第12話 壮絶なる罪状

天井から垂れ下がる木製のシャンデリアを呆然と見ながらシルトアは現実を再確認していた。


(なるほど、2つの問題がそれぞれ別の事件として伝わってるのか・・・・・・)


サラスの言う少女とは無論、シルトアのアーティファクトに宿る神の使いのことであろう。


違法アーティファクトには神の使いが宿ることは無く、そもそも少女の姿をした神の使いなどいる筈がない。

その常識がひとつの問題だった筈のものを、別々の問題に切り分けてしまったのだ。


結果シルトアは違法アーティファクトに手を出した上、年端もいかない少女を誘拐した変態趣味の違法物所持者。

という不名誉極まりない認識を騎士団にされてまったのだ、冷ややかな態度もこれが原因だろう。



(一先ず弁明しないと、少なくとも幼女趣味の変態というレッテルだけはここで!!!)


現状と最優先事項を整理したシルトアは、思いつく限りの言葉で弁明を行った。


「あぁ〜 その少女なんだが。 えっと実は神の使い、なんだよ・・・・・・」

「貴様、言い訳にしても見苦しいぞ」

「いや、本当なんだって!」

「少女の姿をした神の使いなんて与太話、誰が信じるものか!」

「それは俺が1番思ってるよ!!」


(駄目だ話が通じねぇ! 心做しかヤツらの目つきがさっきより冷たくなってる気がするし・・・・・・)


平行線に続く口論に終わりは見えず、遂に痺れを切らしたのか控えていた騎士がシルトアに近づき取り抑えに掛かる。


その時、場にいた誰もが思わず聞き入ってしまいたくなるような心地よい声音がギルドに響いたのである。


「マスター、何を慌てふためいているのですか?」


騎士も冒険者も関係無く皆一様に声の出処へ目を向ける、その先には。



神の使いである少女が朝の定番であるベーコンエッグセットの皿を手に、頬にパンくずを付けたまま顔色一つ変えずに佇んでいた。


(なんで食ってんだよ・・・・・・)


そんなことをシルトア思っていると、誰よりも真っ先にサラスが声を上げる。


「君は報告にあった子じゃないか! もう大丈夫だからな! 辛かったろうに・・・・・・」


サラスはすぐさま少女に駆け寄ると、目線の高さにしゃがみ込み肩を優しく掴んだ。

シルトアの時とは打って代わり、柔らかな口調で心配の声をかける姿には先程までの冷徹さは微塵も感じられない。


「いいかい? 君は一先ず彼から離れるんだ」

「拒否、私はマスターの所有物です。 離れることはできません」

「なっ!?」


到底幼い少女の口から放たれるとは思えない衝撃の言葉、それはサラスを絶句させるには充分だった。


(おっと、これはまずい)


瞬間空気が沸騰したのをシルトアは確かに感じた。

サラスは再びこちらに向き直ると、殺意を具現化させたような怒りの形相でシルトアに迫る。

揺らめく彼女の紅の長髪は、さながら燃えたぎる業火の如き苛烈さを見せていた。


「貴様、こんな穢れを知らない少女に何という事を!!」

「待て待て待て!!」

「いいや、待たない!!」


詰め寄る彼女には最早如何なる弁明も耳に届かない。


「見てみろ彼女の顔を! まだ幼いと言うのに貴様の所業によって感情を失ってしまったのだ。 貴様には人の心が無いのか!?」

「いやあの、それは元からって言うか──」


(冗談じゃない! どうしてこうなった! というかほんとに洒落にならない!!)


否定したくとも言われてみればそう思えてしまう要素ばかりで、弁明を並べる度に傷が深くなっているような気さえする。

もはやどこから誤解を解けばいいのかすらも分からずシルトアは目を回してしまっていた。


すると眼前に迫ったサラスは腰に提げた剣を抜き放ちシルトアに突き付ける。

その様子に後ろに控えていた騎士も流石に焦ったのか彼女に静止をかけようとしたが、彼女から溢れる怒気は誰であろうと近寄らせない威圧感を放っていた。


「もはや如何なる弁明も不要だ! 今ここで拘束し本部へと連行する!!」


その時である。


「っ!?」


目を丸くし驚愕の声を上げるサラス。

彼女は剣に少女が触れようとした為すぐに引き戻した。

だが引き戻したはずの剣は手に握られておらず、眼前の少女の小さな手の中にあったのだ。


「忠告、マスターに仇なす存在に私は容赦しませんよ」


そして少女はより冷たい無感情な声と視線をサラスに向け、片手で掴んだ剣の刀身を直角に折り曲げ彼女の足元へと落としたのである。

金属が軋むという滅多に聞かないような音が響き渡り、サラスは思わず後ずさる。



「君は・・・・・・ 本当に?」

「はい、私はあなた方の言う神の使いです。 この回答では不充分ですか?」


驚きで腰が抜けたサラスは折れた剣と少女に交互に目を向け、そう尋ねた。

それでも尚、彼女の瞳は一切の瞬きをすることなく少女を捉えている。


(一先ず神の使いだとは信じてもらえたみたいだな・・・・・・)


「悪い、助かった」

「いえ、マスターを守ることは私の役目です」


安堵したシルトアは少女に礼を伝えると、そのままサラスに歩み寄り様子を伺う。


「えっと、大丈夫か?」

「あ、あぁ」


呆然とした様子の彼女はシルトアの言葉に答えるものの、まだ頭の整理がついていない様子。


「本当に、神の使いだとは・・・・・・」

「あぁ、俺もやっと慣れ始めたところだからな」


先程までの剣幕はどこへ失せたのか、シルトアに対する彼女の表情と声色は比較的穏やかに感じられた。


するとサラスは深呼吸をするとシルトアを正面に見据え向き直る。


「君を変態と罵ったこと、ここに謝罪する」


サラスは躊躇うことなくシルトアに向けて頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。


恐らく根は生真面目で優しい性格なのだろう、あれだけ憤慨するのも民を思ってのこと。

安堵はすれど彼女を一方的に責めることは出来ない。


「顔を上げてくれ、俺がもしあんたの立場なら同じように思っただろうからな」

「・・・・・・感謝する」


(良かった、何とかこのまま終われそうだな。 強制連行は流石にごめんだ)



出頭と違い強制連行は文字通り騎士の手によって連行されるのだ、手枷も嵌められるので道中では否が応でも目立つ。

仮に無罪だとしても犯罪者同然の扱いをされれば住民の目にどう映るかは明白だろう。


よって強制連行よりも自分の意思で行ける出頭命令の方が、心象的に幾分かマシなのだ。



だがこの様子なら問題無いだろうと、シルトアは胸を撫で下ろし口を開く。


「じゃあ、誘拐の疑いは晴れたんだし強制連行は取り消しで出頭になるってことで── 」

「何を勘違いしている?」


(ん・・・・・・ ?)


「確かに少女誘拐という疑惑は晴れた、だがそれによって残る問題に新たな不安材料が加わった」


穏やかな空気は一変、彼女はまたしても鋭い眼差しをシルトアに向ける。


「他に類を見ない防具を模したアーティファクトに加えて少女の姿をした神の使い、以上を加味し出頭命令は変更のままとする」

「ってことは結局連行されるのかよ・・・・・・」


シルトアが苦い顔で分かりやすく落胆していると、対照的にサラスは不敵な笑みを浮かべた。


「連行では無い」

「え?」

「君にはこれから私と1対1の審問を行ってもらう、分かりやすく言うなら"決闘"だ。 無論拒否は認めん」




「・・・・・・は?」


予想だにしていなかった言葉にまたしてもシルトアの思考は止まってしまったのだった────


















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