第12話 安堵

 新しい札を受け取ってから、数日が経った。

 不思議なほど、あの落ち着かない気配は影を潜めていた。夜に部屋で物音がしたり、後ろから足音が聞こえた気がしたり――そういうことが、ぱたりとなくなったのだ。


「……効いてる、のか」


 机の上に置いた札は、墨も濃く、白檀の香りもまだほのかに残っている。折りたたまれ、前より厚みもあるようだ。中に本体を包んでいるらしい。片倉のお祖父さんが、事態を深刻に見て、より強力なものにしてくれたという。本当にありがたい。

 胸の奥にまとわりついていた重苦しさが少しずつ薄れて、代わりに安堵が広がった。


 部室でそのことを話すと、ほのかが嬉しそうに手を叩いた。

「やっぱり片倉さんのお札、すごいですねぇ!」


 綾乃は冷静に頷く。

「“効いている”と感じること自体に意味があるのよ。安心すれば、夜の音や影に過敏にならなくなる。恐怖が減れば、自然と現象も収まったように思えるもの」


「ふふ」

 片倉はにこやかに紅茶を置きながら言った。

「祖父も兄も、相談して良かったと申していました。人の心が護符を完成させるのだと」


 俺はカップを受け取りながら、深く息をついた。

 ――片倉や、その家族が力を貸してくれた。

 そしてなにより、この部室には綾乃も、ほのかも、みんながいる。

 それだけで、世界はこんなに落ち着くんだ。


 束の間の静けさに包まれながら、俺は久々に深く眠れそうな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る