7-2 取り繕う本性(後編)
「どうだった、軍曹ちゃん。」
『はっ! 会話内容は少尉殿もお聞きになっていたと思いますが、特に問題等見受けられませんでした。監視カメラデータなども同様です。未だその原因は謎ですが、砂賊に関しては既に解決していると判断していいかと。』
「だねぇ。」
2機のドレッドが並走しながら、町へと向かう道を走る。
そのコックピットの中では、少し不甲斐なさそうな顔をする軍曹と、気の抜けた顔をしながらも常に頭を回し続けている少尉の姿があった。
軍曹の言うように、セファは善良な市民として自身の拠点や“見せて良いもの”をほぼすべて開示していった。ドレッドの所持に必要な書類はもちろん、ミミズなどの現住生物の討伐に必要な狩猟免許や店舗経営に必要な許可証などなど。一般的な市民がなぁなぁで済ましているようなものでさえ、『何かあった時に持っていなければ不利益になるから』ということで前々から色々と用意していた『私』によって完璧な提示が行われた。
本人からすればトラブル回避のためだが、日々周囲とのギャップに悩む軍曹ちゃんには強く刺さったようで……。
『最近は車両運転用の免許すら取らずに乗り回している方がいるというのに。あれだけ正確に申請をして下さり、提示してくださった方は初めてかもしれません。そ、そんな善良な方に信用して頂けない私たちは一体どこまで落ちぶれて……。』
「ま、まぁまぁ軍曹ちゃん。そう落ち込まないで、ね?」
セファと対話していた時の鉄面皮かと思われるような表情はどこへいったのやら、大きく表情を動かし落ち込む彼女。
何せ彼女からすれば、そんな善良な市民が『不信な投棄物を発見したが自分で処理』し『身を護るために軍を頼らず自力で何とかしようとした』のだから。
本来軍や行政が処理すべき案件を、頼りにならないからと個人で何とかしてしまう。軍を含めてその多くが機能しなくなっていること、そしてそれを市民が受け入れてしまっていることは、軍曹ちゃんの心に大きなダメージを与えていた。
ちなみに彼女達が聞かされたセファの筋書きは、こうである。
ミミズを討伐し血や肉を販売する彼女は、自然とその血や肉を加工する必要がある。巨大なギアディスクでミミズ肉を解体したり、血をタンクに移動させたり。作業にはとても大きな音が発生し、自然と周囲への警戒は薄くなるのだ。
数日前に巨大ミミズを討伐できた彼女は大喜びし、店番をドロイドたちに任せ解体作業に入っていた。一応店に誰かやってきた時の為にドロイドに店番を任せたり、センサーを貼ってはいるため誰か来たら流石に解るが、騒音が大きく作業に集中していたのでお店の外で何か起きても気が付けないかもしれない。
実際何かしらの破片を見つけたのは今朝のことになり、とりあえず景観を壊すので処分し、何か怖い生物が隠れているのかもしれないとドレッドを外に出して整備しながら警戒していた、という形だ。
(まぁ実際、軍曹ちゃんのデバイス越しだけどあの解体道具? の音はとんでもなく大きかった。ずっとあの作業をしていたのなら、外で何が起きても解らないだろうね。……うん、良く出来たお話だ。疑い深いわけじゃないけど、ルールに厳格で真っ当な軍人である彼女が『あの店主は無関係』って思うぐらいには、筋が通っている。)
『ッ! 少尉殿! こうなれば少しこの辺りをパトロールしてから帰りましょう! 失った信頼を取り戻すのは難しいかと思いますが、ここで何かしなければずっと不信感を抱かせてしまいます!』
「あーうん。でも中佐さんがね? ある程度情報集まったら帰って来るように言ってたからねぇ。今日は帰って、後日また二人でご挨拶&パトロールって感じにしようよ。気持ちは凄い解るんだけどね?」
『……は! 了解しました!』
若干の不満を目に宿らせながらも、すぐに軍人として返答した軍曹ちゃんを横目に、より思考を深めていく少尉。
早い話、彼はセファの提示した話を信用しきっていなかった。それは不真面目ながらも軍歴を全うし続けてきた彼の勘によるものであり、その軍歴の中で手に入れたドレッドに対する知識によるものだった。
(あのドレッド、多分ニホン系の“風防”製あたりのものだと思うけど。かなり改造の跡が見えたよねぇ。出してた武装も上手く隠してたけど、あれ確実に実弾が出る奴。)
腐敗によって軍が市民を守らないのであれば、市民が自己を守るために武力に手を伸ばすことは間違いではない。少尉もその辺りは既に飲み込んであり、大量破壊兵器等持っていなければ、特に目くじらを立てる必要はないと思っていた。ドレッドの改造もそうである。
しかしながら……、その改造の腕が、良すぎるとなれば話は別だ。
(個々人でかなりの技術力を持っているって可能性がないわけでもないけど……。普通に考えれば、企業のバックアップを受けているって考えるべきだよねぇ。郊外の給油所のオーナーが持つレベルじゃなかったし。つまり軍曹ちゃんが聞かされた話は、ほぼ全部ブラフ。)
ミミズ肉などが実際にあったことから嘘ではないこともあるのだろうが、『作業に集中していて近くに砂賊がいたこと』、『その砂賊が壊滅するレベルの戦闘に気が付かなかった』のは確実に嘘だろうと判断する少尉。その撃滅を彼女個人がやったのか、それとも彼女が所属する他の人間がやったのかは解らないが、とにかく何かしらが裏にあることは、確かだと少尉は考えていた。
そしてどこまで上に報告すればいいか、ということも。
(最悪、あのオーナーちゃんのことも伏せた方がいいかもなぁ。後ろに企業、イプシロンがいたらもう激ヤバ案件。適当に現住生物に喰われてたっていう証拠捏造して……、いやでも流石のサンドラインも捏造か否かの判別ぐらいはして来るか。ここはもう完全に『無能』な軍人演じるしかないなぁ。)
「……あー、そうだ軍曹ちゃん。報告書の件だけど、僕が纏めるから駐屯地で一回証拠品とか任せてくれない? ついでに後日パトロールの申請もしちゃうから。」
『は!』
ーーーーーーー
〇惑星ザイオラにおける統治体制
入植当時から軍部の権力が強いが、比較的現代日本に通ずるもの統治体制を取っている。しかしながらサンドライン商会の力が強くなったことや、同一の政党が政権を握り続けたりしたことから腐敗が浸食。軍のみならず行政なども強い腐敗が進んでいる。実際セファが各種書類や免許を手に入れる際に、かなりの額の賄賂が必要になったことから真面な仕事は殆どしていない。
長くこの状態が続いたせいか市民も軍や行政にあまり期待しおらず、部分的な無政府状態に陥ったり、商会による新たな統治体制が敷かれている町が多い。そのためセファの様に全部しっかり申請したりするのはかなり珍しく、『アタシ』の方も若干「そこまでやらなくていいんじゃねぇの?」と思っていたが今回結構役に立ったようなので「意味あったんだなぁ」と思っている。
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