鈴鳴りの洞窟。

 入り口は普通の洞窟だが、中に入ると青白く輝く鉱石があちこちに生えており、

そこへ水が滴り落ちて反響することで、鈴が鳴るような音に聞こえるのだ。


 中には、魔物がほとんど生息していない。

 その理由は地底湖に住みついている水竜の存在だ。魔物は基本的に、自分よりも強い者の住処や縄張りに近付かないのだ。


 だから、地底湖まで近付き過ぎなければ、ここはそこまで危険な場所ではない。

 今回の依頼のように、水竜の元へ卵を返しに行くのでなければ、シャーリーと自分だけで問題ないくらいだ。


 そんなことを考えながら、ルグランは先頭を歩く。隣にはシャーリーが、後ろには冒険者仲間の二人が続いていた。


「はは~、いやぁ、しっかし、水竜の卵を盗むなんて、馬鹿なことしたよな~」

「そうよねぇ。水竜って温厚だけど、怒ると一番怖いもの」


 最初の声が戦士のシド、二人目の声が魔法使いのアイシャだ。歳は二人共に三十歳で、ルグランがたまに一緒に依頼をこなしている冒険者である。


「悪かったな、面倒事に巻き込んじまって」


 ルグランは二人を振り返り、そう謝罪する。

 すると二人は「お互い様さ」と笑った。


「俺も前に、厄介な依頼を手伝ってもらったことあったし。あれさぁ、めーっちゃ助かったのよ」

「私もよ。ルグランったら本当に頼りになるんだから、本当にありがたかったわ」

「おいおい。そんなにおだてたって、何も出ないぞ」


 そんなやり取りをしているとシャーリーが、


「皆様、仲良しなのでございますね」


 と、どこか楽しげに言った。


「そうだな、こいつらとは付き合って長いから。確か……十五年くらいだったか?」

「そうそう。俺達がひよっこの時に、ルグランに面倒見てもらってさぁ」

「面倒っていうか、あんたがルグランに喧嘩を売ったのよ」

「うっ」

「喧嘩でございますか?」


 シャーリーの目が丸くなる。

 シドは気まずそうに視線を彷徨わせて、


「……若気の至りで」


 とだけ言った。思わずルグランは苦笑する。


「身の丈に合わない依頼を受けようとして揉めていたから、ちょっと口を挟んじまったんだ。それで怒らせちまってな」


 まぁ、よくある話である。

 そして勝負を挑まれ、返り討ちにして、それから度々それが続き――だんだんと仲良くなったというわけだ。


「その度に、あたしがシドを引き摺って宿に帰ったのよ」

「アイシャ様がですか?」

「そう。あたし、こいつの幼馴染でねぇ。一緒に冒険者になったんだけど……血の気が多くて困っていたのよ。ルグランのおかげで、冷静に物を見れるようになったから、すごく感謝しているわ」

「なるほどー……」


 アイシャの話を聞いて、シャーリーが納得したように頷いた。


「ルグラン様はその頃から、面倒見が良いのでございますね」


 ルグランを見上げて、感心したように言うシャーリー。


「よせやい」


 ルグランは三人から順番に褒められたせいで、照れてしまって、指で頬をかいた。



 * * *


 鈴鳴りの洞窟内は、少々入り組んでいる。

 そのため、考え無しに進むと迷って出られなくなってしまうのだが、今回はシャーリーという心強い案内人がいる。

 シャーリーはすいすいと前へ進んでいく。

 その迷いのない足取りにルグランは、


(相変わらず見事なもんだ)


 と感心していた。

 ルグランも、何度も行ったことのある場所であれば、迷うことはない。けれども、状況によっては足を止めて悩むことはある。

 しかしシャーリーには、それがない。まるですべてを把握しているかのように、周囲の状況を見て、即座にどちらへ向かうのがベストか判断しているのだ。

 並大抵の努力や経験で出来ることではない。

 それはシドとアイシャも思ったようで、


「シャーリーちゃんすごいなぁ」

「本当本当。今度、お仕事を依頼しようかしら」


 なんて話している。

 シャーリーへの仕事が増えるのは良いことだと、ルグランは小さく笑う。

 それに、この二人ならば人格面でも問題がない。一見年下に見えるシャーリーに対しても、ちゃんと礼節を持って接してくれるだろう。

 そんなことを考えていると、


「皆様、そろそろ目的地の地底湖でございます」


 シャーリーがそう言った。

 その言葉に、ルグラン達はぴりり、と気を引き締める。


「分かった。慎重に行こう」

「オーケイ。作戦の確認だが、酒飴を投げて食べさせて、酔っぱらわせた隙に卵を置いて逃げる、でいいよな?」

「ああ、その通りだ」


 ルグランは頷いてみせる。

 酒飴というのは、名前通りお酒の飴だ。と言っても、お酒の味や風味を楽しむ飴ではない。

 アルコール分を凝縮させたもので、ひと舐めすればあっと言う間に酔っぱらってしまう。とんでもなくアルコール度数の高い飴なのだ。シドが言ったような方法で、魔物を酔わせて弱体化させるために使われることが多い。 

 これを水竜の近くへばら撒くか、口の中へ放り込むかして酔わせるのが、今回の作戦である。


「上手く行くと良いんだがなぁ」

「どうかしらね。水竜、ぜったいにカンカンよ」

「だろうなぁ……」


 何せ、自分の卵が盗まれたのである。心穏やかにいてくれるはずがない。

 ――しかし、他に方法はない。

 怒り狂った水竜に「卵を返しに来たので襲わないでください」なんて通用しないのだ。

 ルグラン達が取れる方法で、一番確実なのが酒飴だ。


(上手く行きますように)


 心の中でそう願いながら、ルグラン達は地底湖の方へ降りて行った。

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