ルグランが冒険者になりたての頃は、同い年くらいの若者は大勢いた。しかし、今ではその数もだんだん減っている。


 理由は『割に合わない』からだ。


 冒険者ギルドを通じて受ける依頼にはランクがある。ランクが高くなればなるだけ、報酬は上がるが仕事の危険度や難易度は増すのだ。


 とんでもなくランクの高い依頼をこなせる腕の立つ冒険者は限られているし、そうでない者たちが挑戦しようとしても、ギルド側から「危ない」と判断され、逆に断られる。


 自分たちの力量に見合った依頼を受けるべし、という言葉が冒険者の間にはあるくらいだ。

 実際にルグランも、最初の内はそうやってコツコツ依頼をこなし、評判を積み重ねていった。

 そのおかげで今では難しいランクの依頼も任せてもらえている。


(ただ最近は、積み重ねるだけの依頼が足りていないんだよなぁ)


 報酬も難しさも『ちょうど良い』依頼には、当然ながら人が殺到する。早い者勝ちみたいなものだ。

 残っているのはランクが低めに設定された依頼だけ。


 もちろん、そこから新たな依頼に繋がることがあるので、ルグランもたまに引き受けることはあるが、当然ながら報酬は安い。

 しかしそれでは生活が出来ないと、冒険者稼業を辞めていった者も多く見てきた。


(死活問題だからな。俺もそれは分かる)


 何のために冒険者になったかは人それぞれだ。

 だが冒険者を続けるには金が要る。それがなければ夢も目標もどうにもならない。


 若い世代は特にそうだ。早めに辞めて、他の職を探した方が安心だ――後輩からそんな話を聞いたこともある。

 中には自分たちで冒険者ギルドのような組織を立ち上げる者もいるが、方々で揉め事を起こしているという噂も聞く。


 そんな事情で冒険者は減り、平均年齢層も上がってきた。

 先ほどのレイチェルの台詞はそういう状況を示している。


 冒険者ギルドへ依頼を出す者がいる限り、冒険者はいなくならない。

 それでも今まで通りというわけにはいかないだろう。


 後輩に道を譲り、後を託すのも、先輩の役割なのかもしれない。

 おっさんと呼ばれる年齢になったルグランは、たまにそう思うようになった。



 * * *



 冒険者ギルドの職員たちの忙しさが、ようやくひと段落した後。

 『道案内』を依頼しに来たレイチェルは、シャーリーと共に別室へと呼ばれた。


 ついでに、何故かその場に、ルグランも同席することになった。

 その理由はレイチェルの行きたい場所にあった。


「不死者の古城へ道案内をお願いしたいんです」


 彼女はギルドマスターにそう話したのである。

 不死者の古城というのは、北にある深い森の奥に建つ古い城だ。


 かつて城主が病で死んだ妻を蘇らせようとして、死霊魔術ネクロマンシーに手を出して失敗。城の人間すべてが死に、スケルトンとなって永遠に彷徨い続けている。


 定期的に精霊教会から聖職者が派遣されて、浄化作業が行われているが、どうにも城全体が呪われているらしく、しばらくすると元に戻ってしまうのだ。


 ルグランも不死者の古城に、浄化作業の護衛で何度か同行したことがあるのだが、以前に倒したことのある外見的特徴を持ったスケルトンが復活していて、吃驚したものだ。


(あそこの不死者アンデッドには、もう意識はないみたいだが……)


 何度殺されても死ねないのは、さぞ辛かろうと思いながら、ルグランはちらりとシャーリーを見た。彼女はいつも通りの表情を浮かべたままだった。


 そんなことを考えていたら、ルグランは紳士的で伊達物と評判のギルドマスターに「ルグランさんも一緒に来てください」と呼ばれてしまったのである。


(そりゃ、そうだよなぁ)


 ルグランは心の中でため息を吐く。それからちらりとレイチェルへ目を遣った。


 見たところ、レイチェルはごくごく普通のお嬢さんだ。見た目で判断するのは良くないものの、不死者の古城なんて敵がうようよしている場所へ行くには不安が残る。

 そしてシャーリーは戦えない。つまりは護衛役がいるのでは、とギルドマスターは考えたのだろう。


(ま、ちょうど手が空いているからいいけどな)


 そう思っていると、


「何故そこへ行きたいのか、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ギルドマスターはそう質問した。ルグランも道案内を頼んだ時に訊かれたが、念のための確認なのだそうだ。


 人によっては、死ぬ場所を求めて危険な場所へ向かう者もいるらしい。

 その説明を聞いた時は「そりゃそうだ」とルグランは思ったが、シャーリーの事情を知った今は、ギルドマスターの言葉に違う意味を感じた。


(シャーリーは道案内だ。行って帰って来るまでが、あの子の仕事なんだ)


 だからこそギルドマスターは、帰って来る気のない者の道案内を、彼女にさせたくないのだろう。


「私、古城の城主様に、演奏を贈りたいんです」


 するとレイチェルはそう答えた。


「演奏ですか?」


 ギルドマスターは僅かに首を傾げる。


「はい。あの人たちはずっと長い間、呪いで空へ昇ることが出来ない。もしかしたら、鎮魂歌レクエイムなら効くんじゃないかな~って……。城主様が空へ昇れたら呪いが解けて、他の人たちも休めることが出来るって聞いたんです」

「もしかしてレイチェルさんは、精霊楽師なのですか?」

「え、えへへ、そう見えないでしょうけれど、はい……」


 レイチェルはこくりと頷いた。


 精霊楽師とは、精霊教会に所属する音楽家だ。

 主な役割は精霊教会の行事などで音楽を演奏することだが、その中には稀に、演奏に浄化の力を宿すことが出来る者もいると言う。

 そして演奏による浄化は、魔術による浄化よりもはるかに深い場所――魂へ届くらしい。


 不死者の古城に彷徨うスケルトンたちは、城主を含めて何度浄化しても空へ昇ることは出来なかった。

 しかし、浄化の演奏を試したという話は聞かない。近辺の精霊教会に精霊楽師がいなかったからだ。


(まさかこの子が……)


 ルグランが目を丸くしていると、レイチェルは胸に手を当てて、


「私、そのために精霊楽師になったんです。どうか、よろしくお願いしますっ」


 と頭を下げたのだった。

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