再会した幼馴染
桐谷悠真は、自分が「平凡な高校生」だと信じていた。
勉強はそこそこできる。赤点を取ったことは一度もないし、定期テストでは上位に入ることも珍しくなかった。
運動だって嫌いじゃない。バスケットボールや陸上をやらせれば、それなりに活躍できる自信もある。
友人関係も普通。休日にゲーセンへ行ったり、ファストフード店でたむろしたり、他愛ない会話で笑い合う日常。
――そう、どこにでもいる、ごく平凡な高校生。
ただひとつ、他人と決定的に違うところを除いては。
それは、幼馴染の二人が「国民的アイドル」だということだった。
天音ひな。
美月玲奈。
小さな頃からずっと一緒に遊び、同じ小学校に通った幼馴染の二人。
駄菓子屋の十円ガムを取り合い、放課後は公園のブランコで順番をめぐって喧嘩をした。
そんな子たちが――気づけばテレビの中で、眩しい照明を浴びながら笑っていた。
ユニット
ひなの天真爛漫な笑顔と、玲奈のクールビューティーな雰囲気。
まるで正反対の二人が並ぶことで、その存在感は倍増し、あっという間に全国区の人気を獲得した。
悠真はその事実に、いまだ慣れることができなかった。
画面の中で手を振る彼女たちが、かつて自分の隣でランドセルを背負っていた少女と同一人物だなんて。
それを受け入れるには、あまりにも現実離れしすぎていた。
だから、距離を置いた。
中学に入ってすぐ、二人が芸能事務所にスカウトされた時から、悠真は意識的に彼女たちと連絡を絶った。
メールが届いても、返事はしない。
電話が鳴っても、出ない。
すべては「平凡な日常」を守るため。
彼女たちの眩しさに巻き込まれることなく、自分は自分の道を歩こうと決めていた。
……なのに。
「――え?」
入学式の壇上で紹介された新入生の名簿に、その二人の名前が並んでいるのを見た瞬間、悠真は頭を抱えた。
「天音ひなさん、美月玲奈さん。二人は本校に転入し――」
先生の紹介の声が、歓声にかき消される。
「ひなちゃんだ! 本物だ!」
「やばっ、全国ネットで見たことある!」
「え、玲奈さま!? マジでうちの学校に!?」
体育館中が騒然となり、悠真は席で小さくうめいた。
「……マジかよ」
心のどこかで、うすうす予感はしていた。
芸能ニュースで「新しい学校に通うことになりました」とコメントしていたのを、チラッと耳にしたからだ。
だがまさか、それが自分と同じ学校だとは。
そして悪夢は、数時間後にはっきりと現実になる。
――ガラッ。
クラスの扉が開き、教室に入ってきた転校生二人。
ひなは相変わらず明るい笑顔で、玲奈は落ち着いた足取りで。
その瞬間、教室中の空気が一変した。
男子は興奮し、女子は憧れの眼差しを注ぐ。
「すご……」「やば……」「うちのクラス、最強じゃん」
小さな声が飛び交う中――。
「悠真くんっ!」
天音ひなは、ためらいもなく一直線に駆け寄ってきた。
「ひ、ひな……!?」
「やっと会えた! もう、冷たすぎなんだから!」
「ちょ、待っ――」
机に両手をつき、ひなはぐっと顔を近づける。
テレビで見せる笑顔と同じ。でも、どこか違う。
その瞳は、観客に向けられるものではなく、ただ悠真ひとりに向けられていた。
「電話も、メールも、全然返してくれなかったよね?」
「それは……お前が忙しいだろって思ったからで……」
「そんなの関係ない!」
ぱん、と机を叩く音に、周囲の視線が一斉に注がれる。
男子たちは唖然とし、女子たちはどよめき、誰もが「二人の関係性」に気づき始めていた。
――最悪だ。
悠真は内心、額を押さえた。
「ふふ……ひな、はしゃぎすぎ」
背後から落ち着いた声がする。
美月玲奈が、静かに歩み寄ってくる。
長い黒髪がさらりと揺れ、その瞳は涼しげで――けれど、悠真は知っていた。
その奥底には、決して消えない熱が潜んでいることを。
「……久しぶりね、悠真」
「れ、玲奈……」
「もう少し、私のことも見てくれていいんじゃない?」
その声音は優しく、しかし重い。
あの日の記憶が蘇る。
――幼いころ、夕暮れの公園で泣いていた玲奈。
怖がりで、人見知りで、クラスに溶け込めずにいた少女を、悠真はそっと手を引いて帰った。
「大丈夫だよ、俺がいるから」
あの一言を、彼女はいまだに覚えているのだ。
悠真の心臓がどくんと跳ねる。
彼女の視線は、まるで心を縫い止めるかのように強く、逸らすことができない。
「わ、わかった! とにかく席に戻れ! 授業始まるから!」
慌てて二人を押しやり、悠真は必死で平静を装う。
だが教室中の視線は熱を帯び、疑惑と羨望と嫉妬が入り混じる。
「え、幼馴染なの……?」「やば……本気でドラマじゃん」
クラス中がざわつき、もう逃げ道はなかった。
――やめてくれ。俺は、目立ちたくないんだ。
心の中で何度叫んでも、現実は変わらない。
国民的アイドル二人の幼馴染。
その存在は、桐谷悠真の「平凡な日常」を根底から覆していくのだった。
_____
あとがき、
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