【2】雑な母と世話役息子

 そうしてビルはすくすく育った。


 育つにつれて、ビルは驚くほどにエラにも父親のはずである伯爵にも似ていなかった。


 伯爵と似ていたのは首の根本、本人からでは見えない背中側にぽつんとほくろがあるという所だけだった。


 そして母親であるエラと同じなのは、目の色だけである。

 母子は驚くほどそっくりなピンクの瞳を持っていた。この国では滅多に見ない……というか、ハッキリ言うと同じ目の色を持つ人間に会った事がないぐらい、ない色である。

 お陰でエラとビルが似ていなくても、親子である事を疑う者などいなかった。


 ビルはエラには似ても似つかぬ、素直な子供として育った。


「ママ。おそうじおわったよ。あなあいてたふくぬっておいたよ。ほうちしちゃだめだよ」

「すまねえ」


 どっちが親か分からないぐらい、実は結構かなりテッキトーなエラをビルが世話する姿は、宿屋の常連たちからは親しんだ光景となっていた。


 ちなみにビルが良い子に育ったのは、勿論だが、当然だが、エラの功績ではない。

 ビルの事を本当の孫のようにかわいがり、時に叱り、見守ってくれていた宿屋の主人たちのお陰である。


「おじちゃ、おばちゃ!」


 笑顔でそう慕ってくる子供を邪見に扱えるわけもない。


 ――流石にビルがある程度育つ頃には、エラの仮面も剥がれ落ちており、エラの最初の素性も嘘だとばれていたが、性格が適当なだけでエラは仕事はよく働いた。

 寝る場所と最低限の飯さえ用意すれば、格安の金額でまじめに働くエラと、そのエラにくっつくとってもかわいくて素直な子供であるビルを放り出すような事はしなかった宿屋夫妻のお陰で、エラとビルは、ビルが七歳になるまで平穏無事に育ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る