この世界では聖女は厄災を退ける神の申し子であり

精霊と心を通わす唯一無二の存在。

それが自国に降臨したとなれば王家にとっても大いなる意味になる。


男爵令嬢としてもその申し出を断る事は難しい。


常に護衛として身を案じ、

慣れない貴族の学園への手助けと配慮をすれば

王子に恋をする乙女の気持ちも理解できる。


そして飾らない明るく優しい男爵令嬢に

公爵令嬢という婚約者がいながらも

彼女との他愛のない会話やその時間の温かさに心が惹かれ

恋するという事はこんなにも甘美で感情が揺さぶらる事を初めて知った。


時間を共有する時間が長ければやがて親密になっていくのも当然の理。


正式に男爵令嬢は聖女に任命され

愛する人と共に生きたいという王子の強い願いとの

王子を陰日向で支えたいという聖女の想いに

正式に婚約が認められこの恋物語に国民は喜びに湧いた、


喜ばしい報告の場、誰もが祝福する場


失脚寸前の公爵が暴挙に出た。


自ら剣を掲げて聖女に刃を向けた。


聖女を排除しようと暗躍し、そればかりではなく

聖女の命を幾度も狙った事が露見した。

証拠も掴まれ、問答無用で処罰の対象となっていた。


これも全て、あの忌々しい聖女のせいだと

恨みつらみの全てを聖女に向けて。

全てを失う恐怖に公爵は狂気にかられた。



公爵は寸前、驚愕の表情を浮かべたが剣は止まらなかった。


振り下ろすその先、聖女を庇うように飛び込んできたのは

娘である公爵令嬢。


血飛沫を上げて倒れる公爵令嬢。


公爵令嬢は己の命をかけて聖女を守った。



*****


「ちょっと、あそこまでやらないとダメだったわけ?」


「当然でしょ。あれくらいやらないと

あなたの罪帳消しにできないのよ。

それにすぐに回復魔法かけてあげたじゃない」


「 ……すごく痛かったんだけど!」


「まぁ、それで公爵令嬢はお咎めなし

むしろ聖女を救ったという事で

この先出来るだけのバックアップの確約取れたじゃない」


「お父様は、処刑されたけどね」


「そこは、ごめん。でもラストは公爵令嬢じゃなくて公爵の暴挙

になるとはねぇ。」


「まぁ、いくら説得しても無駄だったから自業自得ね」


「で、別天地は隣国に決まったんだって?」


「ええ、客人として王家で迎えてくれるらしいわ」


「ふ、ふ、隣国の王子が是非にってねぇ。

  我が身を投げ出して聖女を救った勇姿に惚れたって噂」


「やめてよ、恥ずかしい」


「また、仕事終わりにビュンと魔力で遊びにいくから

  近況教えてね」


「 ……聖女の力をそんな事に使うには、どうかと思うの」




奇跡の聖女と隣国の王妃は、その後ずっと友情を育み

両国の友愛は末永く続いた。





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