第3話:氷とペン先の侵略
【SE:雨音が止み、静寂が支配する。ただ、兄の穏やかな寝息だけが響く。】
姉B: (ひそひそ声)見て、兄さん。私たちの愛の耳かきが効いたみたい。さっきより、もっと深く眠ってる。
妹A: (小声で)うん。顔も、なんだか安らかに見える。本当に良かった……。
姉B: (満足そうに)じゃあ、次はメインイベントだよ。眉毛の……いや、顔のアートだ。
妹A: (緊張した声で)アート……。なんだか、改めて聞くとドキドキするね。
姉B: (興奮気味に)大丈夫。これは、兄さんの新たな可能性を引き出すための、「魂の解放」だから。さあ、ペンシルだ!
妹A: (ひそひそ声)ま、待って!いきなりペンシルは怖いよ!まずは、練習……練習からにしよう!
姉B: (不満そうに)練習?
妹A: (小声で)うん。これ、冷蔵庫から持ってきた氷。まずは、この氷で、兄さんの顔に、ひんやりって感触だけを試してみようよ。本番の前に、兄さんのリアクションを見ておきたい。
姉B: (感心したように)なるほど。それはいいアイデアだ。兄さんの五感に訴えかける、「知覚の扉」を開くための実験だね。
妹A: (きょとんとして)知覚の扉……?
姉B: (真剣な声で)そうだよ!兄さんは今、眠りの向こう側にいる。その眠りの扉を、私たちはこの氷で叩くんだ。さあ、扉を叩け、妹ちゃん!
【SE:氷がカチャリ、と音を立てる。】
妹A: (ひそひそ声、ためらいがちに)……わ、わかった。
【SE:氷が、兄の頬に、ツン、と触れる。】
【SE:兄が、んん、と小さくうなる。】
妹A: (パニック)うわっ! やっぱ動いた! 氷、嫌だったのかな?
姉B: (冷静に、しかし早口で)いや、違う! これは、氷の冷たさが兄さんの魂に直接語りかけているんだ! 今、兄さんの夢の中では、壮大な叙事詩が始まっているに違いない!
妹A: (混乱)叙事詩?
姉B: (右耳で)きっと今、夢の中で兄さんは凍った山を登っている! これはその山頂の、凍てつく空気を感じた合図だ!
妹A: (左耳で)違う! これは夢の中で、兄さんが私たちに「氷は美味しいけど、食べ過ぎたらお腹壊すよ」って教えてくれてるんだよ!
【SE:二人の声が重なり、何を言っているのか聞き取れない。】
姉B: (怒ったように、ひそひそ声で)ちょっと待って、妹ちゃん! なんで美味しいお菓子に結びつけるの!?
妹A: (同じように怒って)だって、いつもそうじゃん! 兄さんって、そういうとこあるじゃん!
【SE:二人のひそひそ声が激しく、早口になる。二つの声が重なり合い、何を言っているのか聞き取れない。】
姉B: (一瞬の間)……ごめん。
妹A: (同じタイミングで)……ごめん、お姉ちゃん。
【SE:二人が同時に謝り、ふふ、と笑いあう。】
姉B: (仕切り直し)よし。じゃあ、本番だ。ペンシルとチークブラシ!
妹A: (小声で)ペンシル……。お姉ちゃん、本当に富士山を描くの?
姉B: (興奮して)もちろん! 富士山以外に何があるっていうの? 日本の象徴だよ? いや、待って。日本だけじゃもったいない。世界遺産だ、世界遺産! ピラミッドとか、万里の長城とか、全部描いたら……。
妹A: (呆れて)顔が大変なことになるよ!
姉B: (止まらない)じゃあ、偉人はどう? 織田信長とか、坂本龍馬とか、顔に描いたら、兄さん自身がその偉人になった気分になってくれるかも!
妹A: (少し乗り気になって)それなら、いっそのことドラえもんにしたらどうかな?ほら、丸い顔で、ほっぺたにヒゲを描いて……。
姉B: (同時に、全く別の妄想を始める)いや、それよりも歴史偉人シリーズはどう?兄さん、歴史好きじゃん。織田信長とか、坂本龍馬とか、顔に描いたら、兄さん自身がその偉人になった気分になってくれるかも!
妹A: (姉の妄想にかぶせて)ドラえもんだって、すごくない?もし、兄さんがドラえもんになったら、ポケットから何を出してくれるかな?私は「お兄ちゃんに怒られない道具」が欲しい!
姉B: (妹の声を無視して)信長だよ!信長!眉毛を太く、キリッとさせて、あの特徴的なヒゲを口元に……
妹A: (姉の声にかぶせて)ドラえもん!ドラえもんが一番!
姉B: (怒ったように、ひそひそ声で)ちょっと待って、妹ちゃん!私の話も聞いてよ!
妹A: (同じように怒って)お姉ちゃんこそ!私にだけ話させてくれないじゃん!
【SE:二人のひそひそ声が激しく、早口になる。二つの声が重なり合い、何を言っているのか聞き取れない。】
姉B: (一瞬の間)……あ、ごめん。
妹A: (同じタイミングで)……ごめん、お姉ちゃん。
【SE:二人が同時に謝り、ふふ、と笑いをこらえあう。】
姉B: (仕切り直し)よし。じゃあ、最終決定。眉毛を繋げる。これはこれでシンプルで面白いもんね。
妹A: (納得したように)うん、そうする。
姉B: (ひそひそ声、もう一度熱っぽく)じゃあ、そのための道具。このペンシルは、ただの文房具じゃない。これは兄さんの眠りに立ち向かうための聖なる剣(エクスカリバー)だ。兄さんの眠りという名の魔物を倒すための、唯一の武器。
妹A: (クスッと笑いながら)……お姉ちゃん、そういうとこ、ほんと面白いね。
姉B: (満足そうに)よし、じゃあ、実行開始!
【SE:二人のひそひそ声が再び遠ざかる。】
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