第2話:お座敷の裏側、秘密の稽古
## 「芸者デカ ~祇園の夜に咲く秘密~」第二話:お座敷の裏側、秘密の稽古
**【前話までのあらすじ】**
祇園の芸妓・佐知子は、その美貌と芸妓としての腕前とは裏腹に、裏社会の事件を秘密裏に解決する「芸者デカ」。ある夜、芸者体験に来た大学生・佑樹を巻き込み、詐欺師・久保田を逮捕した。しかし、その久保田は、佑樹の大学教授の父親だったという衝撃の事実が判明する。
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**第一章:父と子の再会、そして残された謎**
夜が明け、京都の街は穏やかな朝を迎えている。しかし、祇園の置屋「待機場所」には、昨夜の事件の余韻が残っていた。佑樹は、佐知子に促され、昨夜の事件の張本人である久保田が、京都市内の警察署へ引き渡されるのを見送っていた。
「…パパ、あんなことするなんて…」
佑樹は、まだ信じられないといった表情で呟く。教授は、昨夜の騒動の責任を取る形で、警察の事情聴取を受けていた。佐知子は、そんな佑樹に、冷めた視線を送る。
「…お父さんが、そんなことするなんて、佑樹さんも驚きやったでしょうね。でも、祇園には、表には見えない色んなもんが、ぎょうさん転がっとるんや。…それに、お父さんが、息子さんを思って、何かを隠そうとしたんかもしれん。」
佐知子の言葉には、彼女自身の過去が垣間見えるような、深い響きがあった。
「佐知子さん、昨夜はありがとうございました。あの…先生のパパ、その…」
佑樹が口ごもりながら、教授への複雑な思いを語ろうとすると、佐知子は、指先で静かに彼を制した。
「…ええ。久保田さんは、昔から、貧しい者から金を騙し取るような、悪どい手口を使いはった。でも、そういう人間ほど、自分の身内には甘いんや。今回も、息子さんを助けようとしたんかもしれん。…でも、息子さんが、そんなこと望んでたとは、思えへんな。」
佐知子の言葉に、佑樹は、教授が佐知子に「娘には、もう関わらないでくれ」と忠告していたことを思い出す。
「…教授、昨夜、佐知子さんについて、なんか言ってました…」
「…まあ、そやろな。私らが、祇園の秩序を乱すもんを、黙っとれんのと同じように、彼らも、自分たちの築いたものを、守ろうとするんやろ。」
佐知子は、そんな佑樹の顔を、静かに見つめ、続けた。
「…人は、色んな理由で、間違った道を選んでしまうもんや。大事なのは、その過ちをどう償うか、や。…それに、あの時、何もできなかった私を、もう二度と繰り返したくないんや。」
佐知子の言葉に、佑樹は、彼女の瞳に宿る、強い意志と、秘めたる悲しみを感じ取った。
**第二章:佐知子の秘密、祇園の裏稼業**
佐知子は、佑樹を連れて、置屋「待機場所」へと戻った。そこは、芸妓や舞妓たちが、お座敷に出るまでの間、身支度を整えたり、待機したりする場所だが、佐知子にとっては、もう一つの「仕事場」でもあった。
「…佐知子さん、その…、昨夜の、あの…」
佑樹が口ごもると、佐知子は艶やかな微笑みを返す。
「…昨夜のこと? あれは、まあ、私の…『特殊な趣味』や。」
「特殊な趣味…ですか?」
「せや。まあ、芸妓としての稼業だけでは、この祇園の闇に潜む奴らを、綺麗に仕留めるんは難しい。だから、こうして、ちょっとばかし、裏稼業もやっとるんや。」
佐知子の「裏稼業」とは、警察には頼れない、しかし祇園の秩序や人々の平穏を守るために、秘密裏に行われる「お目付け役」のようなものだった。彼女は、妹分の一人に、昨夜の事件の続報を指示する。
「…あの男、しばらくは大人しくなるやろ。お前たちは、別の件を調べてくれ。」
妹分は、佐知子の指示に力強く頷いた。
「…でも、佐知子さん、そんなことして、危なくないんですか?」
「…危ないのは、表も裏も、一緒や。でも、祇園で働く者、そして祇園を愛する人々が、安心して過ごせるように、誰かがせな、あかんことがあるんや。」
佐知子の言葉は、彼女が背負っているものの重さを物語っていた。佐知子が、妹分たちに指示を出す声は、芸妓の艶やかさと、裏稼業の厳しさを併せ持っていた。
「…無理は禁物やで。」
女将が、佐知子に優しく声をかける。佐知子は、そんな女将に、感謝の意を込めて、小さく頭を下げた。
**第三章:芸者遊びの神髄、佐知子による手ほどき**
佐知子は、佑樹に、本物の「芸者遊び」の奥深さを教えようとしていた。
「…芸者遊びって、ただお酒を飲んで、お話するだけやないんやで。そこには、色んな駆け引きとか、言葉の裏に隠された意味とか、そういうもんがぎょうさん詰まってるんや。」
佐知子は、舞妓や芸妓が使う扇子を手に取り、優雅な舞を披露する。その動き一つ一つに、洗練された美しさと、確かな計算が宿っていた。
「…この扇子、ただの飾りやない。相手の心に、色んな意味を伝えたり、時には、隠したりもするんや。…ほら、この扇の開き方一つで、喜んでるのか、それとも、何か隠してるのか…そういうのが、見えてくるもんなんや。」
佐知子は、佑樹に扇子の扱い方や、お座敷での上品な言葉遣い、そして相手の気持ちを読み取るための「観察術」を、一つ一つ丁寧に教え始めた。
「…へぇ…、芸妓さんって、すごいんですね。」
佑樹は、佐知子の教えに感心しきりだ。佐知子は、そんな佑樹に、さらに興味深い話をする。
「…芸妓も、舞妓も、ただ綺麗に踊って、歌うだけやない。お座敷に上がれば、色んな人たちと出会う。中には、この祇園の裏側で、色々企んでる連中もおる。そういう連中の腹の中を見抜くために、私たちは、常にアンテナを張っとかなあかんのや。」
佐知子の言葉は、佑樹の心に深く響いた。彼は、佐知子という女性の、底知れない魅力と、その背後にある秘密に、ますます惹かれていくのを感じていた。
「…佐知子さん、ありがとうございます。なんか、今まで見ていた世界とは、全然違うものが見えてきました。…先生のパパのこと、佐知子さんが、なんであんなに詳しく…」
佐知子は、佑樹の問いかけに、優しく微笑んだ。
「…ええ。でも、まだまだ、祇園のほんの入り口やで。これから、もっと、色んなもんを見せてあげる。」
佐知子は、佑樹にそう言いながら、その瞳には、昨夜の事件で垣間見せた「芸者デカ」としての鋭い光が、再び灯っていた。その光は、単なる好奇心ではなく、佑樹という存在が、彼女の秘めたる「裏稼業」にとって、無視できない要素となりつつあることを示唆しているようだった。
**第四章:夜の稽古、そして明日の予告**
佐知子の手ほどきを受けながら、佑樹は、芸者遊びの奥深さに触れていた。扇子の扱い、言葉の選び方、そして何よりも、相手の感情を読み取るという、これまで意識したこともなかった「人間観察」の重要性。佐知子の教えは、単なる芸妓の技法にとどまらず、生きていく上での知恵のように佑樹の心に染み込んでいく。
「…佐知子さん、本当にありがとうございます。なんだか、昨日より、佐知子さんのことが、もっと知りたいって思ってきました。」
佑樹は、素直な気持ちを口にする。佐知子は、そんな佑樹の顔を、夜の帳が降り始めた祇園の窓から、静かに見つめていた。
「…まあ、祇園の夜は、まだまだ長いんや。ほんの、入り口の灯りが見えただけやで。」
佐知子の言葉は、佑樹の心に、さらなる好奇心を掻き立てた。
「…さ、もう遅い。寝床、用意しといたで。」
佐知子は、そう言いながら、座敷の隅に手際よく敷かれた布団を指さした。その仕草には、芸妓としての洗練された美しさと、どこか母性のような温かさが滲み出ている。
「えっ、ここで…?」
佑樹は、少し驚いた顔をする。
「…ええ。泊まっていきなはれ。明日も、色々、見せたいもんがある。」
佐知子の瞳には、昨夜の事件で垣間見せた「芸者デカ」としての鋭い光が、再び灯っていた。その光は、単なる好奇心ではなく、佑樹という存在が、彼女の秘めたる「裏稼業」にとって、無視できない要素となりつつあることを示唆しているようだった。
布団に横たわりながら、佑樹は、佐知子という謎めいた女性のことを考えていた。祇園の華やかさの裏に隠された秘密。そして、佐知子自身が抱える、深遠な過去。昨夜の事件は、単なる始まりに過ぎなかったのだ。
「…佐知子さん、一体、何者なんだろう…」
佐知子の言葉が、佑樹の胸に響く。
「…布団、しいてあるで。」
その一言が、佐知子の口から、まるで夜の秘密の合図のように聞こえた。明日は、さらに深い、祇園の闇へと導かれることになるのだろう。
(第二話 了)
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