四姫ライダーのジャスティス

VmarutaX

プロローグ

「工場長が辞める必要は無いですよ。だって、このままじゃ事故が起きるから辞めろって言い続けてきたのは工場長じゃないですか。実際に事故が起きたら、どうして工場長が責任を取らなきゃいけないんですか?」


居酒屋のざわめきの中、胸の奥から突き上げるように声が出てしまった。周囲が振り向くほどの声量で、今日が最後の出勤日だという工場長に向かって言葉をぶつけていた。


思えば、工場長はいつも「安全第一だ。そんなもの、この工場じゃ作れないよ」と愚痴をこぼしながらも、自分に「こんなの設計してくれないか」と頼ってくれる人だった。時には飲みにも誘ってくれ、一人っ子の自分にとっては兄のような存在でもあった。


しかし明日からは、会長の意のままに動く新しい工場長がやって来るのだという。


グランディア精機は一部上場企業。現会長の阿久沢悟が創業し、自動車メーターの設計と製造で成長した会社だ。県内の施設には冠スポンサーとしてその名が刻まれ、地域でも名の知れた存在となっていた。設計部に勤めていた自分にとって、誇りに思う部分もあった。だが――県警にも寄付を繰り返し、警察ですら阿久沢に逆らえない空気があった。


会長の言葉は絶対。その一方で、孫の怜音は仕事もせず悪友と遊び回っているだけで、専務の肩書きを名乗っていた。創業者が築き上げた力強さと比べると、その堕落ぶりは会社の未来を食い潰す亡霊のように映った。そんな会社に未来を託す気にはなれなかった。


工場長の退職をきっかけに、心は決まった。未練はない。きっぱり辞めよう。


親父が湖畔で営んでいる土産物屋兼食堂を改装し、好きなバイクが集まるライダーズカフェを開けばいい。名前は……ライダーズハウス。いや、それじゃ平凡すぎるな。そうだ。お寺の叔母さんと呼ぶ父の妹、順子さん。あの人の頭文字を借りて――J-House。口にしたその響きに、自分でも驚くほど納得していた。

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