第16話 うっ血女子と血色わるい王子⑥

 京浜急行電鉄久里浜線けいひんきゅうこうでんてつくりはませんYRP野比駅ワイアールピーのびえきを降りると野比のびのび太の家があるという。


 そんな馬鹿な。


「おれの二十四番目の女・アンジェラがそう言ったのだ。アニメの家にそっくりな家が本当にあるというのだ。のび太も住んでいないか、いつか確かめようと思っている」


「アンジェ……日本人よね?」

「ああ。岡山出身でclubシャングリラのナンバー2だ」


「YRBって?」(注1)

寄る辺よるべなき、野比のび太。ドラえもん抜きの、のび太。この世で最も無力で惨めな存在」


真面目まじめに」

「知らん。たぶんYMCAキッズ英語みたいなものだろう」


「また英語塾。英語のない世界を。ドラえもーん」


「タケコプターも、どこでもドアも、いらない」

 世良彌堂せらみどうが赤錆びた太い鉄柱に寄りかかった。

「頼むから、こいつを動かしてくれ」


 丘の上まで数十メートル間隔で同じ鉄柱が立っていた。

 冬期はこれにワイヤーロープが張られリフトが吊るされていたが、それももう十年前の話だ。


「おれはもう疲れた」

「わたしだって疲れたよ。もうこの辺でいいでしょう?」

「いや、まだだ。まだ高度が足りない」




 鎌倉の病院を訪れ、チホの実家へ直行した日から三日後のことである。

 二人は新幹線とバスを乗り継いで、ここ長野県の山間部までやって来た。


 今二人が立っているのは、傾斜角二十五度の廃止された元スキー場。

 眼下には、さびれた集落が広がっている。


 世良彌堂せらみどうが、鎌倉の病院の背後を探っていて、この地を突き止めたのだ。


 近隣の野沢温泉村は、インバウンド需要をうまく取り込み、外国人客でうるおっているが、むしろ特殊な例と言えるだろう。

 昨今は若年層の減少で、長野のスキー場はどこも閑散として、営業廃止も珍しくない。

 

 初夏を迎えた高原は、緑とまぶしい光があふれていたが、人気ひとけはほとんどなく、閉まっている宿もちらほらと見受けられた。


「わたしはもういいでしょう? ここで待ってるから、彌堂君だけで登ってよ」

「ダメだ。一緒に来てもらう」


 世良彌堂の頬はほんのりとピンクに染まって、いつもより血行がよく見える。

 かぶっているベースボールキャップが白のせいもあるが、やはりこの斜面がきついのだ。


「何で? 登ったって、わたしの目じゃ何も見えないよ」

「おまえが来ないと、おれの話し相手がいない」

「寂しがり。コドモ」

「いずれみ殺す。すべてが片づいてからな」

「コドモ詐欺師」

「ふん。今は生かしておいてやる」


 関東各地で倒産した温泉宿、リゾートホテルを買い漁っている企業がある。


 買収した建物を高いフェンスで覆い、特に改装もせず、営業も再開させず、閉鎖したまま放置しているという。


 世良彌堂はそのうちの一か所が、この高原の元温泉ホテルであることを突き止めていた。


「……真実を貫き通す〈万物を丸裸にする目セラミッド・アイ〉の類稀たぐいまれな眼力と洞察力によって」

「疲れるからやめて」


 元温泉ホテルを買い取ったのは「株式会社ブラッドウィル」。

 あの鎌倉の療養施設の運営母体でもあった。


 そればかりではない。


 ブラッドウィル社は、千葉県南房総にある「龍翔りょうしゅう会・医療法人社団 きりこし総合病院」の系列企業。

 総病院長・霧輿龍三郎きりこしりゅうざぶろうは現吸血者協会理事長・霧輿龍次郎きりこしりゅうじろうの実弟である。


「別に普通だと思うけど」

「けど、何だ?」

「だから……」


 チホは立ち止って額の汗を拭いた。

 傾斜がきつい上に、茂った草が絡みついたり、滑って歩きにくい。

 こんな山登りになるなら、もっとしっかりしたアウトドア向きの靴があったのに。


「鎌倉の病院みたいなのをあっちこっちに造るつもりなんでしょう。イトマキ症まだまだ増えそうだし。高齢化社会で脳神経外科とかリハビリセンターが潤うのと同じ理屈よね。ちょっと商魂逞しょうこんたくましいとは思うけど」


「おまえには直感というものがないな。表の世界と裏の世界が、怪しい兄弟でつながっている。何かあるに決まっているだろう」


「霧輿さんは理事長だから、それは何かあるでしょう。理事長権限の随意契約ずいいけいやくのファミリー企業で、一儲けとか。よくある利権構造じゃない」


「おまえ、大丈夫か? 急に語彙ごいが複雑化してきたようだが」


「このくらい社会の常識でしょう。今まで幾つの会社で働いたと思ってるのよ。コドモ詐欺師と一緒にしないで」


「まあ、いいさ。おれは協会を私物化する霧輿一派を告発したいわけではない。協会及びおまえたち協会員がどうなろうと知ったことではないからな。だが、やつらの振る舞いには不審な点が多い。ここには何かある。イトマキ症をめぐる巨大な謎が隠されている。それが知りたいのだ」


「ふーん。いくら探っても、霧輿さんのお金儲けしか出てこないと思うけどな」

「じゃあ、何故なぜついてきた?」

「え」


「気になるのだろう。おれの〈万物を丸裸にする目セラミッド・アイ〉が見通す先にあるものが。庶民には計りしれないこの世の真の姿が、な」


「何言ってるのよ。あんたがしつこく頼むからついて来てやったんじゃない。保護者だよ、わたし。確かにこんなところで子供がふらふらしてたら、たちまち補導されちゃうからね」


「ふん。じゃあ、せいぜい付添つきそいらしくおれの世話を焼くことだ」


 もういいだろう、と世良彌堂。

 チホも斜面に立ち止まってホッと息をついた。


 ここは夏草が茂る、元上級者コースだった斜面のちょうど中ほどだ。

 二人は改めて眼下の集落に目をやった。


 チホの目には点在する大小の温泉宿の影がぼんやりと映った。

 そのうちの一つ、青いフェンスで囲われている中規模のホテルがターゲットだ。


「どう? 見えるの?」

「うむ。なるほど」

「ねえ。どうなのよ。何が見えるの?」


「よし。わかった」

 世良彌堂は真顔で振り向いた。

「もう少し上に行こうか」


 やだ、とチホは断る。

「もう無理」

 ただ立っているだけでも体力が石ころのように転がり落ちていく斜面である。


「困ったやつだな。じゃあ、おまえの手を貸せ」

「手?」

「右手だ。シオマネキの出番だ」


 てのひらに載って、建物をもっとよく見たいという。

 チホに火の見櫓ひのみやぐらになれというのだ。


「おい、詐欺師。靴、脱げよ」

「これはすまない。庶民はそうするのだったな」


 帽子とお揃いの白いハイカットのスニーカーを脱ぐ世良彌堂。

 それを忌々いまいましげに見下ろすチホ。


「落っこちても知らないからね」

「そんなドジは踏まない」


 世良彌堂はチホの肩に手を置き、チホの右のてのひらに、幅の細い小さな片足をかけた。


「やってくれ」

「ああもう。何でこんな山で大道芸をしなきゃならないのよ」


 チホが持ち上げた。

 世良彌堂は両手を広げ、片足を軸にバランスを取った。


 世良彌堂が両足をそろえて、てのひらに直立すると、チホはその手をそっと高く掲げていった。


「どうなの?」


 世良彌堂は黙っている。チホは見上げたが、日射しが眩しく何も見えない。


「ちょっと、教えてよ。そこから、何が見えるの?」

「少し、黙っていろ」

「腕が疲れたんだけど。あと十秒ね」


「……何てことだ」


「教えて。言わないと、丘の下までぶん投げるよ」

「おまえ、アリの巣を見たことがあるか?」

「あるけど」

「巣を壊したことは?」

「あると思うけど……それが?」

「崩れた巣の中で、働きアリが豆粒みたいなサナギを抱えて、右往左往していただろう?」

「それ、何の話? 回りくどいよ。見たままでお願い」


「何てことだ……」


 嘆息たんそくする世良彌堂。

 それきり黙り込んでしまった。


「自分だけ、ずるい……」

「まずい」

「今度は何?」

「双眼鏡でこちらをのぞいている男がいる……指示を与えている……これは、まずい」

「どうなってるの?」

「降ろせ」

「もう、勝手すぎるんだけど……」


 チホが降ろすと世良彌堂が緑ざめていた。

 ただでさえ青白い顔が、更に血の気が失せて緑色っぽくなっていた。


「逃げるぞ」

「逃げる?」

「いや、ダメだ。もう遅い。見ろ」


 世良彌堂が指さすほうを見ると、何かこちらへ飛んでくるものがあった。


「何、あれ?」

「ドローンだ……」


 何枚かプロペラが回転しているでっかい虫みたいな飛行物体が丘を登ってくる。


「農業用のものらしいな。攻撃用に改造しているかもしれないが」

「写真とか撮られるのかな」

「写真は殺してからでも撮れる」

「まさか」


 ドローンは想像以上に早く、たちまち二人に追いついてしまった。


「ちょっと、逃げなくて平気なの!?」


「おもしろい」

 世良彌堂があきらめの笑顔で答えた。

「どこへ逃げるんだ?」

 

 攻撃が始まった。


 ドローンがブンブン、

 ハチの大群みたいなうなり声を上げながら、

 低空で二人目がけて突っ込んでくる。


 それと同時に、何か黒っぽい液体を噴射していった。


 チホは、きゃーきゃー言いながらあたりを逃げ回った。


 世良彌堂は、動かない。

 噴射を浴びながら、無言でドローンをにらみつけていた。


 数分後、二人とも同じくらいに黒く汚されてしまった。


「もう、何なのよ。真っ黒けじゃない。嫌がらせ? どういうこと?」


チホは息を切らせながらつぶやいた。


「この黒いの、何? 絵具? 墨汁? イカ墨?」

「では、ないだろうな」


 世良彌堂の帽子も靴も汚れ放題だ。


「まだ生きているところを見ると、即効性ではない猛毒なのか。さもなければ、遅効性の猛毒なのか」

「同じじゃない。やだ。これ、毒なの?」


 二人は去っていくドローンを見詰めていた。


 ドローンは残りの液体を捨てるようにノズルから黒い飛沫を噴射しながら丘を降りていった。


 丘の下に車が止まっていた。

 車の横に立ち、ゲーム機で遊んでいるように見える人が、ドローンを操作してたのだろう。


「抗議してこよう」

「それより、辞世じせいの句でも考えておけ」


 丘の下にトラックがやってきた。

 三台停まって、中から人がわらわら降りてきた。


  全部で百人は下らない。


 丘をゆっくり、登り始めた。


 やけに、ゆっくり、ゆっくりだ。


「ちょっと……」

 チホはあとずさった。

「ちょっと、ちょっと、これ、やばいんじゃないの」


「総勢110名」

 世良彌堂が〈万物を丸裸にする目セラミッド・アイ〉で即座に数え上げた。

「いや、111名か」


「人数はいいから。あの人たちは何なの?」

「おそらく、ここの温泉街の皆さんだろうな」

「何で、こっちへ来るの?」


 100名を超える人々が、ゆっくりと、丘を上がってきた。


「なるほど。これは土か」

 黒く染まったシャツの袖を凝視する世良彌堂。

土壌どじょうのエキスを濃縮した液体だ。考えたな……」


「感心してる場合じゃないでしょう。あの人たちってまさか?」

「そう。だ」

「ということは、やばいじゃん。このままだと、食べられちゃうんじゃないの!?」

「おまえ、人生の最期の最期に、頭脳が冴え渡ったな。めてやる。ドンビのドをゾにする裏技が、これだ」


 ゾンビ化したSES患者たちが自分を食べにこちらへやって来るらしい。


 チホはバッグに手を突っ込んでスマホを取り出そうとした。


「今から、長野県警に助けを求めるつもりか?」

「そうだけど」

「間に合うわけないだろう。いざという時には役に立たないのが警察と保険会社というものだ。安心感が本質で、実利に乏しい。一般論だが」

「じゃあどうするのよ!」

「さあな」

 世良彌堂は他人事ひとごとのように言った。


「待って。わたし、これ持ってる……」

 チホはショルダーバッグからドンビ用の忌避きひスプレーを取り出した。

「これがあれば」


「フロンガスR22か。千葉県以外ではご法度はっとの物質だ。長野県警が黙っていない」

「これを振りまいて、そのすきに下へ逃げよう」

「おまえにしては、いい作戦だが、無駄だろうな。やつらの鼻を見ろ。見えないのか。鼻のあなに何やらプラグのような物体が差し込まれている。おそらく、フロンに反応しない処置がほどこされているのだろう」


「じゃあ、もう上に逃げようよ、丘の上に。早く!」

「戦わないのか? おまえにはシオマネキの右手があるじゃないか。温泉街の狂った村人を黄金の右腕でちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」

「無理だよ、あんな大勢」

「そこの鉄柱を引き抜いて、ぶんぶん振り回して、大立ち回りを演じてみせろよ。協会が映画化してくれるかもしれない。低予算のB級ホラーだが」


「もう、真面目に! そうだ。これさ、服を脱いだら、いいんじゃない? 顔も、きれいに落としたら、あれ?」

顔を手でぬぐうと更に黒く汚れが広がってしまった。

「脱げよ。斜めの草原を真っ裸で逃げ回れ。おれ以外の皆さんはきっと大喜びだ」


「ねえ。どうするのよ。わたし、嫌だよ。こんな田舎の斜面で死ぬの」

「だから、辞世の句を考えろ。一世一代の名句を。時間はまだある。丘の天辺まで逃げるのもありだ。くたびれもうけになることけ合いだが」


「彌堂君!」

「おまえの自由にしろ」

「もう……あんたのせいだよ……」

「悪かった。諦めろ」


 チホが地面を探り始めた。


「おい。落とし穴でも掘るのか?」

「あんたも探して。石よ。石!」

「石? あいつらに投げつけるのか?」

「おはじき。右の指で弾くの」

「ほう。おまえ、指弾しだん使いか。それを早く言え」


 世良彌堂も石を探し始めた。

 しかし、元ゲレンデのくさむらには石がまったくない。


「何でもいいのよ。ビー玉でもパチンコ玉でも……」


「うん? これは何だ?」

 世良彌堂がポケットから何か取り出した。

「ピスタチオだ。からが割れなかったやつだが、いつの間にポケットに?」


 貸して、と世良彌堂の手から奪って、左手に載せ、チホは一番接近しているコック帽を被った板前らしい男に照準を合わせた。


「まだちょっと、遠いかも……」

 距離は約二十メートル。


「ええい、行っちゃえ!」

 弾いた。


 頬に、びーんと当たった。

 顔をのけ反らせる板前。


「やった!」


 板前は一瞬、立ち止ったが、また動き始めた。


「何だ。威力はのび太の空気ピストル以下か。がっかりだな」


「全然ダメ。もっと重いやつ。石よ、石。何でここには石がないのよ!」

万策ばんさく尽きたな。でんじろう先生の空気砲でも難しい状況だ」

「あった! え、軽石かよ……」

「もう諦めろ。民衆に殺されるのも、貴族の仕事のうちだ」

「王子は黙って死んで。わたし、庶民だから」

「おまえも民衆の生血をすすって生きてきたのだろう。殺される資格はあるさ」


 ドンビの先頭集団が、十メートル圏内まで近寄っていた。


 仲居さん風、温泉コンパニオン風、旅館の袢纏はんてんを羽織った従業員風のドンビたちが、やや前傾姿勢で叢をずりっずりっと迫ってくる。


 世良彌堂は目を閉じて黙って立っている。

 チホは丘の上まで逃げようか迷っていた。


 高速ゾンビではなく、古典的なゆっくりゾンビなので、ぎりぎりで逃げてもまだ間に合う。

 しかし、この山中をどこまで逃げればいいのだろうか。


「ええ……野沢菜のざわなや 温泉饅頭おんせんまんじゅう 土饅頭どまんじゅう。うーむ。いまいちか。野沢菜や 温泉饅頭 ピスタチオ。彌堂。まあまあか。野沢菜の、いや、湯煙りの、夏風や、夏嵐……」

 世良彌堂は、本当に辞世の句をひねっていた。


 チホがやけくそ気味に靴先で地面を穿うがっていると、電話だ。


 非通知。


「はい」

 チホは石を探しながら電話に出た。

「誰?」


「チホ。危ないから地面に伏せて。セラミド君も伏せさせて」

「何? どういうこと?」

「電気で突風とっぷうおこせそう。ちょっとやってみるから、吹き飛ばされないように気をつけて」

 スマホの画面に青白い女子高校生の画像が浮かび上がっていた。

「え、何でここにいるの?」

 画像が舌を出してウインクした。

「世界は電気でつながっているんだよ」

 

 ズッどーーん、と丘の上のほうで大きな音がした。


 振り向くと、尾根おねを走る高圧線が青白く光っていた。


 バリバリバリバリバリ、と青い火花が散った。


 グゥゥゥごおぉぉぉーーー、と耳をつんざく風音が響いてきた。


「彌堂君!」


 チホは左手を伸ばして、世良彌堂を引き寄せた。

 二人は叢に倒れ込んだ。


 ぶおーん、うぉーん、うぉん、うぉん、おんおんおん、と大きな空気の塊が地面に伏せた二人の上を追い越していった。

 

 チホが叢から顔を上げると、ドンビが数体、ばたん、ごろん、ごろんと斜面を転がり落ちていくのが見えた。


 ほかのドンビは、すべて丘の下で折り重なり、吹き溜まりになっていた。


 停まっていた車は、土埃つちぼこりの中を数回転して、ちょうど止まったところだ。


 トラックも、横倒しになっていた。


 チホは立ち上がった。


 振り向くと、丘の上の高圧線の鉄塔が一本、青白く燃えていた。


 天に向かって半透明の巨大な制服姿がそびえている。


「見たか! 庶民ども」

 世良彌堂が立ち上がった。

「これがカミカゼだ!」


 わァァーー。


 突然、ボーイソプラノで叫び出す、世良彌堂。


「彌堂君!?」

「走れ! チホ! 地の底まで駆け抜けろ!!」


 わァァーー。


 かぶっていたキャップはどこかへ吹き飛ばされてしまったようだ。

 金髪の巻き毛を振り乱した少年が、叫びながら斜めの草原を、跳ねるように駆け下りていった。

 

 チホは丘の上の巨大な女子高校生に手を振った。


 わァァーー。


 チホも叫びながら走り始めた。


 夏草の斜面を駆け下りていく世良彌堂の姿は、すでにピスタチオの豆のように小さくなっている。(注2)


 チホは、その背中を追い駆けた。


 わァァーー。わァァーー。



 二人は叫びながら緑の丘を駆け下りていった。

 


(つづく)











(注1)

正しくは「YRP野比駅」である。チホはアルファベットが三文字以上つづくと高い確率で間違えてしまう。「YRP」とは、横須賀 (Yokosuka)・リサーチ(Research)・パーク (Park) の頭文字。世良彌堂はすぐに間違いに気づいたが疲れていて面倒だったのと、「YRB」から咄嗟に連想した「寄る辺なき」というフレーズが気に入ったのであえて訂正しなかった。


(注2)

筒井康隆の超短編『傾斜』からのインスパイア。『傾斜』はわずか1ページの作品。家族団らん中に一人ずつ「わー」と叫びながら走り出すだけの怪作。筒井先生はそんな夢を見たらしい。

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