第3話 宿命の道
夜、執務室の片隅でランプが揺れていた。
机の上には羊皮紙のノート。震える指で、アレクシスは必死に記憶を掘り起こしていた。
――ゲーム『アルカディア・アカデミア』。
勇者リオンを操作して仲間を集め、学園を舞台に物語を進める。
そして、中盤の山場である「学園闘技場決闘イベント」。
あのとき、悪役アレクシスは勇者一行の前に立ち塞がり、圧倒的な強さを誇った。
(そうだ……あの時、勇者たちは苦戦していた。リオンですら、何度もHPを半分以上削られ……イザベラの回復がなければ負けていた)
勇者は光属性でバフが強いが、純粋なステータスで比較すれば、中盤の時点でアレクシスの方が上だったのだ。
攻撃力も防御力も、そして魔力までも。
ただ、問題は「無属性の魔法暴走」で自滅するシナリオが固定されていたこと。
アレクシスは羊皮紙に震える手で数値を書き連ねた。
――勇者リオン(中盤)
HP:400 攻撃:120 防御:80 魔力:90
――悪役アレクシス(中盤ボス時)
HP:600 攻撃:80 防御:100 魔力:120 知略:200
(やっぱりだ……数値上は、俺の方が強い。勇者一行は人数で押してきたにすぎない。暴走さえなければ、勝敗は分からなかったはずだ)
アレクシスは自分の胸がどくどくと高鳴るのがわかった。
ゲームを遊んでいた頃は「悪役の強さアピール演出だろ」としか思っていなかった。
だが、今は違う。この世界にいるアレクシスにとって、それは紛れもない現実のデータだ。
「……つまり、俺は勇者よりも強い」
呟いた瞬間、背筋がぞくりと震えた。
さらに思考が先へ進む。
――もしも、ここから鍛え続けたらどうなる?
――もしも、知略だけでなく、体力や魔力の訓練を積んだら?
勇者は光属性の加護を持つ。
それは確かに強力だが、属性に縛られる制約もある。
対して俺の無属性は、「模倣」という形で全ての属性を使える。
確かに器用貧乏だが、裏を返せば制約がないということだ。
(鍛えれば、勇者を凌駕できる……!)
その可能性に気付いた瞬間、胸の奥に熱が灯った。
ゲームで決まっていたはずの破滅の未来。
リリアが死に、自分は暴走して散る結末。
けれど、あれは「鍛えなかった場合」の話だ。
もしも俺が、今日から全てを鍛え直し、解析魔法を磨き上げ、なぜなぜ分析で原因を潰していけば――。
「……運命なんて、簡単に書き換えられる」
拳を握りしめた。
(勇者リオンに負けない。いや、あいつを超えてやる)
脳裏に浮かぶのは、柔らかく微笑むリリアの顔。
彼女を救うためにも、この力を手に入れなければならない。
アレクシスは決めた。
もう「ゲームの悪役」にはならない。
――勇者を超える強さを手にし、この世界を俺自身の手で選び直すと。
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