第2話 占いの本

今回は第八階層まで降りることになる。ジェイは念入りに荷物を確認した。何も問題がなければ数日で済むだろうが、それ以上かかる可能性も十分にある。


満足するまで確認し、ロビーに降りてくると双子が顔を突き合わして本を読んでいた。最近熱心に読んでいる占いの本だ。明日の昼過ぎには出発するため、今日ぐらいは二人とゆっくり過ごしたかったのだが、仕方がない。ここのところ、何かしているところに声を掛けると酷く怒るのだ。


(気難しくなったのも成長の証かな)


地下で買った教育本の中身を思い出そうとする。確か十代前半から中頃にかけて気難しくなる時期があったはずだが、まだまだ先だと読み流してしまった。自分の頃はどうだっただろうか?確かこの世界に馴染むことと双子の育児に追われ、それどころじゃなかった記憶がある。


(今度ベラさんに聞いてみよう)



◆  ◆  ◆



夕食も終わり、各々好きな時間を過ごしていた頃、玄関のドアが突然開いた。血のように赤い髪をした大男、アウレリウスだ。ジェイの怪我が心配だと、約束の日の前夜だが地上へきてしまったらしい。前回、日に当たり火傷をした反省を踏まえてか、日が落ちてから来たのだと自慢げに言っている。


(火傷、痛そうだったからな)


そう思うジェイとは裏腹に、非常識な時間の訪問者に不機嫌なゲンは「いい躾をされている」と小言を言い、陽気に礼を言われている。双子はアウレリウスの姿を見た途端に自室へ逃げ込んだ。


(前来たときは一緒に朝ごはん食べてたのに)


どうやらお肉の力がなければ一緒にはいられないらしい。ジェイは双子の機嫌取りを後に回し、家主であるゲンに吸血鬼滞在の許可を取ることにした。

二度目だからか頑として頷かないゲンに食い下がっていると、アウレリウスのはしゃいだ声が響く。


「聞いてくれよジェイ!俺たちいい相棒になれるってさ!」


よかったな。と言いかけ、どこかで聞き覚えのある言い回しに動きを止める。振り返ると、双子が置いていった占いの本を捲るアウレリウスの姿があった。声を聞いてか、二階からドタドタと足音が響く。


「あ、アウレリウス!本を置け!それは双子の物だ!」


慌てふためくジェイを尻目にアウレリウスはご機嫌で読み上げていく。


言霊数術ことだますうじゅつってやつによると俺たちの相性は抜群らしいぜ!お前は独立心と行動力をもつ開拓者だそうだ!俺は努力家で堅実らしい!」


どこがだ!ソファにどっかりと腰掛け本を捲り続けるアウレリウスに駆け寄っているとロビーのドアが大きな音を立て開く。血の気が引いたジェイの脇を二つの影が走り抜けた。


「何読んでるのよ!」


双子だ。案の定、かなり怒っている。細い毛を逆立て綿毛のようになっている二人は自分たちよりもはるかに大きいアウレリウスに掴みかかった。


「私たちの本よ!勝手に読まないで!」

「返してよ!このヘンタイ!」


どこでそんな言葉を覚えたのか、アウレリウスを非難し続ける双子を慌てて引き離していると、黙って事の成り行きを見ていたゲンが重々しく口を開いた。


「帰れ」


深読みをする必要もない言葉だ。ゲンは玄関の扉を開けるとアウレリウスを見つめる。嫌に静かな眼差しだ。ジェイは占いの本を取り上げると双子に押しつけ、ぽかんと口を開けたアウレリウスに外で待つように言い渡し、慌てて自室に走った。

用意していた荷物と装備一式を掴み、まだソファにいるアウレリウスを追いたてながら宿泊施設を飛び出す。


「いってきます!」


なんて出発だ。二人はそのまま第八階層へ向かった。





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