第3話 来客
(なんて失礼なことを……)
ジェイは身の内で暴れる羞恥心と罪悪感を持て余しながら、家までの道を歩いていた。
付き合いの長い友人であるソロン。だがその友情も終わりかもしれない。
ジェイはこの世界に落ちてからというものの、友人と喧嘩をしたことが無かった。もうすぐ二十歳になろうかというのに、一度も、だ。
皮肉こそ言いはしても、しこりを残すことを無意識に避けてきた。それなのに。
激しい後悔に、足取りが重くなる。斜めに差しこんでくる太陽の光さえも、ジェイの愚かさを責めているようだ。
いつもより時間をかけて歩く。いつの間にか空は暗くなり始めていた。
暗雲を飲み込んだような気持ちのまま、家である宿泊施設に向かっていると、玄関の前に誰かがいるのが見えた。
(研究者が調査に来たのか?)
まだ時期じゃないはずだ。そう思いながら、どこか見覚えのある血のように赤い髪を見つめていると、その人影はぱっとこちらを向いた。
「ジェイ!」
地下で出会った吸血鬼、アウレリウスだ。
突然の再会に、ジェイは口を半開きにして立ち尽くす。
「やっと会えたな!俺を覚えてるか!?」
アウレリウスは、満面の笑みで手を振りながらそう言った。
忘れるはずがない。こいつは自分の印象の強さを自覚していないようだ。
かける言葉を探しながら近付くと、アウレリウスの顔がやけに赤くなっていることに気付く。注意深く見てみると、顔だけでなくむき出しの腕も赤くなっていた。
何故、そう疑問を持ったところで思い至る。こいつは吸血鬼だ!いつからここにいたのかは知らないが、まだ日は落ちきっていない。
「と、とりあえず中に入れ!」
ジェイは慌てて突っ立っているアウレリウスの腕を引き、玄関を開けた。
◆ ◆ ◆
見た目だけでなく、実際に熱を持っている様子のアウレリウスをロビーに通し、ジェイは慌てて水を用意する。
水を含ませた布をむき出しの腕に当てて冷やしていると、アウレリウスは嬉しそうに笑った。
「久しぶりだな!ジェイ!」
「……久しぶりと言うほどでもないだろ。また会ったな、アウレリウス」
地下の大貴族様が一体なぜここにいるのか。嫌な予感を抱えたまま、アウレリウスに尋ねる。
「もちろん、親友に会いに来たんだ!『またな』って言っただろ!」
予感が的中し、ジェイは項垂れる。
と、その背中に何かがぶつかった。
振り向くと癖毛のミルクブロンドが見える。双子だ。
神経質に耳を動かし、双子は警戒心に満ちた目を客に向けた。
アウレリウスはそんな目に気付かないかのように、顔を冷やしながら呑気に手を挙げている。
ジェイはアウレリウスが双子の外見を特異な目で見ないことに驚いた。
双子は無言でジェイにしがみつく。
視線を巡らせると、ゲンが杖を片手に、静かにこちらに近づいているのがわかった。あの杖は仕込み杖だ。ジェイは背中に嫌な汗が流れるのを自覚した。
(しまった、家にいれる前に一言伝えておくべきだった)
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