第2話 自称彼女との初デート

「どうすれば良いんだ……」


 自宅に帰り、小川さんに一方的に彼女宣言されてしまったことに、改めて頭を抱えてしまう。


 嘘だよな……あんなの悪夢でしかないんだけど、どうなっているんだよ?


 彼女は真面目で良い子だと思っていたんだが、あそこまで押しが強い子だったとは……まさか、同じ高校に入学してきたのも俺を追いかけて?


 だとすると、とんでもない行動力だな。ストーカーじみてない?


 小川さんは俺よりも成績が良かったのに、何でウチの高校に来たのかと思っていたが……。



「――っ! 小川さんからか……」


 ラインの着信が着たので、慌ててスマホを見ると、小川さんからメッセージが届いていた。


『ヤッホー、今、時間ある?』


『うん』


『じゃあ、ちょっと話さない?』


 ということで通話に切り替えると、


「どうしたの?」


『んー? 別に。タカちゃんの声が聞きたくなって」


「そう。あのさ、さっきの事だけどさ」


『ああ、デートの事ね。日曜の十時に駅前に集合ね』


 いやいや、そんな勝手に決めないでほしいんだけど……このままズルズルと小川さんのペースに引きずられるのは嫌なので、ここはハッキリとさせないといけない。



「えっとさ。俺達、付き合っているって話だったけど、いつの間にそんな話になっているの?」


『ん? いつの間にとか言われても困るんだけどなー。私がそう思っているから、そういうことになっているんだけど』


 私がそう思っているからって、それはちょっと一方的過ぎやしないかね。


 想像以上に押しが強いというか、ヤバイ女だったので、どう返して良いのかわからない。


「いやさ。気持ちはうれしいんだけど、いきなりそんなことを言われても……」


『いきなりかなー? 私、タカちゃんとは中学の時から、仲良しだったつもりだけど? 席も隣同士だったことあるよね?』


「あ、あるけどさ。だからって、付き合っているって事にはならなくない?」


 確かに小川さんとは中学の時に同じクラスで、席が隣になったこともあるし、クラスメイトの女子の中では仲が良い方だったとは思う。



 沙月と付き合っているつもりだった時は、殆ど意識してなかったけど、まあ明るくて気さくで良い子だなくらいには思っていたさ。


『じゃあ、日曜日にね。そこでゆっくり話をしてあげるから」


「ほ、本当に日曜日に?」


『そうだよ。あ、明日は柔道部の朝練あるから、一緒出来ないんだ。ゴメンねー。それじゃ』


 と告げて、一方的に切ってしまい、俺もしばらく言葉を失ってしまう。



「うおおお……何だよ、これは……」


 勝手に小川さんの方が既成事実を作ろうとしてしまい、更に頭を抱えてしまう。


 何だよこれは……沙月の時より、地味にトラウマになりそうなんだけど、これ。


 明日は小川さんとは朝は一緒じゃないのはむしろ幸いな気すらしてきたが、




 翌日――


「あー、朝練疲れた。タカちゃん、おはよー」


「お、おはよう」


 学校に登校時間ギリギリに到着すると、小川さんが俺にポンと肩を叩いて挨拶をしてきた。


 柔道部の朝練とか大変だな……女子の部員は少ないって聞いたから余計に……ではなくてだな。


「明後日の約束忘れないでね」


「あー、本当に来ないと駄目?」


「は? 何言っているの? 当り前じゃない。もしかして、何か急用できた?」


「いや、そういう訳じゃないんだけど」


「じゃあ、問題ないね。遅れないでね。来なかったら、タカちゃんの家まで迎えに行くから」


「えっ!? お、俺の家知っているの?」


「ん? 知っていて悪い? クラスメイトだし、付き合っているんだしさ」


 クラスメイトだからって、家を知っているのを当然と言われても困るんだが……というか、俺は小川さんの家なんか知らないぞ。



「へへ、楽しみだなー。じゃあ、またね」


 と満面の笑みでニコニコ顔で、自分の席に戻っていく小川さん。


 おいおい、何だよこれは……マジでストーカーみたいな事をやっているのか?


 段々と恐ろしくなってしまい、小川さんに話しかけられるだけで、恐怖やストレスを感じるようにすらなってきてしまった。



 日曜日になり――


「はあ……結局、来てしまった」


 急用でも出来たと聞いてバックレようと思ったが、家に押しかけるとか言われては逃げ場がなさそうなので、止むを得ず、今日一日だけは小川さんに付き合うことにした。


 色々と二人でゆっくり話したい気持ちもあるし……というか、彼女のテンションに合わせるのも疲れるんだが、何とか付き合っているって話は撤回させないと。



「おまたせー」


「あ、小川さん」


 約束の時間の五分前くらいになり、小川さんが俺の前に現れる。


 春物の長袖の白のブラウスにスカートにベレー帽と、カジュアルだが、中々センスが良いファッションでやってきた。


(こうしてみると、本当にファッションモデルみたいだな……)


 背も高いしスタイルも良いし、どっかのファッション雑誌にでも掲載されていてもおかしくなさそうな美人だったので、つい見とれてしまう。


 あれ? 付き合っても悪くないんじゃない、これ?


 というか、俺にはもったいないくらいの美人な気がしてきたんだが……何で小川さんと付き合うの嫌がっていたんだっけ、俺。



「どうしたのジロジロ見て?」


「いやー、小川さんの服、よく似合っているなって思って」


「も、もうっ! 照れるじゃないっ!」


「いたっ! 痛いってっ!」


 素直にそう言うと、小川さんも照れ臭そうにバンバンと俺の背中を叩く。


「あ、ゴメンね。じゃ、行こうか」


 俺の腕をがっしりと掴みながら、小川さんに強引に連れていかれる。


 てか、マジで力強くない、この子?


 一瞬、小川さんの容姿に心を動かされそうになってしまったが、やっぱりこの押しの強さはあかんかもしれない……。



「タカちゃんが観たいって言っていた映画これだよね?」


「あ、ああ……本当に良いの?」


「うん。何で? 遠慮することないじゃない。私も子供の頃、これ見たことはあるし。行こう」


「おう……」


 シネマに到着し、俺が以前に彼女にちょっとだけ見たいと言っていたアニメの映画を見ることになる。


 今、大ヒット中のアニメだし、そんなに恥ずかしがることもないんだけど、何だか俺の好みに合わせてくれたみたいで申し訳ない気分が……。




「うーん、面白かったねー。映像が綺麗で迫力凄かった」


「ああ……」


 二時間くらいの映画が終わり、小川さんも美麗な作画とバトルシーンが気に入ったのか、目を輝かせながら、一緒にシネマを出る。


 映画を見ている間もぎゅっと手を握っていたし、今も腕を強く組んでいて、逃がさないという小川さんの執念は感じてしまった。



「じゃあ、お昼にでもしようか」


「ああ……」


「何? どうしたの?」


「いや、改めて聞くけどさ。俺と付き合っているのマジで言ってる?」


「うん。付き合っているでしょ。でなきゃ、腕組んだりしないし」


 そりゃそうだが、一方的すぎて、流石に困ってしまう。


 やはり、キチンと断わらないと……。



「沙月ちゃんの事、まだ気にしてるんだ」


「えっ! そ、それは……」


 思いもよらぬ名前が出て来たので、ビックリしてしまい、言葉を詰まらせる。


 小川さんも知っていたのかよ! いや、噂になっていたから、知ってて不思議はないんだけど、今まで彼女の口から沙月の話が出たことはなかったので、余計に驚いてしまった。


「私、沙月ちゃんとは小学も同じだったし、私はそんなに嫌いじゃなかったけどさ。もう忘れなよ。あの子より私の方がタカちゃんに相応しい女だよ、絶対に」


「あの……相応しいとか言われても……」


「それに沙月ちゃん、あの後、すぐに彼氏とは別れてんだよ。どっちみちタカちゃんとは長続きしなかったと思うね、うん」 


「えっ!?」


 沙月が既に彼氏と別れているという話を聞いて、更に衝撃を受ける。


 初見なんだけど……

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